24 チビったかも・・
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
感謝です。
「あちらです」
エルフが手で指示してくれる。
緑の葉っぱがたくさん見える大きな木が3本あった。
「あの木の中に、精霊王がおられます」
エルフがそう言いながら案内してくれる。
大きな木のところまで来た。
遠くからは3本に見えていたが、奥の方ではつながっているようだ。
その真ん中のところに入り口がある。
エルフに連れられて通過。
中は明るいオレンジ色と言えばいいのだろうか、どこかのロッジの中の大きな空間が広がっていた。
装飾品などは一切ない。
ただ、木の空間が広がっている感じだ。
すると、どこからともなく声が近づいて来る。
「エルフの子よ、この者たちは誰ですか?」
「あ、精霊王様、ただいま戻りました。 はい、この者たちはヴァヴェル様、ヘルヘイム様の客人のようでございます」
「おぉ、ついに現れたのですね。 それは良かった」
そう声がしたかと思うと、俺たちの前に光の粒が集まって来る。
その光の粒がキラキラと輝き形を成していった。
人型の大人の女性のような感じになる。
「ようこそおいでくださいました。 私はフリッグと申します。 歓迎いたします、救世主様」
きゅ、救世主?
何言ってるんだ、この人・・俺は不吉な感じを覚える。
「あの、フリッグさん・・俺たちは地上から飛ばされてきたのですが・・」
俺がそう話始めようとすると、フリッグが微笑みながら答える。
「えぇ、わかりますわ。 ヴァヴェル様とヘルヘイム様のところ通過されて来られた方です。 救世主様ですわ」
・・・
なんか調子狂うな。
変な感じではないが。
フリッグがニコニコしながら、その場でテーブルと椅子をパッと出していた。
「どうぞお掛けください。 エルフの子もどうぞ」
フリッグはそう言って俺たちに座るように手を差し出す。
「あ、はい、失礼します」
エルフは緊張しながらも席につく。
俺たちも席につかせてもらう。
ルナは相変わらずマイペースで、当然のように座っていた。
フリッグが飲み物を淹れてくれる。
白いきれいなカップに紅茶色の飲み物が注がれている。
「これは精霊族のハーブティです。 どうぞお召し上がりください」
フリッグが微笑みながらスッと俺たちの前に出してくれた。
俺は取りあえず一口すすってみる。
!
特に味があるわけではないが、身体になじむ感じがする。
お茶でも紅茶でもない。
何だろう?
だが、嫌な感じではない。
「お気に召しましたか? 少々の身体の不具合などはこれで回復いたします」
フリッグがそう言って俺たちを見つめていた。
「お客人、どこか不思議な感じがいたします」
フリッグそう言う。
俺は飲むのをやめてフリッグに向かって話し出す。
「フリッグさん、俺たちを救世主だと言ってましたね。 俺たちはただ自分たちのところへ帰還したいだけなのです」
フリッグが微笑みながら答える。
「はい、わかります。 どのような事情で、この世界に飛ばされたのかわかりませんが、今この世界は魔素が滞留しております。 溢れるほど魔素があるはずなのですが、流れが悪いのです。 それに気づいたときには、それらを解決するほどの力が、我々には残されておりませんでした。 そこで我ら人ならざるものは集まり、細々と生をつないで来ております。 ヴァヴェル様たちのところでも聞かれたかと思いますが、人種が魔素の独占を狙っているようなのです。 魔素は流れ循環してこそ魔素となるのですが、それが実体として確保されようとしているようです。 これでは魔素の暴走が起こるでしょう。 人種は魔力の元などと考えているようですが、そんな単純なものではありません。 魔素によって生かされているものがコントロールできるようなものではないのです・・」
フリッグが流暢に話している。
俺は途中で話を遮った。
「ちょ、ちょっと待ってください、フリッグさん。 魔素のことはよくわかりませんが、それが俺たちとどう関係しているのですか?」
フリッグは目を大きくしてにっこりと微笑む。
「いや、これは失礼しました。 ついついうれしくなり、余計なことを言ってしまいましたね。 申し訳ありません。 この世界の均衡を戻すために、あなた方が呼ばれたのだと思います。 そして、それが終われば自然と元のところへ帰還できると思われます」
フリッグが簡単に言ってくれる。
「・・自然と帰還できる・・」
俺はその言葉をつぶやいていた。
「えぇ、そうです」
フリッグは言う。
ん?
ということは、それを解決しないと帰れないということか?
何というところに呼んでくれたんだ。
俺は少し変な気持ちになる。
「フリッグさん、それってあまりにも勝手過ぎる考えじゃありませんか?」
俺は言ってみる。
「そうですわね。 ですが、皆さまどの生き物も自分勝手に生きておりませんか? 自分がわからないだけで、相手は理不尽を感じ続けているのかもしれません。 我々の種族のように長い間・・」
フリッグは微笑みながら、飲み物を飲む。
俺は言葉を出せなかった。
確かにその通りだ。
自分が良いと思った行動でも、誰かに迷惑をかけているだろう。
一つの個体が生きるということは、自分以外の誰かの犠牲の上に成り立っている。
それは間違いない。
一口食べる食べ物も、その食材の命を奪う。
呼吸を行うのも、空気をかすめ取っている。
・・際限がないな。
俺は自嘲した。
「フリッグさん、確かにその通りですね。 我々がその魔素循環を戻すことが一番の解決策のようですね」
俺がそう答えると、フリッグが立ち上がって言う。
「お客人、本当に申し訳ありません。 我々に力があれば、我々で解決することです。 ですが、それがわかった時には力を失っておりました。 ご迷惑でしょうが、よろしくお願いします」
フリッグは深々と頭を下げていた。
「い、いえ、フリッグさん。 頭を上げてください。 俺たちは地上へ帰れればそれでいいのです。 それに帰る方法がわかっただけでも安心しました。 こちらこそ何をどうすればいいのかわかりませんが、よろしくお願いします」
なんかうまくまとめられた感じだが、それ以外に方法はないようだ。
フリッグは席に着き、俺たちに微笑む。
「お客人、まだお名前を聞いておりませんでしたね」
フリッグがそう言いながら俺を見る。
俺はすぐに自己紹介をした。
「あ、そうでしたね、申し遅れました。 俺、いや私はテツといいます。 そして、こちらが・・」
俺がそう言いながらルナの方を見ると、ルナが発言する。
「ルナだ」
ルナの言葉を聞きながら、フリッグが首を傾げていた。
「・・ルナ・・ルナ・・」
フリッグがブツブツとつぶやいている。
!
フリッグの顔が少し驚いたような顔になる。
「ルナというお名前・・その雰囲気もそうですが、もしかして夜の王と呼ばれる方の眷属様ですか?」
フリッグがルナに訊く。
ルナは笑いながら答える。
「フフ・・眷属か。 まぁ、そんなところだ」
フリッグが驚いていた。
この精霊王、初めて驚いた表情を見せたな。
俺は飲み物を飲みながらそう思って見ていた。
「なるほど・・それでこの世界に呼ばれたわけが納得できました。 それほどの方ならば、問題を解決できましょう」
フリッグがうなずきながら言うと、ルナが言葉を発する。
「精霊王よ、このワシの横にいるテツも、今のワシよりも強大な力を持っているぞ」
ちょ、ちょっとルナさん!
そんな余計なことは言わなくていいのです。
私はあなたの従者を演じていると楽なのですよ。
心の声です、はい。
フリッグがさらに驚いていた。
「まさか・・」
エルフは最初から今まで、黙ってひたすら飲み物を飲んでいるだけだった。
「テツよ、あの光るやつを見せてやれ」
ルナが言う。
「またですか? なんか困った時の何とやらですね」
俺は笑いながらも、ルナの言う通りにする。
俺は席を立ち、息を吐く。
「ふぅ・・ハッ!」
俺の身体が金色の混じった白い光に包まれる。
フリッグがその場で椅子から転げ落ちていた。
エルフはヒャッと小さな声を発している。
フリッグが椅子に座り直し、俺を見て言う。
「なんと神々しい・・かのクイーンバハムート様のようです」
震える両手を伸ばしながら、俺に祈りを捧げる仕草をする。
やめろ、やめろ!
俺はそう思い、急いで神光気を解く。
エルフが椅子にジッと座って、何やら小声でつぶやいていた。
「・・チビったかも・・」
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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