表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/236

23 悪魔だ

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

感謝です。



俺は軽く避け、その矢の飛んで来た方向に一気に移動。

もちろんルナに負担をかけることなく移動。

弓を片手にした人がいた。

薄い霧が立ち込めているので、はっきりとは見えない。

ただ、俺が目の前に現れると、ビクッッッ!! としていた。

カラン・・弓を落とす。

慌てて弓を拾って、俺に照準を向けようとするが震えている。

俺は軽く手をはたいた。

「キャ!」


キャ?

女の声?

何だ?

俺は弓を落とした腕を押さえながら、その場で片膝をついている人の顔を覗き込んだ。

「き、貴様・・精霊族の領域に何の用だ?」

女の人の声でしゃべりかけてくる。

ん?

そして驚いた。

エルフだ。

耳が長い。

端正な顔立ち。

フレイアほどではないが、美人だ。


だが、残念なことにペッタンだった。

これは同じか。

「ふぅ・・」

俺がため息混じりに残念そうな顔をすると、エルフが言う。

「貴様・・私の言うことが聞こえなかったのか。 この領域にいったい何の用だと聞いている。 それに何か失礼なことを考えているな」

「お前、エルフだろ? それにいきなり人に矢を撃ってきて・・俺じゃなければ死んでたぞ」

残念な気持ちが抜けないまま俺は言ってみる。

「だ、黙れ! この領域に侵入するものは敵とみなしていいと言われている。 それに、精霊族を守るのは我のつとめだ」

エルフは胸を張って言う。


改めて俺は見つめる。

・・・

ダメだ。

無い・・全くボリュームがない。

「貴様、どこを見ている。 私の質問に答えぬか!」

エルフは少し怒っているようだ。

「ふぅ・・あのね、俺はヴァヴェルさんからここを紹介されてきたんだ。 それをいきなり弓で撃ってくるなんて・・」

俺は少し嫌味的に言ってみる。

こういう輩は、権力に弱いんじゃないのか?

責任感が強く、使命感を持っている奴ってそんなのが多いような気がする。

それに早とちりのような感じだ。

いきなり確認もせずに弓を撃ってきたからな。


効果はテキメンだった。

「ヴァ、ヴァヴェル様の・・そんな・・いや、しかし・・」

エルフは焦っているような、考えているような、忙しそうだ。

俺は畳み掛ける。

「あのさぁ、この精霊族の領域って、ヘルヘイムさんやヴァヴェルさんのところに守られているんだろ? それにそこを通過しないと来れないんじゃなかったっけ? それをいきなり弓矢で撃ってくるって、ちょっと考えればまずは確認するだろう?」

エルフは忙しそうな雰囲気だったが、いきなり硬直していた。

そのまま動かない。


俺はエルフの目の前で手を振ってみる。

・・・

反応なし。

気絶しているようだ。

パン、パン!

エルフの頬を軽く弾いてみた。

エルフはハッとなり、俺を見る。

ルナは背中で寝息を立てている。

「確かに・・貴殿の言う通りだ。 私が間違っていた。 本当にすまない」

エルフは深々と頭を下げ、俺に謝罪をしてくれた。

なんだ、案外素直なんだな。

それはいいことだ。

「わかってくれればいいよ。 それよりもエルフさん。 精霊族の長に会いたいのだが・・」

俺がそういうと、エルフは俺の顔を見る。

「精霊王様に会いたいと言うのですか? 理由を伺ってもいいですか?」

やけに丁寧な口調になったな。


俺は今まで話して来た通りのことを話す。

・・・・

・・

「なるほど・・地上から来られたのですか。 信じがたいことですが、ヘルヘイム様とヴァヴェル様の領域を通過されていますし、精霊王様に会うには問題ありません」

エルフはそう言って、俺たちを案内してくれると言う。


俺はルナを背負い、エルフの後をついて行く。

俺たちの周りには薄い霧が立ち込めていて、晴れることはない。

しばらく歩いていると、小さな声が聞こえてくる。

『ねぇねぇ、あれって人間?』

『人間?』

『違うわよ、悪魔よ、悪魔!』

『悪魔よ、悪魔』

『うふふ・・迷ってしまえばいいのに』

『いいのに』

『変な感じね』

『変な感じだわ』

『黒い髪の女って人じゃないわよ』

『人じゃないわよ』

・・・

・・

「なぁ、さっきから変な小さな声が聞こえるんだが・・」

俺はエルフに聞いてみた。

「あ、その声ですか。 精霊たちの会話ですよ。 別に害意があるわけではありません。 お気になさらないように」

エルフは言う。

害意がないって、あるだろ!


ルナは全く起きる気配はない。

俺の背中でよく眠っている。


お気になさらないようにって言ってもなぁ。

耳元でささやくかと思うと、遠くで聞こえるような感じがする。

変な感覚だが、自分のいる位置を狂わされそうになる。

「お客人、私にきちんとついて来てくださいね。 迷ってしまうと霧の中から出られなくなりますよ」

エルフは言う。

もしかして、このささやきって侵入者を迷子にさせるためのものなのかな?

でも、ここって安全地帯だろうに・・俺はそう思ってみるが、慣習というのは抜けないものだからな。

今まではそうやって精霊族を守って来たのだろうなとも考えていた。


「あちらです」

エルフが俺の方を向いて手で方向を示してくれる。

「あの木の間を抜けたら、精霊族の里です」

俺たちはエルフの後をついて木の間を抜けた。

抜けるとすぐに視界が開ける。

見た瞬間に思った。

桃源郷。

見たことはないが、理想的な春のみやこのような感じを受ける。

その場にいるだけでほんわかとして、気持ちいい感じがする。

俺がそんなことを感じていると、背中の方がモゾモゾする。

「・・うぅ~ん・・よく寝たぁ」

ルナが両手を伸ばして起きたようだ。

「ん? ここは・・テツ、どこなのだ?」

ルナさん、あんたねぇ・・ほんとに楽ばっかりして。

心の声です。


「ルナさん、今ついたところなんですが、精霊族の里みたいですよ。 彼女が案内してくれました」

俺はそう言ってエルフを紹介する。

ルナは俺の背中から降り、エルフをじっくりと上から下まで見る。

エルフが少し引いていた。

胸の前で両手を組んで、無い胸を隠すような仕草をする。

「ふむ・・エルフよ、お主子供のエルフだな」

「な、な、なんですか、いきなり! そりゃ、私はまだまだ子供ですが・・」

え?

そうなんだ。

俺にはエルフの年齢なんてわからないぞ。

フレイアよりは若い感じがしたが、レイアとそれほど変わらないし・・というか、フレイアともそんなに見た目は変わらないからな。

ただ、胸は全然違うが。

俺はルナとエルフを交互に見て言う。

「そ、そうなんですかルナさん」

「うむ。 まず胸がないであろう」

ルナが言う。

「な、な・・」

エルフは言葉に詰まっているようだ。

「冗談だ。 エルフはもともと胸がない。 ダークエルフは別じゃがの」

ルナが淡々という。

俺は黙って聞いている。

「な、な・・なんなんですか、あなたは。 いきなり起きて来たかと思うと、失礼なことばかり・・あぁ!! そういえば、この男の人も初めに私を失礼な目線で見ていました。 そうだったのですか! あぁ・・私はなんてことをしてしまったのでしょう。 精霊王様に何とお詫びをすればいいのか。 この精霊の里に変態を招き入れてしまった・・あぁ・・」

エルフは膝をついて泣き崩れていた。


いやいや変態って、それはないでしょう。

確かに胸に注目をしたけど・・変態って、結構堪えるぞ。

「いや、あの・・エルフさん、別にそういうわけではないのですよ・・」

俺は言葉をかけてみるが、本気で泣いているようだ。

「うわぁぁぁん・・」

「いや、あのね・・」

俺は困ってしまった。

するとルナがヅカヅカとエルフのところへ歩いて行く。

バシッ!

いきなりエルフのお尻を蹴り上げる。

その後、胸倉をつかんでパンパンパン・・と、連続で頬を張っていた。

・・引くぞ、ルナさん!


「しっかりしろ! 貴様は森の番人なのだろう。 その責務を果たせ!」

ルナがそう言うと、エルフはハッと正気に戻ったようにスクッと立ち上がる。

パンパンと身体を軽く払うと、シャンとした顔になって言う。

「そうでした。 お見苦しいところをお見せしました。 私がまだまだ至らぬばかりに申し訳ありません。 ではお客人、ご案内いたします」

エルフはそういうと、俺たちを案内してくれる。

俺は完全にドン引きだ。

結局はルナが混ぜてルナが調教する。

そう見えてしまう。

この人、こうやって人をコントロールしているんじゃないだろうな。

そんなことをしなくても、チャームなどの魔法があったようにも思うが、敵ではないから使わないのだろうか。

とにかく、叩き落して引き上げる。

そして自分の存在を知らしめる。


悪魔だな。

俺はそんなことを思いつつ、ルナを見つめる。

「なんだ、テツ? ああいう手合いは、これくらいしないとダメなのだ」

ルナが平然と言い放つ。

「は、はぁ・・」

俺は曖昧な返事しかできない。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

よろしければ、ブックマークなど応援お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ