226 邪王セーラ
お互いの距離が50mくらいまで近づいてきただろうか。
かなりの時間を歩いたような気がする。
赤い霧に包まれているが、人の形はわかる。
両目が赤く光っていた。
20mくらいまで近づいて、レアが歩くのを止める。
ジッと邪王を見つめて言う。
「セーラさん・・私です、レアですわ」
セーラと呼ばれる邪王は、ぎこちなく首を動かしてレアを見つめる。
「ウグググ・・」
どうやら言葉を発せないようだ。
レアが目を閉じ、ふぅっと息を一度吐いた。
目を開き、レアはゆっくりと両腕を広げてゆく。
まるでセーラを包み込むようにして両手を前に出した。
レアが詠唱したかと思うと、空気を斬り裂く白い光が邪王に突き刺さる。
ドォーーーーーーン!!
大きな落雷の音だ。
俺は一瞬ビクッとなってしまった。
雷は無意識に怖いからな。
邪王から立ち昇っていた赤い血のような煙が消えていた。
邪王は動いていない。
やったのか?
・・・
!
ゆっくりと顔を俺たちの方へ向ける。
これって、俺たちを完全に標的にしたよな。
!!
俺は思わずレアを見た。
「ど、どうしたのですかレアさん!」
レアが片膝をついている。
「え、えぇ、すみませんテツ様。 先ほどの魔法、雷霆ケラウノスに・・私の全力を込めました。 テツ様がおられるので後のことを考えておりませんでした」
レアがゆっくりと立ち上がろうとするが辛そうだ。
「レアさん・・」
俺は言葉が出せない。
こんな状況だというのに、俺は感動していた。
本気で、命をかけて俺を信用してくれているのだと。
動けなくなるほどの体力の消耗・・一撃にマジで全エネルギーを注いだんだ。
俺は思わず胸が熱くなった。
もしかしたら泣いていたかもしれない。
いくら相手を信用するといっても、ここまでするか?
自分が動けなくなるくらいに全力で対峙できるものなのか?
「レアさん、ここで少し休憩していてください。 後は俺が何とかします」
俺の言葉にレアはにっこりと微笑むと、その場にストンと腰を落としてしまった。
こんな女の子が俺を全く疑うことなく信用してくれた。
これに応えないと人間じゃないだろう。
俺は前を向いて集中していく。
周りの音が遠くに聞こえるような感じだ。
身体を神光気で覆い、飛燕を抜く。
飛燕に神光気の気合を纏わせていく。
金色に輝きつつも、光の集まるところは白く光っていた。
飛燕を覆う光がやや長くなる。
邪王はゆっくりと俺の方へ歩いて来ていた。
いい子だ。
セーラとか言っていたが、俺にわかるはずもない。
俺にとってはただのレベル45の魔物だ。
「ふぅ・・」
俺は軽く息を吐き敵を見つめる。
俺の後ろから声が聞こえた。
レアだ。
「テツ様、ご無理をいいますが、どうかあの邪王に酷い傷を与えないようにしてあげてください。 お願いします」
俺はレアの言葉を聞きつつ、左手を挙げる。
敵はいくら格下とはいえ、こんな不快な感じを放つ生き物だ。
何が起こるかわからない。
油断はできない。
俺は飛燕を構えて距離を詰める。
俺が近づくと、邪王の周りの赤い血のような煙が激しく揺れ始めた。
!!
突然、邪王が俺に向かって突進してくる。
俺はその猛獣が獲物を狩るような動きに驚いたが、動きはそれほど速くはない。
邪王の左手の爪を伸ばして攻撃をしかけてくる。
余裕で見えたので、軽く躱し飛燕でその腕ごと切断する。
ズバン!
邪王の左腕が下に落ちた
邪王はそのまま構うことなく右腕で同じような攻撃をしかけてくる。
この邪王って魔物・・もしかして、人としての学習能力がないのか?
普通、腕を斬られたら何か考えるだろ!
俺はそんなことを思いながら、突き出される左腕を躱す。
その間にチラっとレアの顔が目に映った。
何とも悲しそうな顔をしている。
俺は一度距離を取る。
邪王は腕を突き出した方向へ突進し、向きを変えて俺を見る。
何か唸っているような感じで、また俺に突っ込んできた。
俺はまたも躱す。
3度ほど同じ行動が繰り返される。
感想・・この邪王って、本当に動物みたいだと感じた。
ただレベルが高いだけの動物。
魔物とも違う。
人が意志力を無くすと、こんな風になるのかな?
俺はまたも突っ込んでくる邪王に、今度はこちらも踏み込んでいく。
ドン!
邪王の胸の辺りに飛燕が突き刺さり、背中に白い光が突き抜けていた。
スッと飛燕を抜くと、俺は邪王の足を払う。
邪王はそのまま地面に仰向けに倒れて行く。
あっけなさすぎる。
戦闘にならない。
単に本能というか、強い魔素を持つ魔物。
・・・
可哀想だが止めを刺さなきゃ。
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