220 フレイアとメサイア
<帝都神殿>
司祭の近くに青く光る石がゆっくりと回転している。
その近くに光の粒が集まって来て人の形を成して行く。
ブーン・・・。
キョウジとシルビアが転移されてきた。
キョウジはシルビアに抱かれている。
「ゴホ・・ゴホ・・ここは?」
キョウジが力なく言葉を出していた。
「帝都の神殿だ」
シルビアが答える。
シルビアたちの周りには神官や行政官などが行き交っている。
何人かの高レベルの冒険者が転移されてきて命を失っていた。
今また、キョウジの命の火が消えようとしている。
ひとりの神官がシルビアのところに近づいて行く。
「シルビア様、この傷は・・」
神官が静かに優しく訊ねていた。
「あぁ、邪王にやられた傷だ・・」
シルビアは淡々と答える。
神官は一度目を閉じて、深くゆっくりとうなずいた。
「わかりました・・せめて痛みだけでも感じぬように全力を尽くします。 後は本人の回復力によります」
「よろしく頼む」
シルビアはキョウジを抱えたまま、か細く震えた声で言う。
神官は2人がかりでキョウジに魔法をかける。
回復系の魔法は効果がほとんどない。
ただ、痛みを和らげることは可能なようだった。
「ゴボ・・」
キョウジが血を吐いた。
シルビアは全く気にせずにキョウジを腕の中で抱いている。
「はぁ・・はぁ・・ね、姉さん・・」
キョウジがつぶやく。
「ね、姉さん?」
シルビアが軽く笑い、返答としようとしたが押し黙ってしまった。
キョウジの目はどこか遠くを見ている感じだ。
どうやら私のことではないらしい。
「姉さん・・無事に帰って来れたんだな・・はぁ・・はぁ・・良かった」
キョウジは目を閉じて微笑む。
シルビアはキョウジから視線を外し、神官の方を見た。
神官はうなずきながら答える。
「おそらく・・記憶の錯綜かと思われます。 危うい状態です」
神官は額に汗をかきながらも魔法を行使し続けている。
「あれ? 母さん・・どうしたんだ・・ゴホ・・ゴホ・・いいよ・・手なんかつながなくって・・俺、大人だぜ・・ゴホ・・」
シルビアは黙ってキョウジの手を取り、見つめていた。
キョウジがシルビアの手を軽くギュッと握る。
「か、母さん・・きれいな手をしてるんだな・・あ、姉さんが・・迎えに来たよ・・行こう・・良かった・・母さ・・」
シルビアが握っているキョウジの手が、スルリと離れる。
・・・
・・
しばらくして、キョウジは蒸発した。
神官たちは無言でゆっくりと立ち上がり、シルビアに一礼をしてその場を去って行く。
シルビアはその場から動くことができなかった。
ポトリと床に雫が落ちる。
「キョ、キョウジ・・貴様・・私を自分のものにするのじゃなかったのか・・」
言葉を押し殺すようにシルビアが肩を震わせながらつぶやき、大粒の涙を床に落していた。
◇
<フレイアとメサイア>
フレイアたちは南米の精霊族の領域近くに派遣されていた。
ブラジルがあった場所だろう。
ギルドに降り立つと、フレイアは妙に懐かしいような心地よいような感じがしていた。
自然と身体が軽くなる。
飛行船の発着場から昇降装置でギルドのフロントに到着。
メサイアが軽い足取りのフレイアを見て不思議に思っていた。
「フレイア殿、先程から何かうれしそうな感じで歩いておられますが、何か良いことがありましたか?」
「ううん・・違うの。 何かねぇ、この場所が心地よいのよ。 そうねぇ・・エルフの里のような感じかな」
「エルフの里・・ですか?」
「そんな感じよ」
「なるほど・・精霊族の領域が近いからかもしれませんね。 帝都でもまだ精霊族とは正式に接触しておりません」
メサイアが何か申し訳なさそうな顔をして答える。
フレイアとメサイアはギルドを出て街の出入り口に近づいていた。
「フレイア殿、この門を潜れば邪王との戦闘が待っていますね」
「そうね」
フレイアは軽く答える。
「フレイア殿は、緊張されないのですか?」
メサイアは普通に冒険に出るような雰囲気のフレイアに確認を込めて聞いていた。
「う~ん・・さっきも言ったけど、何かね・・身体が調子いいのよ。 そりゃ不安なことも考えるけど、それ以上に軽い感じなのよねぇ」
フレイアが顎に手を当てて微笑む。
メサイアは苦笑しながら聞いていた。
街の出入り口を通過。
「フレイア殿、よろしくお願いします」
メサイアがそう言った瞬間!
!!
「こ、これは・・」
身体にまとわりつく霧雨のような感覚。
気持のよいものではない。
メサイアは思わずつぶやいていた。
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