218 シルビアとキョウジ
「王様・・もったいないお言葉・・ゴホ・・ゴホ・・」
アイザックが答えている間に、ジョーが息を引き取った。
しばらくしてそのまま蒸発する。
アイザックもアニム王に返答した直後、目を閉じて意識を失う。
ジョーに遅れること5分くらいだろうか。
そのまま蒸発していた。
神殿でアニム王は動くことができなかった。
司祭はアイザックたちの冥福を祈っている。
「王様・・邪王がまさかこれほどとは・・」
行政官の誰かがつぶやく。
その言葉にアニム王は目を閉じて立ち上がる。
「うむ・・アイザックたちには本当に気の毒なことをした。 その邪王はどこに向かっているのだろう」
アニム王の言葉にアリアンロッドが答える。
「はい、ここにマップを表示いたします」
パッと地球を模したホログラムが表示された。
「アイザックたちを襲った邪王は、シルビアとキョウジたちのところへ向かっていると思われます。 幸い、アイザックたちの経験値は邪王には移らなかったようです。 神殿に転移できたのが良かったと思います」
アリアンロッドが淡々と話す。
「ア、アリアンロッド! 貴様は感情というものがないのか! 今、高レベルの戦士が亡くなったのだぞ。 それを・・」
「大老、お言葉ですが、事実を申し上げているのです。 申し訳ありません」
年配の行政官がアリアンロッドを睨むが、事実なのは仕方ない。
それにアリアンロッドの肩が震えているのを確認したのかもしれない。
年配の行政官は静かに目を閉じた。
「大老・・私の判断が甘かったのかもしれません。 もう少し時間をおいて邪王を減らせておけば良かったのでしょう」
アニム王が静かに話すと、きれいな声が響く。
「いや、間違えておらぬぞ、アニムよ」
ルナがアニム王のところへ歩いて来る。
「やはり神殿は居心地が良いものではないな」
ルナが苦笑いしながらつぶやく。
「ルナ・・」
「アニムよ、今のタイミングで迎撃しておかねば、誰も対処できるものがいなくなっていただろう。 それこそいいように蹂躙されて終わりだ。 それよりも、残りの邪王たちだが、ワシが順番に受け持とう」
ルナが微笑みながら言う。
「ルナ・・」
アニム王が悲しそうな複雑な表情の顔をルナに向ける。
「アニムよ、ワシも今の世界は気に入っておるのだ。 かき乱されては叶わぬ。 早く落ち着いてスイーツを食べたいのだ」
ルナはそう言うとゆっくりと神殿を後にする。
後でわかるが、ルナは本気でスイーツのことを考えていたようだ。
街などが襲撃されては、お店が破壊されるかもしれない。
この人にとっては世界事情などどうでもいいらしい。
スイーツ・・これに尽きる。
だからこそこの世界を守ったともいえる。
もし、この食がなければ地球は滅んでいたかもしれない。
俺は妙な気分になったものだ。
◇
<シルビアとキョウジ>
街を出てすぐに邪王と対面した。
キョウジは真っすぐに邪王を見つめる。
「キョウジ・・お前は怖くないのか?」
シルビアが邪王を見ながら言葉を出す。
赤い血のような霧を纏い、ユラユラとその赤い霧が煙のように立ち昇っていた。
「怖いか・・わからねぇな。 だが、あれは強いな」
「フフ・・貴様らしい。 少しは私の緊張も緩んだぞ」
シルビアはそう言うと、弓を引き絞る。
邪王に狙いを定め、矢を放つ。
ヒュン!
紫色の航跡をつけて矢が飛んで行く。
無論、追尾する魔法を込めている。
邪王は飛んでくる矢を持っていた剣で振り払う。
!!
確かに剣で振り払ったはずだ。
だが、邪王の右腕に矢が刺さっていた。
邪王はその矢を見ると、無造作に引き抜く。
剣を左腕で持ち替えると、シルビアに向かって走ってきた。
シルビアが次の矢を放つ。
ヒュン!
放った直後、シルビアが息を吐く。
早くも疲労しているようだ。
キョウジはそれを見ると、無言で邪王に向かって行く。
キョウジにはわかっていた。
1発の矢に凄まじいまでの魔力を込めたのだろう。
だからこそ邪王に刺さったのだ。
今、シルビアを邪王と接近させるのはダメだ。
そのために俺がいる。
「フッ・・」
キョウジは自嘲した。
俺の柄じゃないな。
誰かの為なんて俺じゃない。
戦う理由なんて特にない。
面倒なんで考えたこともない。
だが、何だろうな。
妙に胸がざわついた。
キョウジがそこまで考えると邪王の前に来た。
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