212 騎士団員の訓練場にて
剣技を磨いているエリア、魔法の効果を確認しているエリア、模擬戦闘をしているエリアなどが見える。
みんな、頑張っているな。
こうやって基礎から積み上げるんだ。
俺は素直に感心。
しばらく歩いていると、1人の隊員が駆け寄ってくる。
「テツ殿ぉ!」
手を振って近寄って来た。
?
誰?
いや、顔は知っている。
名前が・・俺って人の名前って覚えないからな。
決して若年性何とかではない。
「テツ殿、よくおいでくださいました。 隊員から聞いて駆けつけました。 私がご案内いたしましょうか?」
駆けてきた隊員は言う。
なるほど、あの入って来た時に応対してくれた人だな。
「あ、あぁ・・それじゃあ頼むかな」
俺の少し詰まった返答にその隊員が聞いてくる。
「テツ殿・・まさかとは思いますが、私のことを忘れておりませんよね?」
「な、何言ってるんだよ・・わ、忘れてるわけないじゃないか」
俺は慌てて返答する。
顔は知っている。
名前・・何だったかな?
「へぇ~・・それでは改めて伺います。 私は誰でしょう?」
「え?」
その隊員は上目遣いで微笑みながら聞いてくる。
こ、こいつ・・アホか。
知ってるんだ。
それは間違いない。
だが・・
「えっと・・そ、そう・・あの、キョ、キョウジという人がいた街に来た騎士団の・・」
俺も出会ったシーンは覚えていたので、それを言おうとすると隊員が片手を前に出して俺の言葉を遮る。
「テツ殿・・そのお話は・・私の黒歴史です」
隊員は下を向いて難しそうな顔をしていた。
「ご、ごめんよ・・実はな・・名前が思い出せないんだ」
俺は正直に言うことにした。
隊員は目を大きくして硬直している。
・・
俺は片手を目の前で振ってみる。
・・
反応なし。
「おい・・大丈夫か? あの・・」
「テツ殿・・メサイアです」
やや低い声でメサイアが言う。
!
おぉ、そうだった。
メサイアだ。
キョウジにいいように扱われていたな。
確かに本人には黒歴史だろう。
「メ、メサイア・・すまないな」
「いえ、いいのです。 それよりもどうされたのですか? 騎士団の訓練所などを訪れて・・」
「いや、特に用はないのだがどんなものかと思ってね」
メサイアも落ち着いたようだ。
「なるほど・・テツ殿、王様から聞かれておられるかもしれませんが、邪王との戦いに備えて我々もジッとしていられないのですよ」
メサイアも頑張っているんだな。
「メサイアも出撃するのか?」
俺は聞いてみる。
「はい、当然ですよ。 それよりも聞いておりませんか? 私はフレイア様と一緒に行動するのです」
「フレイアと?」
「はい。 あの黒歴史以来、私は自分が許せずに鍛えておりました。 その努力が認められたのでしょう。 頑張ります」
メサイアは片手でガッツポーズを決める。
「そうか・・俺はレアさんたちと一緒に行くんだ」
「レ、レア様とですか?」
「うん」
「そうですか・・」
メサイアが何か意味深な返答をする。
「何か問題でもあるのか?」
俺は気になるので聞いてみる。
「いえ、問題などはありません。 むしろ問題がないところが問題です。 あのお方がロイヤルガード以外の方と一緒に行動されるなど・・今までにありませんでしたからね」
メサイアがう~んと唸りながら答えてくれた。
メサイアがこちらをジッと見ている。
・・・
何か言え、メサイア!
「メ、メサイア・・そんなに変なのか?」
沈黙がたまらず俺が思わず言葉を出す。
「何と申しますか・・想像できないのですよ。 レア様は常にロイヤルガードの方々と一緒のおられます。 それ以外の姿が思い浮かばないのです。 それがテツ殿と一緒に行動される・・テツ殿、ご愁傷様です、いえ間違えました、お達者で・・これも違うな・・何と表現してよいやら・・う~ん・・」
「こらこらメサイア・・全部別れの言葉だぞ。 俺、レアさんたちと戦うのではなく邪王と戦うんだが・・」
何か余計な心配事ができたじゃないか。
「まぁテツ殿でしたら大丈夫でしょう・・多分」
メサイアが最後の方をボソボソッとつぶやいていた。
ん?
多分って言わなかったか?
この女・・聞かなければどうってことなかったのに、聞くと変に言葉が残るじゃないか。
俺はメサイア両肩をグッと掴む。
メサイアの目を見つめて言う。
「メサイア・・もう余計なことは言わなくていい。 ただこの訓練場を案内してくれるだけでいいんだ」
何か戦いに行く前に疲れてしまったよ。
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