199 貴族って・・
遠慮なく服を脱ぎ、俺は風呂に入っていった。
ヴェルは俺の服をきれいにたたみ直し、生活魔法できれいにしていたようだ。
俺は身体を軽く洗い、湯舟に浸かる。
「ふぅ・・」
目を閉じて思う。
「邪王か・・」
いったいどんな感じになるのだろう。
俺も魔王化した時には意識はなかった。
そんな状態に、皆がなるのだろうか。
こんな世界になり、レベルを上げ過ぎるなといっても止まるはずもない。
誰もが上を目指すだろう。
その先にこんな破滅の結末が待っているとも知らずに。
いや、知っていてもやめられるものじゃない。
・・・
俺たちのすることは残った邪王を倒すこと。
だが、どれくらいの時間で現れるのだろうか?
後でテュールさんに聞いてみよう。
俺はそう思うと風呂から出た。
脱衣所に行くとヴェルが頭を下げていた。
まだいたのか?
「ヴェル、ずっといたのか?」
「はい、テツ様」
ヴェルがそう言いつつもバスタオルを俺に手渡してくれる。
・・・
これって貴族の生活だよな、たぶん。
自分の身体を拭くタオルくらい自分で取るぞ。
「ヴェル、テュールさんにも言っておいてくれ。 風呂くらい一人で入れるよ」
「テツ様、わかっております。 ですが、これが私たちの仕事ですから」
ヴェルが淡々と言う。
俺は身体を拭きながら思う。
確かにそういうものかもしれない。
アニム王が俺のために世話係をつけてくれた。
ヴェルたちの仕事と言われれば仕方ないと思う。
俺がすべて1人でやってしまってはダメなのだろう。
それは理解できた。
だが、ここで俺が尻を拭けと言ったら拭くのだろうか?
言ってみようかな?
俺は軽く頭を振る。
バカか俺は!
変態か?
変な性癖が目覚めたら怖いぞ。
もしかして漫画やラノベなどの貴族って、こういうところから変態性が目覚めるのかもしれないな。
俺はラフな部屋着を身に着けて脱衣所を出る。
「ヴェル、服をきれいにしてくれたんだ。 ありがとう」
「テツ様、お気遣いなく」
ヴェルが俺の服を持って俺の後をついてくる。
リビングに行くとテュールが冷たい飲み物を用意してくれていた。
「テツ様、どうぞ」
俺は少し恐縮しつつも、椅子に座りながらお礼を言う。
「テュールさん、ありがとうございます」
一口飲む。
!
美味しい。
昨日飲んだのと少し違うが、とにかく身体に染み渡るようだ。
「ふぅ・・美味しい。 落ち着きますね」
「恐れ入ります」
テュールが頭を下げる。
「テュールさん、少し聞きたいのですが・・」
俺は話を振ってみた。
「はい、何でございましょうか」
「はい、邪王のことなのですが、レアさんやアニム王に聞いてみたのです。 確実に現れるだろうということでした。 それでその出現はどれくらいの時期になるのかなと思ったのですが、テュールさんはどう思います」
俺の質問にテュールが考えている。
顎に手を当てて目を閉じている。
「うーむ・・答えにくい質問ですな・・私も現れるのは時間の問題かと思われます。 ただその時期となると、こればかりは状況によるとしか申し上げられません」
「そうですか・・すみません、無茶な質問をして」
俺は頭を下げる。
「テツ様、そのようなお気遣いは無用でございます」
テュールが慌てて言葉を出す。
「ありがとうございます」
俺は頭をまたまた下げて、部屋を後にする。
ちょっと早いが寝よう。
◇
<テツの屋敷内>
テツが寝室へ行き、片付けなどを終えてテュールたちが集まっていた。
時間は22時。
「テュール様、テツ様はかなり気を使われているように思われますが・・」
「そうだなエイル。 私もそう思う。 邪王などという狂戦士のようなものが生まれようとしているのだ。 それも近い将来確実に・・我々は特にすることもないだろうが、テツ様や王様、レア様などは備えに対していろいろ考えておられるのだろう。 高レベルの魔物に対応できる人の数は知れている。 王様もおっしゃられていたが、レベル40は超えるだろうと言うことだ。 脅威だと思うよ」
「レ、レベル40を超える・・」
エイルがつぶやいていた。
ヴェルとエイルの視線を受けてテュールが答える。
「心配しなくてもいい。 帝都や各都市ギルドなどの防御は問題ないだろう。 王様たちが結界や武具で覆うそうだ。 レベル40程度では突破できないという話だ。 それに邪王は他の邪王を求める。 その数が減った時に残った邪王がどれくらいのレベルになっているのかが問題となろう」
テュールの言葉にヴェルとエイルは沈黙する。
◇
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