197 等価交換
アニム王は俺が座るのを待って話しかけてきた。
「で、テツ、どうしたんだい?」
「はい、実は・・」
俺はテュールやレアに聞いた内容をそのままアニム王に伝えた。
・・・
・・
「ふむ、なるほど・・まぁ、帝都やギルドのある街の防衛は心配することはないと思うよ」
アニム王はそれほど心配しているような感じではない。
俺は少し肩透かしをくらった感じだ。
もっと切羽詰まった状態なのかと思っていた。
何か受けとめ方が違うな。
「テツ、ルナから聞いたかどうかわからないが、邪王となった人はもはや人ではない。 本人の意識すら存在しないだろう」
アニム王が飲み物を飲みながら話してくれる。
「はい、ルナさんもそんなことを言ってました・・軽い感じですけどね。 聞くだけではどうもわからず、本気で聞いてませんでしたが」
「フフ・・そうだろうね。 私にしてもまさかこれほど早くに訪れるとは思ってもみなかったよ。 邪王・・理性をうしなった魔物。 より強いものを求めて彷徨う悪鬼。 そしてお互いが引き寄せ合うのか、邪王同士が戦うのだよ」
俺はアニム王の顔を見る。
「うむ。 私も若い時代に邪王を見たことはある。 私の国ではないが、人を実験台にして急速にレベルを上げさせたそうだ。 3人程がレベル40を超えるようになり、その後暴走が始まったそうだよ。 その国は滅んだが、3人、いや3体と言った方が良いだろうか。 最後の1人になるまで戦い続ける狂戦士だね。 我々の王国ギルドの情報網に脅威の魔物が隣国で出現したと報告があってね。 ミランと私、後は数名の精鋭を連れて見に行ったのだよ」
アニム王は一息つく。
俺は無言で聞いている。
「その魔物はレベル44になっていた。 周りに強い魔素を感じると向かってくるのだよ。 逆に強い魔素を持たないものは生き延びれたのではないのかな? そして、我々はほどなく討伐することができた。 だがね・・後味が悪いというか、その死の瞬間に人に戻るんだ。 ほんの数秒、いやもう少し長いかな・・哀れだよ」
アニム王が寂しそうに言う。
・・・
俺は聞いていて結構衝撃だった。
だが、アニム王、平気で食事をしてるよな。
俺は気が重い。
もしかすれば俺がそうなっていたかもしれないのだ。
怖いことだ。
「なるほど・・アニム王、邪王になった人を救うことは不可能ですか?」
「うむ・・おそらく、いや無理だろうね」
当たり前だ。
誰でも彼でも助けれるわけじゃない。
アニム王の話の人は気の毒だが、今の地球の中で起こっているレベルアップは少なくとも強制ではないだろう。
本人が望んで行っていることだ。
代償は支払うべきだろう。
俺も偉そうなことは言えないが。
「俺も・・私もそうなりかけたのですね」
俺は思わずつぶやいた。
「フフ・・そうだよ。 テツはより脅威の存在になろうとしていたのだ。 だが戻って来た。 ゼロの存在も大きいが、神の加護を得ているのが大きいね。 テツは大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
少し間をおいてアニム王が言う。
「ただね・・これからテツには苦しい思いをさせるかもしれない」
俺はアニム王の意図していることを把握しかねた。
「テツ・・君の同種族の中から邪王が現れて討伐しなければならない。 それに言葉が悪いが、新しい世界システムに移行した後の調整というか、神の意思というか、いろんな意味で人が試されているのだと思うのだ。 我々もテツたち地球の人もね」
俺はアニム王の言葉を頭で反芻する。
試されている?
確かに・・レベルがあり、魔法がある世界になった。
ラノベ、漫画が大好きな日本人ならば大歓迎だっただろう。
だが、何事も都合の良いことばかりではない。
俺もある程度生きてきたから理解できる。
この世の物事は等価交換に近い。
価値はそれぞれ人によって違うだろうが、その価値観に見合うもので交換が発生しているのだろう。
嫁の価値観は金だな。
レベルや魔法は俺の考えれないシステムで等価交換が要求されているのだろう。
魔物などの討伐による獲得魔素量とか・・俺はアニム王の話を聞きながら連想していた。
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