189 43階層
「テツ、ヒュドラってあのうねうねしているやつだろ?」
キョウジが遠くを見ながら聞いてきた。
「はい、そうです」
「なるほど・・で、あのサーペントの塊みたいなのが飛んでくるんだよな?」
「えぇ」
「確かに、気持ち悪いな」
キョウジがつぶやく。
「あれを俺一人でやらせてくれないか?」
「え? 別にいいですけど・・」
俺はシルビアをチラっとみた。
「私は構わないぞ。 まぁこの男なら大丈夫だろう」
シルビアが軽く笑いながら言った。
「ありがとう」
キョウジはそれだけを言うとゆっくりとヒュドラの方へ歩いて行く。
キョウジとヒュドラがある一定距離になる。
ヒュドラが器用に身体をくねらせたかと思うと、一気にジャンプしてキョウジに迫る。
!
なるほどな。
確かに予備知識がなければ、一瞬だが判断が遅れるかもしれない。
まさかこんな鈍い巨体が飛ぶなんて考えれねぇ。
キョウジは飛んでくるヒュドラを見ながら思う。
ヒュドラの着地点から軽く飛び退く。
ドォーーーン!!
重い大きな衝撃音が響く。
キョウジがいた場所が凹んでいた。
ヒュドラの上空からキョウジが落下してくる。
「蛇の化け物か・・同じレベルのようだが、さてこの武具に全力を込めてみるか」
キョウジはそうつぶやきながら右正拳突きを放つ。
グッと足に力を入れて、空中で空気を蹴る。
キョウジのスキルだ。
自由落下からまるで弾丸のように加速した。
ドン!!
ヒュドラのど真ん中にキョウジが飛び込んだ感じだ。
俺とシルビアは少し離れたところから見ている。
「テツ、あのキョウジという男・・危険だな」
「あぁ、俺もそう思う。 おそらく俺と同じレベルなら、俺は勝てないだろうな」
シルビアは俺の方を見てまたキョウジの方を見ていた。
ヒュドラは着地した位置から動かない。
見ていると、ヒュドラの首がちぎれては落ち、ちぎれては落ちと散らばっていた。
しばらくしてヒュドラが蒸発。
俺は驚かなかった。
あの男ならアリだろうと思う。
『レベルが上がりました』
キョウジの頭の中に天の声が響いていた。
レベル42。
この武具・・俺のためにあるような武器だな。
あの武器屋のおっさんにお礼を言わなければ。
キョウジは武具を見つめていたが、目線をテツのいる方へと動かす。
そのままゆっくりと歩き出した。
「テツ、シルビア、ありがとう。 これで俺もレベルが上がったぜ。 それに武具のテストも満足だ」
「そうですか、それは良かったですね」
「・・テツ、あまり驚かないんだな。 それほど俺と差があるのか?」
キョウジが俺を見つめてくる。
この男・・やはり油断などできないな。
「い、いえ、そんなことはないと思うのですが、キョウジさんが戦うと決めたのなら、負けることはしないんじゃないかと思っただけです」
「・・フッ、そうか」
キョウジは笑うとシルビアを見る。
「シルビア、どうだ俺の女にならないか?」
「ふぅ・・呆れたな。 どうやったらそういう言葉が出て来るんだ?」
キョウジはカラカラと笑っている。
俺も少し笑いながら次の階層への入り口を探していた。
俺のそんな仕草を見てシルビアが気づいたのだろう。
「テツ、次の階層への入り口ならあそこにあるぞ」
シルビアがニヤッとしながら指を差す。
「エルフの耳をなめるなよ」
俺たちは次の階層へと向かって行く。
43階層。
到達した瞬間に俺は足が止まった。
湖? 海?
とにかく水のエリアだ。
よく見ると、ところどころに島らしきものがあるが、一面水だ。
キョウジが水面を見ながら言う。
「テツ、俺は水の上でも歩けるが、どうだ?」
「はい、俺も歩けます」
「なるほどな・・」
何かキョウジに情報を小出しに引き出されているような感じだな。
俺たちは水の上に一歩踏み出す。
シルビアがその場で恨めしそうに俺たちを見ていた。
「あぁ、すまないシルビア」
俺は急いでシルビアのところへ行く。
「あのな、私は水の上は移動できないのだ。 風魔法で漂うくらいなら可能だがな」
俺はシルビアの言葉を聞きながら思い出した。
そう言えば、海の上で落下させられたっけ。
おかげで水の上を歩けることがわかったのだが。
ピピ・・
索敵に魔物が引っかかる。
キョウジも気づいたらしい。
クラーケン:レベル43、セイレーン:レベル41×5、後はそれほどレベルの高い魔物はいない。
せいぜいレベル35くらいだろうか。
◇◇
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