183 自分を形作るもの
キョウジは一歩下がりシルビアの右フックを軽く躱す。
「き、きさま!」
シルビアが怒っている。
「ねぇちゃん、熱くなるなよ。 隙だらけだぜ」
キョウジはスッと動いてシルビアの背中へ移動していた。
俺はその動きを見ていて思う。
何か違う。
妙だ。
なんと言うか、タイミングをずらされているというか、自分の思っているリズムと違う感じがする。
キョウジはシルビアの後ろから膝を崩す。
シルビアがカクンとなり、崩れ落ちる。
それをキョウジが支えて、またシルビアにキスをした。
シルビアの髪の毛が逆立つような感じだ。
キョウジはすぐに離れてシルビアを見る。
「ねぇちゃん、熱くなるなって言っただろ。 俺が殺る気なら死んでるぜ」
善悪はともかく、俺はキョウジの言う通りだと思った。
シルビアが片手で口を拭う。
「なめた真似を・・」
「シルビア、やめておけ。 格が違う」
俺は思わず声をかけた。
「テツ! しかしな・・こいつが・・」
シルビアの言うことはもっともだ。
「キョウジさん、もういいでしょう」
キョウジが両肩をすくめて笑っている。
「シルビア、キョウジさんのやり方は悪いが油断し過ぎだぞ。 ちょっとうらやましいけど・・」
最後の方は小さな声でつぶやいた。
「チッ! まぁいい。 それでテツはどうするつもりなんだ?」
「あぁ、俺もレベルを上げたいと思っていたんだ。 目標は45階層くらいまでは進みたいと思っている」
「そうか・・ならば一緒に行ってもいいか? こんな奴に弄ばれているようではルナ様のところへ戻れない」
シルビアが言う。
キョウジの行動に納得はしていないようだが、その強さを認識しないわけにはいかないのだろう。
キョウジが笑いながらシルビアを見つめている。
「おやおや、俺って嫌われたかな?」
「当たり前だ。 貴様、いきなり口づけなど・・私はテツのものなのだ」
!!
「は?」
俺はあまりの言葉に沈黙。
そして、おそるおそる言葉を出す。
「・・シ、シルビア・・お前、何言ってるんだ?」
キョウジが両肩をすくめて笑いながら俺を見る。
「テツ、確か金髪のエルフがいたよな? もしかしてハーレム?」
その言葉にシルビアが反応。
「フレイアのことだな。 だが、私も同じくらいにレベルが上がってきている。 同じ目線で見てもらえるはずだ」
「健気だねぇ・・」
キョウジが軽く首を振り、続けて言う。
「テツ、女の気持ちには応えてやらなきゃな。 ま、1人では余るだろうからやっぱり俺がこいつを引き受けよう」
「き、貴様、なめるなと言っている」
「ねぇちゃん、尖がんなよ。 俺では不足か?」
キョウジの言葉にシルビアが真剣な顔で考えていた。
・・・
「いや、強さでは問題ないだろうと思う。 だが、その性格だな。 どうも信用できぬ」
シルビアが答える。
「ハハハ・・信用ねぇ。 そんなものこそ信用できねぇぜ。 なんていうのかな、お前みたいな女は結局は俺のものになるぜ」
キョウジの言葉に俺は少し引いていた。
凄い自信だな。
「バカな・・」
シルビアが吐き捨てるように言う。
「ま、今はわからないだろう。 だが、テツを見ていて思う。 女の要求を受け入れようとしていないだろう。 素直に相手に合わせていればいいのにな。 ご苦労なこった」
俺はキョウジの言葉が頭に響いた。
確かに、何を根拠に恐れているのかわからないが、どうも素直になっていないように思う。
フレイアにしてもそうだ。
サッサと自分のものにすればいいだろうと思う。
メイドのようなヴェルやエイルも大丈夫じゃないか?
・・・
って、違うだろ!
俺は軽く頭を振る。
危うくキョウジの言葉を受け入れるところだった。
それをすれば自分が維持できないと思う。
偽善じゃない。
そのタガを外しては、俺が俺でいられないだろう。
だが、その基準は何を根拠にしているんだ?
俺は自問していた。
・・・
・・
答えはない。
キョウジがニヤニヤしながら俺を見ている。
俺はハッとなり、キョウジとシルビアを見渡す。
「ハハハ・・テツ、考えても答えのないものもある。 考え過ぎるな、感じろ・・って、誰かの言葉だったな」
キョウジが言う。
「確かに・・だが、欲望のままに動いてもなぁ・・そういう時代は若い時だけだろうな。 あれ? 今の俺を作っているのは・・何だろう。 う~ん・・」
俺はブツブツとつぶやきながら考えているとキョウジが言う。
「時間が経てば答えがみつかるかもしれないし、みつからないかもしれない。 ただ、何らかの歩んできた道は確立する。 それをみて考えればいいんじゃね?」
「・・キョウジさん、しっかりしているんですね」
「ハッ、そんなんじゃねぇよ。 だからお前と俺は似ているって言ってんだろ」
キョウジが俺から視線を外し、シルビアを見つめていた。
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