174 スキル
木村がキョウジの背中に照準を合わせる。
後藤が雷系の魔法で痺れさせようと構える。
山下は剣を抜きキョウジの背中を突く予定だ。
3人には慣れた行動だった。
ふぅ・・と息を合わせると、山下のダッシュに合わせて行動する。
ダッ!
いつものことだった。
助けてくれたりすると、その助けた人は完全に油断している。
まさか助けた相手がいきなり攻撃を仕掛けて来るとは思っていない。
時間が経つと疑われたりするかもしれない。
だが、直後なら何の基礎情報も得ていない。
楽勝で狩れてきた。
後藤のパラライズがキョウジを打つ。
同時に木村の魔弾がキョウジの頭にヒットする。
山下の剣がキョウジの心臓付近に背中から突き刺さった。
見事な連携だ。
ほぼタイムラグもなく行われる攻撃。
手応えは十分かつ確実にあった。
キョウジの身体が蒸発していく。
「ふぅ・・あっけなかったな」
山下が後藤たちの方に歩いて行く。
「山下、レベルが上がらなかったぞ」
木村もうなずく。
「あれ? そういえばそうだな・・ま、大した奴じゃなかったんだろう」
「そうか・・でも、あのゴーレムの上位種を倒した奴だぜ」
「木村、あのおっさん、上位種の弱点を知っていたんだぜ。 以前に学習しているんだよ。 もう俺たちでも倒せるぜ」
「確かにな・・」
山下たちは笑い声を立てながら話し合っていた。
・・・
・・
「全く、近頃のガキはどんな育ち方・・って、俺も偉そうなことは言えないがな」
!!
山下たちはその声の方を急いで振り向く。
そこには元気な姿のキョウジがいた。
「な・・確かに手応えはあったはず・・」
山下と木村も同じようにつぶやいていた。
「まぁな。 俺もわざと受けてみたんだ。 自分のスキルを試してみたかったからな。 さてと、お前ら死んでいいぜ」
スキル:タイムズスクエア。
単純に言えば分身の術のようなものだ。
ある時間を最高4分割して、その1つを選択する。
山下たちに攻撃を受けた自分と受けなかった自分に分ける。
今のキョウジは攻撃を受けなかった自分だ。
スキル発動時、よく見ればキョウジの身体がわずかだが、ブレて見えるはずだ。
ブレというか、その揺らめいている対象も同じようにダメージを受ければ無事ではないだろう。
まぁ、山下たちのレベルの攻撃ではどれほどのダメージが与えれたかは不明だが。
術も完璧ではない。
また、キョウジにはわかっていた。
人だった石像を斬るのにためらいがなかった連中だ。
それに今まで尾行していて理解していた。
こいつらは自分達以外の人はエサくらいにしか思っていないだろうと。
自分も偉そうなことは言えないが。
「な、何が死んでいいぜ、だ。 舐めるなよ」
「あぁそうだ。 俺たち3人に勝てるはずもない」
後藤は少し震えていた。
「そ、そうだぜ・・」
木村がそこまで言葉を出した時だ。
キョウジの姿消えていた。
木村の背後にキョウジがいた。
そしてキョウジの右拳が木村の身体を貫いている。
!!
「な・・木村ぁ!」
山下はそう叫ぶがどうしようもない。
後藤も魔法を発動しようとするが、初動が違い過ぎる。
キョウジの手刀が後藤の首を刎ねる。
「ご、後藤・・」
キョウジは何も言わない。
一歩、山下の方へ足を踏み出す。
「ま、待ってく・・」
山下が言葉を出す間もなくキョウジの拳が山下を貫いていた。
キョウジは山下から手を引き抜くと、そのまま次の階層への入り口へ向かって行く。
「俺って、もしかしていいことしたのかな?」
◇
<山下たちが出て行った街>
街の中では住民を暗殺していた連中が捉えられていた。
聞けば山下が襲った街の住人だったようだ。
福本のところまで連行されている。
福本と会話をして山下の単独犯行だったことを理解。
そして、すでにその山下は追放したと聞かされた。
襲撃していた連中は少し気分が落ち着いてきたようだ。
街の住人は悪い奴等ばかりじゃない。
自分達は山下と同じことをしようとしていたようだと反省する。
福本との間に妙な平和が訪れていた。
・・・
「福本さん、やっぱ凄かったよな」
「あぁ、全くだ。 きっぱりと山下たちに注意したものな」
「今だから言えるが、俺なんて怖くて言葉も出せなかったぜ」
「俺もだよ」
「それよりも知ってるか? 山下たち帝都のダンジョンに向かったらしいぜ」
「あぁ知っている。 レベルを上げて、やっぱ戻ってくるのだろうか?」
「わからないな。 もしそうなら・・怖いな・・」
「うん。 俺もやっぱ帝都の街の住人になろうかな?」
「俺もそれを考えていたんだ」
街中では似たような会話が飛び交っていた。
◇
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