143 来訪者
「ま、町田・・」
城戸が俺の名前を呼ぶ。
俺はその言葉になぜかわからないが一気に感情が溢れ出て来る。
俺の身体から強烈なオーラがドンと弾けた。
ルナが俺を見ながらつぶやく。
「この負のエネルギー・・やはり、ダメか」
◇
俺は一歩前に踏み出し城戸の目の前に来た。
そのまま遠慮なく城戸に斬りつける。
シュパ!
空気を斬る感じだ。
スパッと城戸が横薙ぎに斬れた。
飛燕を両手で持ち、城戸の頭から地上へ向けて縦切りに追撃をする。
スパン!
城戸の身体に十字の赤い光跡が揺らめく。
城戸は動くことなく、そのまま蒸発していった。
飛燕が地面に刺さっていた。
俺はその場で膝をついて飛燕にもたれかかる。
ドクン!!
俺の身体が熱い。
何だこの感覚。
城戸を始末したのに、スッキリしない。
それに身体の中から突き上げる衝動。
俺は思わず叫んでいた。
「うおぉぉぉぉ!!!!」
同時に身体から赤黒い閃光が広がっていく。
ルナの結界に当たって反響する。
「グッ!」
ルナの顔が歪む。
フレイアは片膝をついていた。
「ル、ルナ様、これは何ですか?」
「テツの魔王化だな・・」
ルナも目の前で見るのは初めてだ。
だが、おそらく間違いないだろうと感じる。
今までのテツの魔素とは違う。
この波動を浴びると不安な感覚にさせられる。
落ち着かない。
!
テツを見ていると、ルナの横から真っ白な服を着た子供が歩いて行く。
ルナは驚いた。
誰だ?
まさかワシが気づけなかったとは。
ルナはさらに驚く。
いったい何者なのだ?
だが、今はこの波動に耐えるので力を使っている。
余計なことはできない。
ルナは白い服を着た子供の背中を見送っていた。
「おやおや、だからあれほど言ったじゃないか、テツ」
白い服の子供は微笑みながらテツを見る。
俺の視界には誰かが映っていたが、よくわからない。
「ふむ・・まだ完全ではないな。 良かったよ」
白い服の子供はそう言うと片手を出して、テツのおでこにデコピンをした。
ビシ!
そのままテツはうなだれて倒れる。
白い服の子供がそっとテツを支えて言葉を出す。
「イリアス、頼むよ」
テツが倒れるとルナの結界の中がすっきりとしていく。
「はい、ゼロ様」
イリアスはゼロからテツを受け取ると右肩に担いだ。
ゼロが微笑みながらルナの方へ歩いてくる。
「君は・・ヴァンパイアだね、よろしく。 どこかテツを横にできるところに案内してくれないかな?」
ルナはゼロを見ながら少し震えていた。
・・・
なるほど・・これがクイーンバハムートか。
このワシが震えるとはな。
「うむ。 アニムのところがよかろう」
ルナはゼロとテツを抱えたイリアスと一緒に王宮へ向かう。
フレイアはただポカーンと見ているだけだった。
ハッと気づく。
「ルナ様ぁ、待ってくださーい」
急いでルナたちの後を追った。
リリィと呼ばれたエルフはそのまま置き去りにされている。
特に怪我もしていないし、自然と目が覚める方がいいと判断されたようだ・・たぶん。
◇
<王宮>
時間は19時頃だろうか。
アニム王は政務を終えて休息を取っていた。
!!
突然、ダンジョン方向で巨大な魔素の拡散を感じる。
そして、すぐにその魔素を包み込むように結界の展開も確認。
「なんだいったい・・何が起こっているんだ? まさか氾濫か? いや違うな・・これは」
アニム王は席を立ち、アリアンロッドを呼ぶ。
すぐにアリアンロッドが現れる。
「アリアンロッドよ、この魔素の波動を感じるかね?」
アニム王が尋ねる。
「い、いえ・・一瞬だけ何か圧力のようなものを感じましたが、それだけです。 申し訳ありません」
アリアンロッドの言葉にアニム王は考える。
なるほど・・結界によって魔素の波動が抑えられたのか。
だが、いったい誰が結界を・・それよりも先ほどの巨大な波動は誰だ?
アニム王の頭の中では疑問が渦巻いている。
「アリアンロッド、ダンジョンの方で何か起こっているようなのだ。 すぐに調査してくれないか」
「御意に」
アリアンロッドはすぐに部屋を退出する。
アニム王は思う。
せっかく邪神王との戦いも終わったというのに、またよくないことが起きようとしているのか。
テツも帰還し、これからこの世界を良い方向へと考えている矢先にこれだ。
私にどれほどの試練を与えるというのだろうか。
だが、それを嘆くことはできない。
それに私は一人ではない。
この星の住人たちもいる。
いろんな意見が交じり合えば、今までにない新しい発見もあるだろう。
アニム王は窓の外を眺めていた。
◇
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