133 挑戦
「・・い、いや、ジェニー・・いいんだ。 それにアン、無事に魔物を討伐できたから良しとしてくれないか?」
ケインが落ち着いた口調で言う。
「ま、まぁ、別にいいけどね」
アンは苦笑するとアベルとジョーのところへ戻って行く。
ケインにはわかっていた。
そして、誰もジェニファーのことは理解できないだろう。
簡単に言えば、ジェニファーは全く空気が読めない子なんだ。
言われたことはできるし、完璧にこなすかもしれない。
前に聞いたことがある。
ジェニファーに支援を依頼したパーティが、誰も経験値が手に入らなかったということだ。
ジェニファーが一人で魔物を倒したからだ。
そういった配慮が全くできない。
今までにそういった環境で育っていないから無理だろう。
そして、これからも難しいかもしれない。
人から見れば感情が無いと思われる。
だが、ケインは知っている。
ジェニファーはとても優しい子なんだと。
それはケインだけにわかることだった。
そして、その説明は誰にもできそうにない。
「ジェニー、大丈夫かい?」
ケインはそう言葉を出した。
「今の戦闘は良かったわね。 もう少しあの刺突剣が強ければ簡単に倒せたのに」
ジェニファーが言う。
「そうか・・行こうか、ジェニー」
ケインはそう言うと、アンたちのところへ歩いて行った。
ジェニファーもケインの後をついて行く。
「あ、来た来た」
アンが嬉しそうな顔を向ける。
「ケイン、私たちレベルが上がったのよ。 それでみんなでいろいろ話していたの」
「あぁそうなんだ。 俺もスキルが増えてるし、ジョーなんて魔法力が上がったようだぜ」
アベルも少し興奮気味だ。
「アベル、自分のことばかり言わないで私のことも言ってよ」
「あぁ、ごめんアン。 アンも剣技のスキルが獲得できたんだろ?」
「そうよ。 スラッシュ技が増えているわ。 これでこれからは少しは戦闘が楽になりそうよ」
アンもうれしそうだ。
・・・
ケインはみんなの話を聞き終えると、一呼吸おいて言う。
「みんな、この25階層のフィールドエリアには、さっきのような魔物はもういないだろうと思う。 ただ、エリアボスだな。 一度戻ってもっとレベルを上げてからこの階層ボスに挑むか、それとも少し休憩してからボスに挑むか・・どうする?」
ケインも迷っていた。
おそらく先ほどのオーガの変異種よりも強い魔物がボスにいるはずだ。
みんなレベルが上がったと言っていた。
俺も上がった。
だが、一つ上がっただけで厳しいかもしれない。
同時に自分のレベルが上がったことによって慎重さが失われてしまうのも事実だ。
以前の自分よりも確実に強くなっているのは間違いない。
だが、それは自分の感覚だけで、上位者から見るとそれほど変わらない。
ケインがレベル26⇒27、みんながレベル25⇒26になったはずだ。
正直、後2つくらいレベルを上げて挑みたい。
ケインがそんなことを考えていると、アンたちがニコニコしながら話をしていた。
「・・そうよねぇ、私はエリアボスに挑んでもいいと思っているわ」
「アン、厳しいんじゃない? みんなレベルが上がると浮足立つんだよ。 これでどれほどのパーティが帰ってこなかったかわからない」
ジョーが慎重な考え方をする。
「ジョー、確かにその通りだよ。 難しい選択だよな」
アベルが頭の後ろで両手を結んで上を向く。
「アベルもジョーもレベルが上がって攻撃力、防御力、それに回復力も上がってるでしょ? 私だってそうよ。 それにジェニファー、あなたにも手伝って欲しいわ」
アンそう言うとジェニファーの方を向く。
アベルとジョーも一緒に向いた。
ジェニファーはみんなの顔を見てケインを見る。
ケインがうなずいて答える。
「ジェニー、どうかな? 今度は戦闘に参加してもらえないだろうか」
ケインはそう言いながら続ける。
「そうだなぁ・・俺たちの誰かが危なくなったら手助けしてもらえると助かるよ」
ケインの言葉にジェニファーが考えている。
・・・
・・
みんなも黙ってジェニファーを見ていた。
「ぷはぁ・・こっちの息が止まりそうだよ。 ジェニー、俺が危なくなったら助けてもらえるかな?」
ケインが少し笑いながら言葉を変えた。
「えぇ、いいわよ」
ジェニファーが答える。
どうやらケインたちのパーティは、フロアボスに挑む方向で話が進んでいるようだった。
「ケイン、このフロアのボスって何がいるのかな?」
アンが聞く。
「さぁ、俺も25階層なんて来たことないし、わからないよ」
ケインがそう答えると、みんなもうなずく。
「オーガジェネラルがいるわよ。 キングはいなかったと思うわ」
ジェニファーが言葉を出す。
「「「え?」」」
・・・
「ジェニー・・このフロアに来たことあるのかい?」
ケインがおそるおそる聞いた。
「えぇ、何度か来たことあるわ」
ジェニファーの言葉にみんなが注目する。
そして、ボスに挑むことが確定したようだ。
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