13 ヘルヘイム
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
感謝です。
ヨルズの案内で、俺たちはデーモンロードことヘルヘイムと呼ばれる人物のところへ向かう。
ヘルヘイムは死霊国家と呼ばれるところで住んでいるそうだ。
確か、神官長たちに聞いたところでは、調査に行ったが誰も帰って来たものはいないとか、生けるものが近づくようなところではないとか話していたような・・違ったか?
俺はそんなことが頭に浮かんだ。
途中、ヨルズが話してくれたところによると、そういった良くない噂を意図的に流し続けているのだそうだ。
ヘルヘイムの指示らしい。
そして、実際に興味本位で近づいてくる連中の記憶を改ざんして、強力な負の感情を焼き付けて帰還させたりすると言う。
中には反抗的なものもいるらしく、そんな連中は本当にそのまま永遠に帰って来ることはない。
・・・
・・
ヨルズの案内で、ダンジョン最下層の奥に行くと、転移用の魔法陣があった。
クリア報酬みたいなもので、自力で帰る必要はない。
自分の好きな場所へ転移できるそうだ。
まぁ、自分の記憶にあるところだけだが。
「ではルナ様、それにテツ様。 こちらへどうぞ」
ヨルズがそう言って俺たちを魔法陣の中へ案内してくれた。
「では死霊国家の門まで飛びますよ~。 それ~!」
ヨルズがそう言うと、魔法陣が白く光る。
俺たちの周りを半ドーム型の膜が覆う。
・・・
・・
俺たちの周りが白く光り、その光がだんだんと色づいてくる。
膜が消えると、殺風景な岩がゴツゴツした場所に転移していた。
薄暗い空とゴツゴツした岩ばかりの風景だ。
遠くには大きな山みたいなものが見えるが、霞んでいる。
「無事、転移できたみたいですね。 えっと・・あちらが入り口になります」
ヨルズが俺たちを先導してくれる。
ヨルズ、今無事転移できたって言わなかったっけ?
無事じゃないことがあるのか?
俺は少し不安に思い、聞こうかどうか迷ったが、聞いてみた。
「あの、ヨルズさん。 魔法陣の転移って、無事じゃないことがあるんですか?」
「え、あ、はい。 周りの魔素が不安定だったり、転移者との適合にも寄りますが、稀に全く別の所に飛ばされたりするって聞きますね。 それに、ヨルズでいいですよ、テツ様」
ヨルズは言う。
「そうなんだ。 あ、ヨルズ、俺もテツでいいよ」
俺がそういうとヨルズが首を振る。
「いえいえ、そういうわけにはまいりません。 龍神様の眷属の方ですし、しかもルナ様と親しいお方です。 そんなご無礼はできません」
ヨルズが言う。
俺は黙って笑いながらうなずく。
勝手にしてくれ。
◇◇
<ブレイザブリクの神殿>
神殿では少しザワザワしていた。
「どうでしたか、あの神殿騎士たちは?」
神官長が聞いている。
「はい、イザベルでダンジョンに向かったまま帰って来ていないと報告が上がっております」
神官長の前で膝まづいている若い男が言う。
「そうですか・・なぜダンジョンなどに向かったのでしょうか?」
神官長が真剣な顔で下を向く。
「ふむ・・光の巫女の捜索をするのにダンジョン・・わかりませんね。 ライセンスカードもダンジョンの中では位置が把握できませんし・・」
神官長はブツブツとつぶやいている。
「・・わかりました。 引き続き情報を集めるように指示しておいてください」
「はい、わかりました」
若い男はそう答え、ゆっくりと立ち上がる。
そして、神官長を見つめていた。
「ん? どうかしましたか?」
神官長が聞く。
「いえ、私の発言をお許しください」
若い男がそういうと、神官長はうなずく。
「これは推論ですが、彼らはダンジョン内で倒れたのではないのでしょうか? イザベルのダンジョンは40階層もあると言われています。 さすがにそんな階層の魔物相手では、生き残れないのではないでしょうか」
若い男が慎重に話していた。
「私もそれを疑いました。 ですが、ここで計測したステータスですが、脅威的でしたよ。 でもまぁ、40階層もあるダンジョンの負荷がかかるような場所では、生きている可能性は薄いですね・・」
神官長もそう答えながら、若い男に仕事に戻るように指示をする。
それにしても、光の巫女を探すのに、また違う人材を派遣しなければいけないのでしょうか。
いったいどこに行ってしまったのでしょう。
我々神殿を守護するものたちが恩恵を受けるのは当然です。
そのおこぼれをきちんと一般市民にも分けているのです。
問題はないでしょう。
王子はまだ若い。
我々のことなど理解できるはずもない。
さて、一刻も早く光の巫女を探し出さねばいけませんね。
神官長は、ゆっくりと前を向いて歩きだした。
◇◇
<イザベルのダンジョンを後にして>
ヨルズに案内されながら、岩の間を歩いて行く。
一気にジャンプして行きたい感じだが、そうもいかないらしい。
ある一定のところからは歩いて行かないといけないようになっているそうだ。
ヨルズの勝手知ったる道らしく、鼻歌交じりに歩いて行く。
10分ほど歩いただろうか。
「あ、ここが入り口です」
ヨルズが指さしてくれた。
大きな岩が並んでいる。
見ようによっては大鳥居のような感じだ。
岩だけで組んでいるというか、重なっているというか、そんな感じだ。
ヨルズについて歩いてその入り口を通過した。
!!
通過した時に感じる。
アニム王国の神殿や学校を通過した時のような感覚。
薄い膜を通過した、そんな感じだ。
俺が少し驚いた顔をしていると、ルナが言う。
「テツ、感じたか。 防御結界というほどのものではないが、誰が入ったかわかるシステムだ」
「そうです、さすがルナ様。 変なのに入られたら困りますからね」
ヨルズが明るく答えてくれる。
俺もうなずきながら微笑む。
変なものって・・何があるんだ?
そんな考えが少し頭をよぎったが、すぐに消えた。
岩の壁を抜けると、俺たちの目の前には緑の世界が広がっていた。
全く想像できない世界だ。
あの岩場の中にこんな世界が広がっているとは。
「ようこそ、ヘルヘイム様の国へ」
ヨルズがそう言ってニコニコしている。
岩の柱を抜け、緑に囲まれた草原をゆっくりと下って行く。
なだらかな坂だ。
周りは牧場のような雰囲気を感じる。
太陽があるのかと思って空を見上げるが、太陽はない。
ただ、光は降り注いでいる。
長い坂を下って行くと、道の先に誰かいる。
ヨルズは鼻歌で歩いている。
いつの間にか、ヨルズの鼻歌が聞こえなくなっていた。
だんだんと道の先の人に近づいて行く。
ヨルズの顔が真剣な顔になっている。
ようやく人がお辞儀をしている姿がわかった。
・・・
俺たちが近づいて行くまで、ずっとお辞儀をしたままだった。
疲れるだろうに・・俺はそう思ったが、まだ頭を下げている。
ヨルズが驚いた顔をしていた。
「へ、ヘルヘイム様・・ですか?」
ヨルズは小さな声でつぶやいている。
その声が聞こえたのかどうかわからないが、ゆっくりと姿勢を正していく。
さわやかな男前のおっさんとは言えないが、落ち着いた感じのする人だった。
「まさかとは思いましたが、ルナ様でございますね」
いい声がする。
こいつ、この声だけで食べて行けるぞ。
俺は瞬間的にそう思いつつも、警戒していた。
というのも、直感が言う。
こいつはヤバい。
穏やかな眼差しだが、深い湖のような奥行きを持った目をしている。
「ヘルヘイムか。 若いな」
ルナが言う。
「はい。 転生術を使いまして身体を再生したのです。 まだまだ1000年ほどだと思いますが・・時間はよくわかりません」
ヘルヘイムがそう言いながら微笑む。
「ふむ、そうか。 ヘルヘイムよ、ワシも分身体なのであまり偉そうなことは言えんがな・・」
ルナは苦笑いしていた。
ヘルヘイムは少し目線を移動して俺を見る。
ジッと見ている。
俺もヘルヘイムを見ていたが、その眼力に完全に負ける。
ゆっくりと目線を逸らした。
「ルナ様、お連れの方は人間・・ですか? 不思議な感じがしますが・・」
ヘルヘイムが言う。
「うむ。 この星の人間だ」
ヘルヘイムが驚く。
「まさか・・この星はそれほど進化したのですか。 いえ、私も地上へはほとんど行ったことはありませんが。 しかし、この方はまた何と言うか、人ならざる感じも受けますし・・う~ん・・」
ヘルヘイムはものすごく悩んでいる。
腕を組んで悩んでいたが、少ししてルナの視線に気づく。
「あ、これは失礼しました、ルナ様。 どうぞこちらへ。 お茶でも飲みながらいろいろ伺いたいと思います」
そう言うと、ヘルヘイムが俺たちを屋敷まで案内してくれる。
ゲートを使って、屋敷に行くそうだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
よろしければ、ブックマークなど応援お願いします。