129 脅威
「さてテツ君、君が調査に来た人物だが・・」
ゲブが説明してくれた。
名前はジェニファー。
レベルは39。
魔導士としてギルドに登録されている。
今は仲間とともにダンジョンに行っているそうだ。
北米のダンジョン。
当初は40階層だったが、今は3層増えて43階層になっているという。
ゲブが到着して密かにダンジョンをクリア。
管理権限をもらい、運営しているという。
ゲブのレベルもあり、ダンジョンが少しずつだが成長しているそうだ。
・・・
・・
時間は5時前になっていた。
俺たちはギルマスの話を聞き終え部屋を出る。
そういえば、なんでギルマスのレベルが変化していたのか聞くのを忘れた。
まぁ、スキルで相手に自分を知られないようにするものかもしれない。
敵でもないし、あれこれと詮索するのは失礼だろう。
それにギルマスがうまく話を振ってくれたおかげで、キャシーの興味は違う方向に向いたしな。
俺たちはギルマスの案内でギルドの宿泊施設を利用させてもらうことになった。
魔導士ジェニファーに会えるまでは時間がありそうだ。
◇
ゲブは1人で自分の部屋にいた。
椅子に座り目を閉じている。
『ゼグメドの姉さんよ・・』
どうやら念話を送っているようだ。
『なぁに、ゲブ』
それほどのタイムラグもなく返事が返ってくる。
『こんな朝っぱらからすまない。 少し気になることがあったんでな』
『ほんとよ。 まだ光の見えていない時間よ。 で、何?』
ゼグメドは別に嫌味な感じではなく答えている。
『あぁ、実はな、気になる人間がいるんだ』
ゲブが言う。
『アニム王の他に・・だわよね?』
『そうだ。 この星の人間らしいのだが、先程手合わせをした』
『・・ゲブ、その人間ってテツって名前じゃなかった?』
ゼグメドの言葉にゲブが驚く。
『なっ、知っているのか、ゼグメドの姉さん!』
『知っているというより、あの戦争後にアニム王の帝都で会ったわよ。 晩餐会でアニム王が紹介してくれたわ。 かわいい子だった気がするのだけれど』
『そうか・・なら話が早い。 俺がまるで歯が立たない感じだったよ』
ゲブの言葉に沈黙が続く。
『どうしたんだよ、ゼグメドの姉さん』
『い、いえ、あなたの力が通じなかったの?』
『いや通じなかったんじゃない。 なんと言うか、大人と子供の力比べのような感じだ』
『・・脅威ね』
ゼグメドは冷静に答える。
『あぁ、脅威だ。 本人にその意思がなくてもな』
『彼は人間でしょう? それもこの星の。 何故そこまで力を持つことができたのかしら?』
ゼグメドが不思議そうに聞く。
『わからねぇ。 まぁそのうちに調べておくよ。 ただ、そういった人間がいるということを伝えておきたかったんだ』
『そう、優しいわねゲブは。 ありがとう』
『じょ、冗談じゃねぇぜ。 俺はそんなつもりで・・』
ゲブが照れ隠しなのか、椅子から立ち上がっていた。
『いいのよゲブ。 アレス王には私から伝えておくわ。 いつも私たちの心配をしてくれてるのよね』
ゼグメドがそう言い終わらないうちにゲブが言葉を被せる。
『だ、だから違うと言って・・』
『じゃ、またね』
ゼグメドはそう言うとサッサと念話を切ったようだ。
ゲブは椅子に座り直してテツとの手合わせのことを思ってみる。
・・・
あの男・・全然本気じゃなかっただろう。
いや、本気だったかもしれないが、殺気は全くなかった。
もし本気で俺を倒す気で向かって来ていたら、俺など瞬殺されていただろう。
ゲブは冷静に分析していた。
それにあの武器・・妙な感じがした。
まるで生きているようだった。
あの武器を持って戦う時に真に力が解放されるのだろうか。
どちらにしても、普通じゃない。
本人はそれをどこまで意識しているのだろう。
俺の考え過ぎか?
・・・
わからない。
だが、用心に越したことはない。
ゲブはテーブルの上のパネルボードを取り出して、テツのことを調べ始めていた。
◇◇
<ジェニファーたちのパーティ>
ケインたちはダンジョン24階層にいた。
「ふぅ・・ようやくこの階層もクリアだな」
ケインが言う。
「えぇ、次はまだ行ったことのない階層ね」
「あぁ、俺たちのパーティは北米エリアでも結構上位にいるよな?」
「確か5本指に入っているって聞いたぞ」
「掲示板にランキングが表示されていたと思うが、よく見てないんだよ」
ケインの仲間たちが楽しそうに話している。
「ジェニー、すまないな。 活躍するところが無くて・・」
ケインが笑いながら言う。
「別に気を使わなくてもいいわよ」
ジェニファーは戦う場面がない。
ジェニファーが戦えば、一瞬で戦闘が終わる。
ケインたちのパーティに経験値が入らない。
それに、ジェニファーは38階層まではクリアしていると言っていた。
何の問題もない。
またケインからは戦わなくてもいいとも言われていた。
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