124 北米ギルドへ
<北米ギルド>
金色というよりも銀色に近い短い髪を片手ですくっている。
スラッとした後ろ姿でギュッと捕まえると壊れそうな感じがする。
視点を移動させ、顔が見えるようになると誰もが思うだろう。
美少女だ。
その女の子がギルドの掲示板を見ていた。
「ようジェニファー、今日もダンジョン攻略か?」
陽気な男が声を掛ける。
「そうね」
ジェニファーと呼ばれた女の子は答える。
「そうだ! 俺たちと一緒に行かねぇか?」
男が言う。
ジェニファーがゆっくりと男の方を見ると、頭からつま先まで視線を移動させる。
「ケイン、別にいいけど私は何かあっても助けないわよ」
「ゲッ、本当かよ。 ジェニー、君は強いよな?」
ケインは少し驚いた感じで聞く。
「えぇ、もちろん」
「仲間が危なくても助けないのか?」
男が聞く。
「仲間? ケイン、私は常に一人よ」
ジェニファーは普通に答える。
「ジェニー、それはないだろう。 パーティを組んだら仲間だろう」
「ケイン、私は一緒には行くけど誰ともパーティを組んだことはないわよ」
ジェニファーはそう答えつつも、実際は目の前での事態には対処している。
「ケイン、ジェニーの人嫌いは昔からだ。 仕方ないさ」
ケインの横の男が笑いながら言う。
「それは知っているよ。 だが、ジェニーはいい子なんだよ。 俺が困っていたら助けてくれたりしてさ・・」
ケインと横の男はうなずきながら話している。
ジェニファーとケインの家は隣同士だった。
ケインの隣に引っ越してくる家族がいるという。
母親と子供一人の親子。
可愛らしい女の子が見えた。
ケインは一目ぼれだった。
挨拶すると、その女の子はジェニファーと言った。
しばらくすると見知らぬ男が出入りするようになる。
どうやらジェニファーの母親と再婚するらしい。
そのうちジェニファーは笑わなくなっていた。
気がつくと、ジェニファーの家には誰もいないのかと思うほど静かになっていた。
ケインは不思議に思い、ジェニファーの家の周りをウロウロしたものだ。
ジェニファーが家の裏で一人で遊んでいた。
お母さんは? とケインが聞いても答えない。
変な男も見かけない。
後でわかったのだが、どうやらジェニファーをおいて母親は男と出て行ったらしい。
それからジェニファーは一人で暮らしていた。
たまに行政の人が来て様子を見る程度だ。
それでもジェニファーは学校にも行き、きちんと育っていった。
ケインも子どもだったし、ジェニファーがどうやって生活をしていたのかわからない。
ケインの家族も関わろうとはしない。
行政の人がやってきてお世話をしているのだろうという話を親がしていただけだ。
ケインもそんなものかと思っていた。
ジェニファーとケインは14歳になり、学校でも進路や人生設計を討論するようになっていた。
ケインは警察官になりジェニファーのヒーローになりたいと思っていた。
ジェニファーは特に未来を描いていないようだった。
描けるはずがない。
モデルとなる大人が近くにいないのだ。
親は自分を捨てていなくなった。
むしろ今の年齢まで普通に育ってきたのが不思議なくらいだ。
行政の人たちも自分達の職務以上のことはしない。
どこかの富裕層の老人との養子縁組の話もあったようだが、ジェニファーが断ったそうだ。
ケインから見たジェニファーは明るい女の子だ。
だが、その言葉は軽い感じがする。
自分の命すら軽く扱っている感じがする。
生きる目的なんていうのも、何か感じられない。
だが、今の魔法やレベルがある世界になってジェニファーは活き活きとしている感じがする。
レベルが上がり自分の成長を感じる、そのこと自体に喜びを感じているようだ。
今を生きる女の子だ。
もっと他にもいいものを見つけて欲しい。
ケインはそう思っていた。
他の女の子みたいにもっと心の底から笑える笑顔を見たかった。
ジェニファーは笑うが、本当に笑ったことがないんじゃないかと思う。
親の愛情というのを知らない。
そういう一種欠けて育っているのだろうと、ケインは考えていた。
「ジェニー、まぁそれでもいいさ。 後で俺たちとダンジョン行こうぜ」
ケインはそう言う。
「いいわよ」
ジェニファーも軽く答える。
「サンキュー! 俺たちのパーティも少し準備してくるよ」
ケインは仲間のところへ歩いて行く。
ジェニファーはケインを見送ると、また掲示板を見つめていた。
◇◇
<帝都ギルド>
俺とフレイアは北米行の発着場へ到着していた。
出発まで少し時間があるようだ。
俺たちは飛行船に乗り込む。
この飛行船は3階層あるようだ。
一番下、船底は荷物などを運ぶエリア。
1階は自由席と軽食などのエリア。
2階は自由席と指定席のようだ。
俺たちは2階席に移動。
移動時間は3時間程度だという。
俺たちは窓際の席に座る。
「テツ、北米ギルドだけれど、ギルドマスターのこと知ってる?」
フレイアが席につくなり聞いてきた。
「ギルドマスターか・・そういえば、帝都のギルドマスターってトリノさんだよな。 ミランさんが亡くなって北米から交代で来た人だから・・ん? 誰が北米のギルドマスターになっているんだ?」
そんなこと考えたことなかったな。
俺はフレイアの顔を見る。
フレイアがニヤッとしながらうなずく。
「えへん。 実は魔族のゲブって人がなっているのよ」
「魔族?」
「そ! 魔族よ」
フレイアは当たり前のように答える。
俺は魔族と聞いて、頭の中には晩餐会で出会った超絶美女たちが浮かんだ。
名前は憶えているぞ。
イシス、ゼグメド、ネイトだったよな。
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