113 レアと嫁
<帝都の学校>
テツが南極へ到着したくらいだろうか。
時間は13時頃になっていた。
学校の食堂で嫁と子供たち、お義母さんが食事をしていた。
「梓、それにしてもテツさん無事に帰って来てよかったじゃない」
お義母さんが言う。
「・・・」
嫁は返事をしない。
「うん、凛もそう思うよ、ばあちゃん」
凛がニコニコしながら返事をする。
颯はバーンと一緒に食事をしていた。
「どうしたの、梓? どこか調子でも悪いの? 私が回復させてみようか?」
お義母さんが言う。
「ううん、大丈夫お母さん。 ありがとう」
「変ねぇ、元気ないわよ」
お義母さんがそこまで話すと、嫁の横に人影が見えた。
嫁がその影の方向を向くと女の人が立っていた。
レアだ。
「お食事中に申し訳ありません、梓様。 少しお時間よろしいでしょうか?」
お義母さんは誰? という感じで見ている。
その視線をレアが感じ、急いで挨拶をする。
だが、その動作は優雅だ。
「こんにちは、お食事中に失礼いたします。 見たところ梓様のご家族の方とお見受け致します。 私レア・レイドルドと申します。 梓様の旦那様、テツ様とは戦友と申しましょうか、アニム王を通じて顔見知りでございます。 以後お見知りおき、よろしくお願い致しますわ」
レアが流暢に話す。
嫁は前に会っている。
何でも第二夫人がどうのこうの言ってきた変な女という認識だ。
「梓様、どうでしょうか?」
レアが再度問うと、嫁がうなずいて立ち上がる。
「わかりました。 レアさん行きましょう。 お母さん、ちょっと席を外すわね」
嫁はそう言うとレアについて行く。
「ママ、行ってらっしゃーい」
凛が手を振っていた。
颯もバーンを頭に乗せて見送っている。
「いったい何なのかしらねぇ」
お義母さんは嫁の背中を見送りながら、颯や凛と残りの食事を食べていた。
レアと嫁が食堂を出て自習室のようなところへ来ている。
「梓様、この部屋でお話いたしましょう。 簡易的な遮音壁もあるようですし、会話が漏れることはありませんわ」
レアが微笑みながら嫁に言う。
レアのロイヤルガードたちは近くにはいない。
ただ、何かあれば即座に集まるだろう。
嫁は席に座りながらレアを見つめる。
レアも席に座り嫁を見つめる。
「レアさん、どういったお話でしょうか?」
嫁がしっかりとレアを見つめて聞く。
レアはにっこりと微笑み、大きくうなずく。
「はい、単刀直入に伺いますわね。 梓様は、テツ様をどういった存在としてとらえておられるのでしょう?」
レアの言葉に少し驚いたが、嫁は少し下を向いて考えている。
おそらく第二夫人がどうのこうのといったことだろうと推測しながら、ポツリポツリと話始めた。
初めは今の状況だった。
自分達を放り出して冒険などをしているという。
また、こんな世界になりそのうち帝都に移住になるが、自分には選択権はなかったと話していた。
レアはどうやら聞き上手のようだ。
そして途中で質問を入れたりする。
「梓様、ではテツ様はこの世界になるまではどのような方でいらっしゃいましたか?」
レアのその質問に、水を得た魚のごとく嫁が話始めた。
・・・
・・
レアはその一言一言に全精神を集中させていた。
嫁の所作、言葉遣い、言葉を発するタイミングなどなど。
どんな雰囲気も見逃さないだろうと思われる感じだ。
ただ、そんな感じは微塵もさせないが。
レアはテツが報告のためにゼロのところへ出発する前に、テツ自身に聞いていた。
嫁がどんな人物なのか、そしてテツにとってどんな存在なのかを。
テツ様が言うには、家族の一員として接していると言う。
子供たちの成長には必要な存在なのだと。
ただ、自分のパートナーとしては全く不要だとはっきりと言っていた。
レアは衝撃だった。
まさか、一度はパートナーとして選んだ女性をそれほど拒否できるものなのかと。
テツ様は人ではないのかとさえ思った。
だが、テツ様の話を聞いているとなるほどとも思える。
長い年月をかけて言葉の刃で斬られ続けたという。
自身の存在を否定されたり、すべてをお金の価値に換算されて比較され続けたそうだ。
人の価値をたったその一つのモノサシで計るなんてありえないだろうとテツ様は言っていた。
それに、前の世界での生活の基盤。
テツ様が稼いでくるお金は少なかったが、それでもテツ様のご両親とともに家を手に入れたと言う。
梓様はお金を全く出さずに、それらを手に入れたそうだ。
テツ様は、何十年、いや一生かかっても稼げないお金を最初に手に入れて家などを手に入れたと思えば、自分の稼ぎが少ないのは仕方ないと考えれないのかと梓様に話したと言う。
普通の人たちなら借金をして返済していく過程で、テツ様と同じくらいかそれ以下の手取りになる。
それを目の前にあるものだけで判断する梓様が許せないが、実際に稼いでくるお金が少ないのも事実。
その話をするたびに、梓様が余計な話をして自分を攻撃してくると言う。
それが繰り返されて、そのうちに何も言いたくなくなったと話されていた。
また余談的に、食事をするときには自分の席はないとも笑いながら話していた。
ではどこで食べるのかと尋ねると、踏み台に座って冷蔵庫の前で食べていたという。
レアには信じられなかった。
・・・
レアの頭にテツが照れながら話している姿が浮かんでいた。
「・・とまぁ、そんな感じで俺の弱いところも一応お話しましたが、確かに男がお金を稼いで来れないのは、情けない話ですね」
「いえいえテツ様、それは違いますわ。 パートナーという仲間がいるのです。 協力して事をなしていくのが当然だと思われます。 ますます私は好きになりましたわ」
レアはそんな回想を頭に浮かべていた。
話を聞きながら、レアは軽くうなずき梓を見つめる。
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