110 クイーンバハムート
時間は11時になっていた。
かなりの時間、会議をしていたようだ。
みんな少し疲れたような感じで、それぞれの業務に戻って行く。
俺の仕事は、地上の街とその北米の魔法使いだかの調査らしい。
アニム王の配慮で、俺の動きが制限されないための布石のような感じだったようだ。
俺みたいな個人的に力のあるものが勝手に動くと不審がられるというわけだ。
それとも俺の帝都に対する踏み絵かな?
これは考えすぎか。
「ふぅ・・少し疲れたね」
アニム王が言う。
今残っているのは、アニム王と俺、フレイア、ルナ、レアとロイヤルガード、騎士団長、それにエレンさんだけだ。
人数が少なくなってくると、レアが俺の横に来て「テツ様、テツ様」とうるさい。
俺が少し困った顔をすると、ロイヤルガードの怖い女セレネーが俺を睨む。
それが怖いんだよ。
普通の時はとても美人なんだがな。
俺がレアに絡まれている間に、アニム王はルナと何やら話をしている。
そのうちルナが大広間を出て行った。
騎士団長とエレンさんもいなくなる。
アニム王もそろそろ政務に戻ると言う。
俺は急いでアニム王に話しかける。
それにしても、この変な話し方をするレアさん、ちょっと離れろ。
「アニム王、調査の前にゼロに挨拶に行って来ようと思っているのですが・・」
アニム王が微笑むのをやめて俺を見る。
「ゼロ・・クイーンバハムートだね」
「はい。 邪神王の時も俺を鍛えてくれましたからね。 大げさに言えば、アニム王と違った形で俺を育ててくれた恩人です。 とはいっても状況には介入しないみたいですが・・」
俺の言葉にアニム王はうなずく。
「うむ。 それがいいだろう。 こちらも別に急ぐようなことではないよ」
アニム王は政務に戻って行った。
俺もそろそろ移動しようと思う。
ゼロのところまで行くときに、飛行船の中で休憩できるだろう。
「テツ様、ゼロってどなたですの?」
レアが聞いてくる。
「はい、クイーンバハムートといって確か古龍の1人のはずです」
俺はそう答えつつも、ゼロの素性はよくわからない。
あの苦しい訓練だけが俺の頭をよぎる。
「ク、クイーンバハムートとおっしゃったか、テツ殿」
ロイヤルガードのメリッサとエリスが顔を向かい合わせて聞いてきた。
俺はうなずく。
レアとロイヤルガードたちが何やらザワザワと話し合っている。
・・・
それよりもさっきからフレイアは言葉を出さないな。
どうしたんだ?
「フレイア、やけにおとなしくなっているじゃないか」
「うん。 レア様のお話の邪魔をしちゃダメかなって思ってね」
フレイアは言う。
「何言ってるんだよ。 別に邪魔でも何でもないだろ? 何か伝えたいことがあったら言葉にしなきゃわからないぞ」
俺も偉そうに言っているなと思っていた。
俺自身が一番言葉を使っていないはずだ。
「テツ殿、そのゼロ、クイーンバハムートですが、見ることができたのですか?」
名前は忘れてしまったが、ロイヤルガード女の人が聞いてくる。
セレネーだけは覚えた。
「えぇ、俺が現場に行った時に小さな男の子? いや女の子かな、小さな子がチョロチョロしていたのです。 その子がクイーンバハムートだったのですが、その子がボクのことが見えるんだと言うのでうなずくと、いきなり吹き飛ばされて意識を失いました。 その後は回復してくれて、いろいろ会話しましたが、やはり見えないものとして扱われているのですか?」
俺はそう返答をする。
確かアニム王たちも見ることができないと言っていたからな。
今は見えるはずだが。
「そ、そうですか・・」
ロイヤルガードたちはまたも顔を見合わせている。
「失礼しました、テツ様。 まさかそれほどのお方とは思ってもみませんでしたわ」
レアが回答する。
「え?」
「いえいえ語らずともご推察いたします。 テツ様は神に愛されておられるのですね」
レアがニコニコしながら言う。
「か、神・・ですか?」
俺の方が驚く。
「えぇ、そうですわ。 さすが私が見込んだ殿方です」
レアが微笑みながらうなずく。
俺にはいまいちよくわからない。
神に愛されているというのは、前にもアニム王から聞いたことがある。
俺は朧げに自然から恩恵を受けられるのだろうなというくらいにしか思っていなかった。
神といっても自然という漠然としたものだろうと思っていた。
だが、この世界になってどうもその自然というか地球というか、そういった人よりも上位の存在の中で俺たちは生かされているらしい。
そして、そのシステムを構築した存在? というとよくわからなくなるが、それらが俺に話かけたりもしてくるようだ。
それが神だと言われても、俺は疑わないだろう。
ただ、何かをしてくれるわけではないが。
また、レアが嫁と会った時のことを話してくれた。
そして、俺が嫁に対してどう思っているのか聞いてくる。
俺は正直に話した。
嫁は子供たちには母親の存在としてはとりあえず必要だろうということ。
俺のパートナーとしては全く決別していることなどなど。
・・・
・・
俺は話しているうちに嫁の悪口のような感じがして、途中でやめた。
レアが目を大きくして反応する。
「そ、そうですかテツ様♡ なるほど、なるほど・・」
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