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104/236

104 吸収



俺はそっと右手を差し出す。

アイテムボックスにはまだシュークリームは残っている。

ただ、やたら食べだすと本当になくなってしまうので、ルナには少なく言っていた。

「ル、ルナさん。 後ほんの少しですけど、残っていました。 とりあえずこれで落ち着いてください」

俺の右手をルナが見つめ、電光石火の速さで俺から奪う。

!!

い、今、動きが見えなかったぞ。

マジか?

これがルナの本気の速度なのか?

1/10の分身体だろう。

それが今の俺のレベルでも見えないのか?

俺は妙に背中が寒くなる。

今まではどれも本気ではなかったのか?

そんな疑問が浮かぶがどうしようもない。


ルナは袋を開け、おいしそうにシュークリームを食べている。

月明かりの中、シュークリームを食べていたが少し顔を空に向ける。

「テツよ、迎えが来たようだぞ」

ルナが言う。

ルナの視線の先に、1隻の飛行船が迫ってくる。

・・・

!!

「あ、そうだった。 俺たち転移してたんだ。 いったいどれくらいの時間が経過したのだろう? 大丈夫か?」

俺はブツブツつぶやいてしまった。

ルナはゆっくりとシュークリームを味わっている。


そうだよ。

あのヘルヘイムやヴァヴェルのところでかなりの時間過ごしたぞ。

どれくらい経過した?

半年?

1年?

わからないな。

・・・

俺がいろいろ考えている間に飛行船が俺たちの前に到着。

入り口が開き、ウベールがまず見えた。

続いてアニム王、そしてルナの本体が現れる。

後は政務官たちだろう。

ん?

あ、あれは美人の神聖術師だ。

俺がそんな目利きをしていると、ウベールが駆け寄ってくる。

俺の前に来ると、いきなり片膝をつき謝罪から始まった。

「テツ殿! 本当に申し訳ありませんでした。 私がついておりながら、テツ殿にご不便をおかけいたしました。 ただ、ご無事のご帰還を迎え、本当に心よりうれしく思っております」

ウベールが声を大きくして言う。

・・・

いやいやウベール。

俺は普通の人間だから。

そんなに仰々しく挨拶されても困るし。

それに、飛ばされて案外楽しかったかもしれない。


俺が対応に困っていると、アニム王が後ろから声を掛けてくる。

「ウベール、テツが困っているではないか」

アニム王の言葉でウベールはゆっくりと立ち上がり、アニム王の後ろへ下がる。

「テツ、無事の帰還、お疲れ様」

アニム王が微笑みながら言う。

「い、いえ、こちらこそわざわざお迎えいただき、ありがとうございます」

俺は取りあえず挨拶を返すだけだ。

まさか王が俺みたいな一般人のために出迎えてくれているのだ。

ありえないだろう。

そんな俺を見ながらアニム王が言う。

「それにしてもテツ、随分早い帰還だね」

「え?」

俺は言葉を失う。

一体何?

早いってどういうこと?

そういえば、どれくらいの時間が経過していたのだろう。

ルナのシュークリーム案件でそんな疑問が吹き飛んでいた。


俺が呆けた顔をしていたのだろう、アニム王が言葉を続ける。

「どうやら時間の感覚が違ったようだね。 テツが飛ばされてから3日も経過していないのだよ」

俺はその言葉を聞き、なおさら言葉を失う。

は?

その疑問符のまま、俺と一緒に行動をしたルナの方を向く。

すると、ルナの本体が俺と一緒に行動していたルナに近づいていた。

2人が向かい合うと、ルナの本体が左手を前にゆっくりと出す。

分身体のルナが黒い霧のようになり、本体に吸収される。

・・・

俺は言葉すら出せずに見入っていた。

そりゃ、分身体だから本体が吸収するのは当然だろうが、あまりにも自然に行うので何ともいえない。

俺にとっては一緒に旅をした唯一の理解者だからな。

分身体はあっさりと吸収されてしまった。


吸収したルナがニヤッと笑う。

「フフ・・あっはははは・・これはいい。 なるほどな・・」

その場にいた全員がルナの笑い声に驚いたようだ。

ルナの方を向く。

「そういえばルナ、分身体は子供のような感じだったのでは? 今のは子供ではなかったようですし・・」

アニム王も気づいたようだ。

ウベールたちもそういえばそうだったなとか言っている。

みんなあまり気にしてなかったんだな。


「うむ。 アニムよ、分身体だがな、転移先でいろいろとエネルギーを得たらしい」

ルナがそういうとみんなに緊張が走る。

ルナはヴァンパイアだ。

忘れていたわけではない。

だが、あまりにも友好的なので警戒心が解かれていたのは事実だ。

そんな緊張をルナは感じたのだろう。

ルナが微笑みながら説明を始める。

「フフ・・驚くようなことではない。 転移先でダンジョンをクリアして管理者になったりしたようだぞ」

ルナがそう言うとみんなホッとしたようだ。

俺はそれを聞きながら言葉を出す。

「ル、ルナさん、それ・・」

俺がそこまで言うと、ゆっくりとルナが片手を挙げて俺に向ける。

「テツよ、わかっておる。 お主も苦労したようだな」

ルナが笑いながら言う。

俺は黙ってうなずいた。

・・・

・・

ルナは俺からライフドレインをしたことは言わず、転移先でのことを簡単に説明していた。

皆もそれを聞きながら、なるほど・・と納得していたようだ。




最後までお読みいただき、ありがとうございます。


これからもよろしくお願いします。


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