103 帰還
俺がルナの横に立つと、ストーンサークルの並んでいる石が柔らかく光り出す。
その後、俺たちの周りにゆっくりと白い霧のような膜ができ覆って行く。
白い膜が完全に覆う前にヘルヘイムが何か言っていた。
途中までしか聞こえなかったが。
「テツ殿、お気をつけくださいませ。 魔王の・・」
ヘルヘイムの声がそこまで聞こえたら、俺たちを白い膜が覆っていった。
そのうち周りの景色も見えなくなる。
・・・
なんかあっけないな。
俺はそう思いながらも、ヘルヘイムが何を言おうとしていたのか考えてみたが、やめた。
お気をつけくださいませ、というのは聞こえた。
その後がわからない。
『ま』・・何か言おうと口が動いていたが、何だろう。
また、お会いする日まで、かな?
俺はそんな風に考えて、すぐに記憶から消えた。
俺たちを包んでいた白い膜が薄らいでいく。
薄暗い空間にいるようだ。
どこだ?
ん?
!!
ここは、見たことあるぞ。
俺は辺りをゆっくりと見渡しながら思う。
あぁ、ここは・・
そう思って俺が言葉を出そうとすると、ルナが言う。
「テツ、ここは初めに飛ばされた場所だな」
・・・
「え、えぇ、そのようですね。 ということは、帰ってきたのですか?」
「うむ」
ルナがうなずく。
「さて、テツよ約束は果たせよ。 シュークリームを食べに行くぞ」
「え? 今からですか?」
俺は驚く。
帰って来たばかりでいきなりですか?
「当たり前ではないか」
ルナが俺の背中をバンと叩きながら歩き出す。
◇◇
<アニム王の王宮>
アニム王は大広間で椅子に座っている。
政務官などの報告を聞き、一息ついていたところだ。
大広間に優雅に歩いて来る人がいた。
ルナだ。
アニム王の方へ近づきながら話し出す。
「アニムよ、どうやらテツたちが帰還したようだぞ」
!!
アニム王が椅子から立ち上がった。
「本当ですか、ルナ! いったいいつ帰還したのでしょう?」
アニム王は驚いている。
「今だ。 こちらに来るときに、ワシの分身体の存在を確実に感じた。 テツたちが飛ばされた場所のようだぞ」
ルナはアニム王の傍まで来ていた。
「ありがとう、ルナ。 では早速迎えを差し向けましょう」
アニム王はそう言うと、早足で大広間から出て行く。
ルナはその背中を見送りながら微笑んでいる。
「アニムの奴も忙しいことだ。 それにしても、この分身体・・やけに大きな魔素を備えているが、どういうことだ?」
ルナは不思議な顔をして外を見る。
◇◇
<ルナとテツ>
俺たちは遺跡調査に参加し、転移させられたストーンサークルの中にいた。
あの時は入った瞬間にいきなり転移させられた。
訳がわからなかった。
そう思いながら俺は辺りを見渡す。
薄暗く、普通なら見えないだろうが俺たちには良く見える。
スキルの恩恵なのだが。
改めて見渡してみる。
なるほど、小さな円形になっているような感じがする。
あの転移先というか、この場所と背中合わせの空間のストーンサークルに似ているな。
それにしても、案外簡単に転移するんだな。
俺はそんな風に思いながら見ていた。
「どうしたテツ? あの転移先が懐かしいのか?」
ルナが聞く。
「いえ、そういうわけではないのですが、ここの石の配置があのストーンサークルによく似ているなと思って見ていたのです」
俺がそう言うと、ルナもうなずく。
「なるほどな。 確かに似ている。 だが、もう勝手に作動はしないだろう。 もっとも、魔力を込めたりすればわからんがな」
ルナはそう答えると、行くぞと言って俺の前を歩いて行く。
「え? また作動するのですか?」
俺はルナの背中を見ながら声を掛ける。
「条件が整えば、いつでも作動できるということだ。 だが、心配するほどのことではない。 ワシかアニムくらいでないと無理だろうがな」
ルナの発言を聞きながら、俺たちは地上へと向かう。
地上へ出た。
剣山の山頂だ。
入り口はきれいに修復されていて、普通に登山した時のような感じになっている。
まさかこの石の重なっている場所が開くとは思えないだろう。
そこから俺たちは出てきて空を見上げた。
きれいな月が天頂に輝いている。
夜のようだ。
少し肌寒い。
まぁ、2000メートル弱ある山だからな。
山頂から辺りを見渡す。
遮るものは何もない。
すっきりと月明かりの中、青い景色が見えた。
横を見ると、月明かりの中、黒く輝く髪をなびかせているルナがいた。
俺は思わず覗き込むように見入った。
なんてきれいなんだ。
ルナは月を見上げていた。
ゆっくりと視線を水平に移動させ、俺を見る。
ルナが微笑みながら俺に言う。
「さ、シュークリームが待っている」
・・・
「あ、あのルナさん、今から・・ですよね? お店は閉まっています」
俺おそるおそる答える。
こんな月が天頂に輝く時間だ。
当然お店は閉まっているだろう。
ゆっくりとルナを見つめる。
・・
固まっている。
少し震えているようだ。
すると、いきなりルナが俺の胸ぐらをつかんでくる。
「な、なに~!! テツ、貴様ワシの楽しみを取るというのか? いや、しかし・・えぇい、店に押しかけて今から開けさせろ! あれを食べないと、今食べないとどうにも収まらん!」
ルナは何か怒っているようだ。
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