りぼん、空を飛ぶ
人間と猫では、味覚と嗅覚のバランスや、顎の力や歯の形も全く異なる。
つまり……
(ごちそうさま。生でもおいしかった)
『それは良かったわ。あたし今目で見た事がわからないんだけど、何であいつの脚はいきなり切れたの?』
(固くした薄い布は刃物と一緒。縦に押し当ててそのまま伸ばせば、それで切れる。簡単な物理現象)
『うん、聞いてもわからなかったや。それはともかく、いい加減やり残したことはない?』
(無い)
『それじゃあ改めて、いちご山に向かって出発しましょう』
(うん。で、どっち?)
『ごめん、それあたしにもわからないの。とりあえず海を背にして進んで行って、人間の住む場所でもあったら、そこで情報を集めてみましょ』
(人間は嫌)
『そうは言っても、人間が使う地図でも見つけないと調べられないわよ。そもそも相手の言葉は聞けても、こちらから尋ねる術はないんだから』
(……あまねはその山を見たら分かる?)
『そりゃ、直接見えたらわかるわよ』
(それで十分。じゃあ出発)
『え? まさか歩いて探すつもりなの?』
(これがあれば、移動は簡単)
理凡はリボンの両端を地面に突き立て、自身を上空高く持ち上げるように伸ばした。
『何するつもり?』
(まずは上からその山が見えるかどうか確認。無いようなら、そのままこれを足代わりに使って歩く)
『けっこう無茶するわね。とりあえず、今のところはいちご山は見えないわ』
(了解、これより移動を開始……これ、思ったより難しい。風も強い)
例え小さくても、地上数十メートルに重心がある状態での二足歩行は無理があった。
『もう下りなさいよ。見てるこっちが怖いわ』
(風は海から内陸に向かって吹いてる、これならいける)
『ちょっと何する気よ』
(この風に乗って飛ぶ……こう)
地面まで伸ばしていたリボンを折り畳み、グライダーのような形を作った。
すると元々の軽さもあって一気に風に乗り、軽快に進んでいく。
(見た事ない建物)
少しすると、眼下に人間の街らしき建造物の群が見えた。かつて写真などで見たような気もするが、どこか違う感じも受けるそれは、理凡に別の世界に来たと言う実感を与える。
『あっ、あれ!』
さらに飛行し、海からかなり離れた為か風の勢いも弱まり、そろそろこの移動法に限界が見えてきた頃。まだ遠い地ににそれはあった。
周囲を広範囲に緑で囲まれた丸っこい山。あまねの反応から、どうやらあれで間違い無いようだ。
(あそこにポチが)
『もう完全に犬呼ばわりね。まぁいいけど』
理凡はちょうど森に入る手前辺りで着陸した。
『で、ここからどうするつもり? まだ山までは遠いけど』
(ここから先は陸路。ポチに会うまでに、いろいろやっておきたい事がある)
『それ普通もっと前に言う台詞よね。ここまで来たらもう大自然だけよ』
(大丈夫。むしろこんな場所の方が適してる)
理凡は躊躇う事なく、森に向かって足を踏み出した。




