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りぼん、未知の生物を食す

 もし人間のままであれば、そのまま補食されていただろう。

 しかし、猫の反応速度はまさに桁外れ。迫り来る謎生物の触手を難なく避ける。


(今の私なら、戦える?)


『いやいや無理だから。相手の攻撃を避けられても、こっちには何の武器も……あっ、そうよ武器よ!』


(何?)


『あなたに魔王と戦うための武器を渡すの忘れてたわ! 今のあなたじゃ、本当にただの猫よ』


(……今更言われても)


『大丈夫、後からでも渡せるから。とりあえず今はそいつから逃げて』


(分かった)


「あっ……逃げられたか」


 その生き物の陸上での能力は不明だが、とりあえず追い付かれなかった。



『いい? よく聞いて。まず、あなたが想像し得る最強の武器を頭の中に思い描いて欲しいの』


(最強の、武器……)


『ただし、今自分が猫である事は忘れないで。あと、弓矢のように消耗するのが前提の武器も、できればやめて。作れる数には限りがあるから』


(う~ん……あっ)


 一つだけ、思い当たる物を見た記憶があった。

 猫の体でも扱え、消耗品でもない、強力な武器。


(リボン)


『リボンって、あの髪を結んだりするあれ?』


(そう)


 理凡が想像したのは、見た目はアクセサリー等で使われる普通のリボン。

 しかしそれは、所有者の意思で長さや固さを自由に変化させられる代物だった。

 切る、叩く、刺す、掴む等々、工夫次第で物理的な動作は大抵出来るようになる。


『へぇ。面白いわね、それ。それに可愛いし。じゃあそれを抽出、具体化しつつ……そして具現化!』


 その直後、理凡の体に一本のリボンが巻かれ、背中で結ばれていた。


『ふぅ、うまくいったわ。とりあえず、ちゃんと動かせるか試してみて』


(うん)


 言われるがままに、理凡は新たに装備された武器(リボン)が動くイメージを思い浮かべると、本当に結んだ端が動いていた。

 その後試した、伸ばしたり砂をすくい上げたりと言った動作も、すべて容易く成功した。


(すごい)


『これで準備は整ったわね。それじゃあ魔王討伐に向けて出発よ!』


(その前に)


『何よ』


(お腹空いた)


『あぁ……そればっかりは自分で何とかしてもらうしかないわね』


(じゃあする。蛸は嫌いじゃない)


『たこって、もしかしてさっきのやつを食べるつもり?』


(行って来る)


『無理はしないようにね』


 女神あまねの心配は杞憂に終わった。

 さっきと同じ場所にいたあの生物と再び相見えたその数秒後、触手の数本が切り落とされ、相手はそれにびっくりして撤退していった。


 理凡が猫に転生して初めて食べたのは、蛸っぽい生き物の脚だった。

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