りぼん、異世界に立つ
猫に生まれ変わった理凡が始めに見たものは、ほぼ一面の青と白。
そして強烈な潮の匂いと波の音。
(……海?)
『お~い、聞こえる~?』
声はすれど姿は見えず。ちなみに声はさっきの女神のものだ。
(何で聞こえるの?)
『あたしこれでも女神なのよ、直接意識を繋げて会話くらいできるわよ。でもそっちの様子は、あなたが感じ取ってる情報しかわからないけどね』
(ふ~ん)
『そこは……海みたいね。うぅん、だいぶ遠い所に落としちゃったわねぇ』
(そうなんだ)
『そう言えば、詳しい話をしてなかったわね。まずはあなたが倒すべき魔王についてね』
(うん)
『魔王ってのは呼びやすくするための通称で、本名は"魔犬王ぽちのすけ"って言うの』
(犬?)
『ええ、犬よ。でももちろん、ただの犬じゃないわ。この世界を破滅させる力を持った恐ろしいやつよ』
(どんな力?)
『あいつは周囲の生命力や魔力なんかを吸収し、それを使って眷属を生み出す事ができるの』
(けんぞく?)
『簡単に言えば……子ども、みたいなものかな? とにかく、周りの力を吸いまくって、たくさん犬を作るのよ。そして何がやばいって、吸える力がある限り、いくらでも増やし続けられる事よ』
(犬が増えるのがそんなに危ないの?)
『確かに、それが自然繁殖の結果なら大した問題じゃないわ。そうそう簡単に大量発生しないし、例え増えすぎてもいろんな理由でちゃんと減るから』
(うん)
『でも魔王の力はそうじゃない。放っておけば、世界中のあらゆる命を吸い尽くし、犬だらけにしてしまうわ。しかもその犬達は、正しく生を受けた命ですらない』
(どうしてそんな犬が出て来たの?)
『それはあたしにもわからないわ、ぶっちゃけ興味なかったし。とにかく、魔王に全てを食い尽くされる前に何とかして欲しいの』
(その魔王はどこ?)
『うさぎ国にあるいちご山って山の中よ。今はそこに、あたしの力で出られないように封印しているわ。でも、それもいつまで持つか……』
(……もう一回言って)
『え、聞こえなかった? うさぎ国のいちご山よ』
聞き間違いでは無かった。
(名前がおかしい)
『あぁ、それはあたしがあなたに付けといた自動翻訳のせいね』
(自動翻訳?)
『それがないと、まずあたしと意志疎通ができないの。名前が変になってるのはたぶん、固有名詞までそっちが認識できる言葉に翻訳しちゃうから、かな?』
(そう)
『相変わらずの無反応だけど、それ結構すごいのよ。世界中の人間の言語はもちろん、その気になれば他の動物の鳴き声とかも翻訳できちゃうんだから!』
「おっ、何か旨そうな餌発見!」
『こんな具合に……って、後ろ後ろ!』
声がした方に振り向くと、そこにはこちらより大きな、蛸っぽい謎の生き物がいた。
『危ない!』
胴体から伸びる脚(触手?)が、理凡を捕らえようと伸びて来た。




