りぼん、猫になる
その少女は、人間として生きていくにはあまりに不向きだった。
帯長理凡。その名によって彼女が背負った運命は、自身の性格と相まって極めて過酷なものだった。
("共感"と言う概念で武装し、自分と"同じ"でないものは徹底して排除する)
幼稚園位まではかわいい名前で済んでいたが、小学校辺りから名前を弄られるようになった。
(人間達は、路傍の石すら許さない。味方でない存在は、全て敵)
中学に入ると、それは明確な攻撃となった。
(皆で同じ感覚を持ち、同じ話題のみで語り、同じ行動を取る。もはや私には、人間の姿をした蟻にしか見えない)
そして今、彼女は一つの決断を下した。本来立ち入り禁止な校舎の屋上、その縁から目標の姿を確認する。
(私は人間にはなれない。だから……)
自分を排除したがっていた娘達が、ちゃんと結果を確認して安心できるよう、彼女達が視認出来るタイミングと位置を見計らって……
理凡は、その人間の身体を捨てた。
「お~い、聞こえる~? 聞こえるなら返事して~」
(……誰?)
「うん、眼が覚めたわね。それじゃあまずは自己紹介。あたしの名前はあまね、これでもとある世界の女神なのよ。すごいでしょ!」
(……ふ~ん)
「うわ、反応薄。ちきゅうのにほんって国の人間はそう言うの大好きなんじゃないの? ……まぁいいわ。あなた、自分がどうなったか覚えてる?」
(うん)
「なら話が速いわ。あなた、別の世界で人生をやり直したくはない?」
(ない)
「あらら、難儀な子を引いちゃったわね。にほん人は適性高い事が多いから貴重なのに」
(人間と関わるのも、自分が人間であるのも嫌)
「ん? あなたはもう死んじゃってるから、人間じゃないわよ」
(じゃあ、何?)
「う~ん、あたしも難しい事はよくわからないけど、いわゆる魂ってやつ?」
(そう)
「そんなに人間が嫌なら、別の生き物に生まれ変わらせる事もできるけど」
(じゃあ猫で!)
「急に食い付いてきたわね。でもその代わりお願いがあるのよ」
(何?)
「その世界にいる、やばい魔王を倒して欲しいの」
(……他当たって)
「当たり尽くしたわよ! 現地の人間達に何度も注意喚起したし、あなた以外にもいろいろ引っ張ったりもしたわ。でも全部だめだった。現地人は聞く耳持たないし、召喚者はあえなく全滅。そんな中でようやく呼び出せたにほん人なのよ、もうあなたに賭けるしかないのよ!」
(何か勘違いしてる。私にそんな力は無い)
「大丈夫、物理的な戦闘力なんて後からでも付け足せるわ。大切なのは、その強大な未知の力を操れる想像力。その点においてにほん人はずば抜けて高いと言われているわ」
(そう。じゃあやる)
「そう言ってくれると信じていたわ! それじゃあ早速準備するわね。猫がいいんだっけ?」
(うん。モフモフのが良い)
「いいの? 自分がもふもふって、けっこう邪魔だと思うけど……まぁいいわ、あたしの世界に降ろすと同時に受肉するわよ」
(よくわからないけどわかった)
「それじゃあ、頼んだわよ……えいっ!」




