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深い空の向こうに  作者: お餅。
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2話 流星の空に


2話〜流星の空に〜


 俺は公園で出会ったルナを連れて、歩いて家へと戻っている。

 その間特に話す事もないのだが、ルナは俺の事を奇異の目で見てくる。

 「な、なあルナ…?」

 「ん…どうしたの?」

 それに、やけに嬉しそうな表情をしていた。

 「そんなに見られると、なんだか恥ずかしいんだが…」

 「あ、ごめんね…あまりにも似てるからさ…」

 少し申し訳なさそうな顔でルナは距離を離す。

 「ホントに、どう見てもそっくりでさ…」


 そこで俺はさっき気になった事を思い出して質問した。

 「そんなにそっくりなら、さっきアレでどうして俺がステラじゃないって判ったんだ?」

 「ああ、そんな事? 簡単な話だよ!」

 そう言うとルナは自身の首筋にある、あの時に見た三日月模様の毛並みを見せた。

 「僕とステラには元々、首元の左右にそれぞれ月と星の模様があるんだ。 だから…」

 「俺にはそれが無い、って事だな?」

 「そーゆーこと!」

 「ルナのいたところには、全員そんな模様があったのか?」

 「ううん、僕とステラだけだったよ。 それに…」

 「それに…?」

 突然言葉を詰まらせるルナ、少しの間の後に、

 「喋り方も似てて、だからステラなんじゃないかって思ったんだ」

 なんだか、ルナはステラに余程の思い入れがあるようだった。


 その時、ふと思った事を尋ねる。

 「なぁ、ルナ」

 「ん、今度はなぁに?」

 「ルナって、フルネームか?」

 「フルネームって?」

 「うーん…俺の名前で言う"ケン"って名前だけじゃなくて、"ヤツボシ ケン"みたいに違うのがくっ付いてるだろ?」

 「んー…アエクアじゃ皆、僕みたいに短い名前だったよ?」

 つまり、フルネームが"ルナ"という事か。

 「それだと不便だから、一応仮の名前を決めておかないか?」

 「そうなの? それじゃあステラが何か良い名前付けてよ!」

 「ああ、良いぜ?」

 俺は少し考えて、答えた。

 「光…月浪(ツキナミ) (ヒカル)はどうだ?」

 「ヒカル…良いね、それ!」

 「んじゃ、決定な!」


 そんな話をしている間に俺の家の前に着いた、が…

 「…やっぱ少しドキドキするな…」

 決めた事とはいえ、実行に移すのはやはり緊張する。

 話している間にボロが出なければ良いが…

 玄関先で話す為、一度落ち着く為に大きく一呼吸置いてからそっとインターホンを鳴らす。


 程無くして玄関のドアが開く。

 「あら、ケン…と、そちらはどなた?」

 「えっと、俺の昔の友達なんだけど今行くとこないらしくて、ちょっと泊めてやってくれない? こいつの親とかには俺が連絡するからさ」

 そう言いながらルナには何も言わないように目配せで伝えようとする。

 察してくれたのかルナはそのまま一つ小さく頷き、どこか悲しそうな表情を作って見せた。

 まあそれは俺の気の所為じゃないかと言われたらそうでしかないのだが。

 そして母さんは答えた。

 「それは良いけど…その子は、同じ獣坂高校?」

 「あ…えっと…」


 思い出した。そういえば母さんは獣坂の校長とはかなり親しかったはず、多分調べられたら一発で終わる。

 俺は言葉に詰まってしまった。

 その時、

 「あの、ケンのお母さん。」

 さっきと違った普通の表情でルナが喋りだした。

 「お、おいヒカル…」

 「ルナ、で良いよ。 僕から全部話させてください」

 「る、ルナ…」

 そのままルナは話し始めた。ルナが元々いた場所の事、その場所はここからどう行けばたどり着けるのか判らない事、そういう訳で自分には行く宛がないという事。


 「そういう事なのね…」

 「あ、あの…母さん…?」

 「ん、何?」

 「それで、こいつの事は…」

 俺は少しドキドキしながら尋ねようとした。

 「あー、もちろん良いわよ? 嘘をついているようには見えないもの」

 「ほ、本当?」

 「えぇ。 ただ…」

 「ただ…?」

 何を言われるか解らず、緊張して一つ固唾を飲む。

 「昼間はケンと一緒に獣坂高校に通ってもらうわね?」

 「そ、それって大丈夫なのか…?」

 「私からなんとか話を付けておくし、同じクラスで隣の席にしてもらっとけば安心でしょ?」

 「まあ、そうだけど…」

 「必要なものは全部週明けまでに揃えてあげるから、ね、ルナくん?」

 マジかよ、母さんすげえ。俺は改めて親の偉大さを実感した。

 「ありがとうございます、お母さん!」

 「さあ、そうと決まれば夕飯作ってくるわね。 ケンは部屋に布団でも敷いておきなさい?」

 「僕に何か手伝える事はないですか?」

 「良いのよ、ケンと一緒にケンの部屋に行ってて?」

 ポカンとしている俺をよそにトントン拍子で進む話。


 「そ、それじゃあ行こうか、ルナ…」

 「うん、だねステラ」

 笑顔で俺の方を見るルナ、俺は彼を先導して自室へと案内をした。

 「ここが、ステラの部屋なの?」

 「ああ、まあな…」

 「へぇ…?」

 何かが気になるのか、部屋の中を見回すルナ。

 「どうした…?」

 「いや、なんだか…少し不思議な感じがして…」

 「不思議…か」

 確かに、見知ったような人物なのに見慣れない場所だとそういう風に感じたりもするだろう。


 そんな事を考えながら、俺はルナを眺めていてふと気になった事を思い出して尋ねた。

 「なあ、ルナ?」

 「ん、どうしたの?」

 くるっとこちらを振り返るルナ。

 「その…お前の耳と尻尾、すげー気になってるんだけどさ…」

 「ああ…ちょっと不思議だよね?」

 この反応という事は、おそらく深空でもイレギュラーな存在なのだろう。

 「僕の親は、居ないんだ」

 「えっ、それって…」

 「アエクアの街では、親どころか家族すら居ないよ。 家族に近い存在なら居るけど」

 もしかして聞いてはいけない事を言ってしまったかと思い、俺はハッとして思わず両手で口元を覆う。

 その様子をみたルナは少しおかしそうに笑い出す。


 「あんまり考えなくても良いよ、アエクアの皆から聞いた話だと僕は月から飛んできたらしいんだ」

 「月、から…?」

 予想外の返答に、不意に驚いて聞き返す。

 「うん、月から」

 「じゃあ、その前は何をしてたんだ?」

 「うーん…それが僕、アエクアに来てからの事しか覚えてないんだ」

 所謂、記憶喪失という物だろうか。

 「それとアエクアに伝わる話で、百年に一度月からの使いである『月兎(げっと)』が飛んでくるってのがあって…」

 「その『げっと』ってのが、ルナだと…?」

 「うん、ルナって名前も僕を拾ってくれた人にもらった名前なんだ」

 「その拾ってくれた人って、もしかして…?」

 「そう、ステラの家の人だよ」

 「んで、ルナ以外には同じ耳と尻尾の両方を持つ人は…」

 「居ないよ、僕だけ」

 つまりここまでの話を纏めると…

 ルナは月からの使いである月兎、だが記憶を失っている、そして恐らく月兎であるが故の変わった尻尾である。

 という事は、尚更帰る方法を探した方が良さそうだ。

 もしその話が本当であるのならば、アエクアとやらの住民も月の使いが居なくなったと心配しているだろうし。

 それに本物の”ステラ”や、ルナの知り合いとかには特に。


 とりあえずルナが俺と一緒に学校へ行ける手続きが整ったら、先に友人に紹介しておく事にしよう…

 多分手続きは土日中に終わるだろうし、その間に公園とかで集まって話をするのが良いだろう。


 「それじゃ、さ。 明日か明後日辺りに俺の友達と話してみないか?」

 「ステラの友達に…? 僕は構わないけど、大丈夫かな…」

 「大丈夫って、何がだ?」

 「何か、変に疑われないかなって」

 「俺がちゃんと話せば、多分大丈夫だと思うぜ?」

 俺は、ルナに真剣な表情をしてみせた。

 「…わかった、信じてみる」

 その表情を見て少しの間の後、ルナは笑顔で応える。

 「よし、決まりだな!」

 「うん!」

 ルナは笑顔のまま、嬉しそうに少し尻尾を揺らす。


 その時、

 「ケン!ルナくん!ご飯が出来たわよ!」

 ドアの外、離れた所から母さんの声が飛んできた。

 「それじゃ、とりあえず食い行こうぜ?」

 「うん、行こう、ステラ!」

 ルナは俺の手を握り嬉しそうにする、そのまま俺たちは母さんと温かい料理たちが待っている食卓へと向かった。


 そしてそれが、二人の始まりの日だった。

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