67話 双剣少女、思わぬことに
四日目早朝
朝ご飯までソフィーと二刀流の訓練をした紫音は、朝食を済ませアルトンの街に向けた馬車に乗る。
こうして、六日ぶりに街に戻ってきた紫音はミレーヌの屋敷の前で降ろしてもらい、クリス達にお礼を言ってしばしの別れを告げる。
「クリスさん、ソフィーちゃん、ノエミちゃん、今回はどうもありがとうございました」
「気にしないで、今回は一応ミレーヌ様の依頼で受けたことだから。それよりも、早く女神武器を扱えるようになって、戦力になって頂戴ね」
クリスが答えた後、ノエミがジト目で馬車の御者台から片手を挙げて挨拶に返答する。
「そうよ、精々これからも励みなさい。次あった時はもう少し腕を上げていることね」
ソフィーがいつものツンツンな感じで別れの挨拶をすると、クリスが何気ない感じでこう言った。
「言い忘れていたけど、ソフィー。アナタ暫くシオンの所にレンタル移籍だから」
「えっ!?」
紫音とソフィーが、驚きのあまり同時に声をあげる。
「ああ、シオン貴方にも言ってなかったわね。今朝、ミレーヌ様に帰還予定の報告をした時に、アナタが二刀流に苦戦していると報告したら、”じゃあ、ソフィー君をそのまま練習相手として貸してくれ”と言われたので、貸すことにしたのよ」
「そんな、お姉様! 私の意見も聞かずにそんな勝手に……」
(ソフィーちゃんが、練習相手になってくれるならありがたいけど、嫌がるのを無理にとは……)
ソフィーがショックを受けた顔でいるのを見た紫音は、そう思うとソフィーに残念そうな顔でこのような言葉をかける。
「ソフィーちゃんが嫌なら、別に断ってくれてもいいよ? ミレーヌ様には、私から上手く言っておくから……」
「べっ、別に嫌だなんて、言ってないじゃない! ただ、私の気持ちも一応聞いて欲しかったと言うか……」
ソフィーは、クリスをチラチラ見ながら、自分の意見を述べる。
「そうやって、どうせ受けるのだから聞く必要ないでしょう? 労力と時間の無駄よ、だからアナタの意見を聞かなかったの」
合理主義のクリスが冷静な顔で答える。
(クリスさんって、ソフィーちゃんに厳しいなぁ)
紫音は自分のアリシアへの態度を棚に上げてそう思うのであった。
クリス達と別れて屋敷の中に入った紫音達は、久しぶりの仲間達との再会に喜んだ。
「みんな、元気そうだね。よかったよ」
「シオンさんもお元気そうで何よりです。その腰の二振りの刀が、アマネ様の女神武器ですね?」
「ホ――、ホ――」
「ミーが、女神武器を装備しているシオンさんの外見が、アマネ様に似ているって言って、懐かしがっているッス」
紫音はリズの頭の上に乗っている、可愛らしい梟? と、ミリアの肩に乗っているこれまた可愛らしい黒猫? のようなモノを見て説明を求める。
「まあ、詳しい説明はお互い後でしましょうッス。それより、何故ツンツンお姉さんが一緒に居るッスか?」
「誰がツンツンお姉さんよ!」
ツンデレがジト目にツッコミを入れたところで、そこにミレーヌが丁度やってきて説明をしてくれる。
「彼女はシオン君の練習相手として私が依頼して、暫くの間一緒に住むことになったからさ」
ミレーヌのその説明を聞いた後、ソフィーは彼女に質問する。
「しかし、ミレーヌ様。シオン・アマカワの為に、よく高額なギャラを払う決断をしましたね。私程の冒険者のギャラなら、結構高くお姉様に吹っかけられたのではないですか?」
そう言ったソフィーは”フフン”と言った感じの態度でいるが、ミレーヌは平然とした顔でこう答えた。
「いや、食事・宿泊・光熱費込みの一日8千ミース(8千円)で、いいと言っていたぞ。なお、支払いはクランに払ってくれとも言っていたな」
「そんな…おねえさまぁ~~!」
ソフィーは自分がバイト並みの給料で、レンタルされたことにショックを受けていた。
すると、ミリアが近づいてきて、彼女にこのようなことを言ってくる。
「ソフィーお姉さん、屋敷のことでわからないことがあったら聞いてね」
「ミリアちゃん、ありがとう」
ソフィーは、ミリアの優しい申し出に感謝の言葉と共に頭を撫でる。
(あの人見知りのミリアちゃんが、もうすっかり普通にお喋り出来るぐらいに、ソフィーちゃんに打ち解けている!)
その様子を見ていたミレーヌと紫音は身を打ち震わせながら、ソフィーへの警戒心レベルを引き上げることにした。
「では、ソフィー君。君の部屋に案内しよう。後で必要なモノを自宅から持ってくるといい」
ソフィーはミレーヌに連れられて、暫くの間自分の寝泊まりする部屋に案内されて行った。
紫音はリズとミリアに新たな仲間? の紹介をされる。
「シオンさん、改めて紹介ッス。この子が”アイギスシャルウル“の要、一応梟の”ミトゥルヴァ“ッス。愛称は“ミー”ッス、仲良くしてあげて欲しいッス」
「よろしく、ミーちゃん」
「ホ――(嬉)」
紫音の挨拶に、ミトゥルヴァは嬉しそうに鳴く。
「シオンさん。この子が、ケットです」
「よろしく、ケットちゃん」
「ナー」
ミリアに紹介されたケットが”こちらこそ、よろしくお嬢さん。あと私はお姉さんよ”と言った感じで鳴く。
紫音がケットに挨拶したところで、エレナが紫音の耳元で囁く。
「シオンさん、ミリアちゃんのあの黒猫、フェミ・ローズ様という方に頂いたモノらしいのですが、大丈夫なんでしょうか?」
紫音は一瞬でフェミ・ローズが、フェミニースのことだと気付いて彼女にこう答える。
「その人なら、大丈夫だよ。安心して使っていいと思うよ。むしろ、とんでもない力を秘めた猫ちゃんかも知れないよ」
紫音が心配するエレナを安心させ、再びケットを見ると可愛いぬいぐるみのような顔で、
”さすがお嬢さん、感がいいわね”
というような表情でいるような気がした。
「ナー」
昼食後、ソフィーが荷物を取りに戻っている間、紫音が一人で剣術書を見ながら二刀流の練習をしていると、リズ達がやってきて彼女が見ている本が何か尋ねてくる。
「シオンさん、その本は何ッスか?」
「これは、天音様が残してくれた二刀流の剣術書だよ」
その説明を受けたリズがこうぼやいた。
「シオンさんのご先祖アマネ様はいい人ッス。子孫のためにそんなモノまで残して、流石は英雄と呼ばれる人ッス。私のご先祖様リーゼロッテ様は、肖像画を偽装して更にミーをぬいぐるみにして別々にしておくような人ッス。ハンニャー仮面のお姉さんの言う通り捻くれ者ッス!」
「あははは……」
紫音はリズの先祖の評価に対し、自分が反応しては故人に失礼になると思って、愛想笑いするしかなかった。
リズはさらに先祖批判を続ける。
「きっと、素敵な女性で描かれていたあの肖像画もきっと偽装ッス! 本当はチンチクリンだったに違いないッス!」
リズが先祖に悪態をついた所に、このような言葉が投げかけられる。
「それだと、アナタも将来はチンチクリンね、ジト目ちゃん」
その声の主は、荷物を取って戻ってきたソフィーであった。
「三年後が楽しみね。私の負け犬の遠吠えになるのか、アンタがギャフンと言うことになるのか……」
ソフィーが意地悪な笑みを浮かべながらリズに発言する。
「まだ、あの時の事を覚えていたッスか、ツンデレお姉さん」
リズが少し呆れた感じで、ソフィーに突っ込む。
「アナタが言い出したことでしょうが!」
ソフィーは、すぐにいつものツンデレ口調に戻ってツッコミ返す。
すると、二人は激しい舌戦を開始する。
「貧しいのは心ではなく、胸だけにしておいて欲しいッス」
「誰が貧しい胸よ! シオン・アマカワと一緒にしないでよ!」
「ガーン! ソフィーちゃん!?」
紫音は突然の自分への飛び火にショックを受ける。
「失礼ッス! シオンさんの胸は確かに慎ましいかも知れないッス……。でも、そのかわりに優しさと思いやりが、たくさん詰まっているッス!」
「それ、褒めてくれているんだよね、リズちゃん?! 褒めてくれているんだよね!?」
紫音が不安な表情で、リズに発言の真意を尋ねる。
その様子を一歩引いたところでミリアが、どうしたらいいのか解らずにオロオロとしており、その肩でケットが
”やれやれ……、こんな事で喧嘩してホントしょうがないお嬢ちゃん達ね。先が思いやられるわ……“
という呆れた感じの表情をしているような気もしないファンシーな顔で見ていた。




