55話 新たなる事実
紫音とクリスが話し合った次の日―
紫音は外で魔物退治をするため装備を引き取って、街の外に出るため教会の前を歩いていると、教会の中からボロボロの装備を着け、意気消沈した冒険者達が15人ほど出てきた。
「何かあったのかな?」
「あの様子だと、魔物に殺されて教会で生き返った人達ですね」
エレナが紫音の疑問に答える。
「生き返った人達ですか……、―生き返れるんですか?!」
紫音はこの世界に暮らして約5ヶ月目にして、また衝撃の事実を聞かされた。
「シオンさんはまだ知らなかったッスか? この世界では女神の祝福を受けている者は、魔物との戦いで死んでも教会で生き返ることが出来るッス」
リズがそう説明を続ける。
「ただし、当然ペナルティはあります。まず、所持金が半分になって、冒険者ポイントも減ってしまいます。あとスキルも下がって、それに伴う記憶も失われます。その記憶の失われかた次第では、色々支障も出るみたいです」
「特に高スキルの人のほうが、スキルが上がるのに時間がかかるので、元に戻すのに人によっては2~3年かかるそうッス」
「何より死んでしまった時の痛みや恐怖で、心にトラウマ(精神的外傷)を負ってしまって冒険者に戻れない人もいるみたいです……」
(たしかに、私もアーマーボア戦の時にトラウマでおかしくなってしまった……)
「シオンさんが知らないのは冒険者育成教習所や、その他学校では“命を軽んずる行動をとってはならない“という理由で、教えないことになっているためです。まあ、みんな暗黙の了解で知っていますけど……」
「まあ、死なないに越したことはないよね。死ぬほど痛いし……」
紫音はそう言うと、気合を入れ直して街を出る。
紫音達は、街の北東に最近できたという小型獣人拠点の話を、今朝クリスからの連絡で聞いて、そこで<お宝ゲットでお金ゲット。そして、いい武器ゲットしよう作戦>を、行うことにしていた。
ただ、最近できた小拠点のために、宝はまだないかも知れないらしい。
街の出口まで来ると、ソフィーとアフラが待っていて、アフラが紫音達に気がつくと手を振りながら近づいてきた。
「副団長に言われて、お手伝いにきたよー」
「なんで、私が休日にこんな事を……」
「二人共、わざわざありがとう」
「アンタ達だけじゃ心配だから、来てやったわよ」
「がんばろうねー!」
紫音が二人に素直に感謝の言葉をかけると、彼女たちからそれぞれの性格を反映した返事が返ってくる。
「ソフィーお姉さん……、来てくれてありがとう……」
「暇だったから、別に気にしなくてもいいわよ」
ミリアがソフィーに近づくと小さな声でお礼をすると、ソフィーは照れながら答えた。
(ミリアちゃんが、またソフィーちゃんと仲良くしている……)
そして、その様子を見ていた紫音が一人少しショックを受けていた。
その頃、ミレーヌの執務室では―
「何!? あの”竜の牙”が、拠点攻略中に壊滅状態で帰ってきただと……」
ミレーヌはその驚きの報告を受けていた。
「はい、しかも団長であるダーレン・ウィンター氏も、重症を負って戻ってきたそうです」
「ダーレン・ウィンターが……」
エルフィのその報告にミレーヌは驚きを隠せないでいる。
「あと、男性団員が全て捕虜になったそうです」
「捕虜に!?」
ミレーヌは更に驚く。魔物が敗れた人間を捕虜にすることは無くジェノサイドするからで、初めてと言っていいだろう。
エルフィはミレーヌの反応を尻目に、報告書を読み続ける。
「聞き取り情報によると、壊滅させた相手は黒い髪で黒い鎧と仮面を着けた女戦士であり、魔物を使役しゴーレムを造り出すそうです」
「その相手は人間なのか? 人型の魔物なのか?」
「それは、分からないとのことです……」
神妙な面持ちで少し考え込んだミレーヌは、すぐさま指示を出す。
「すぐに、王都とフラム要塞にこの報告を送れ!」
「はい!」
エルフィは返事すると、急いで部屋を出て行く。
「嫌な予感がする、何事もなければいいが……」
ミレーヌはいい知れぬ不安に襲われ、紫音達の無事を祈った。
再び紫音達に場面は戻る。
その彼女達は小規模拠点を目指して、北東に歩き続けていた。
「しかし、アナタ達も無謀な真似するわね。いくら小規模拠点とは、たった四人で挑もうとしていたなんて」
「自分達は、少数精鋭ッス」
「いくら、少数精鋭だからって、四人は少なすぎでしょうが!」
ソフィーが少し呆れ気味に口にする。
その時、グリフォンに乗って魔王城に帰還途中の黒い女魔戦士は、紫音たちが歩いているのを偶然発見した。
「アレは……、今日は運がいいわ。魔王様のお土産も手に入るし、あの娘にも会えるなんて!」
女魔戦士は捕虜の檻の付いた二体のグリフォンに、そのまま魔王城への帰還命令を出すと自分の乗ったグリフォンに、紫音達に向かって降下するように命令を出す。
「何スか、この大きな影?」
紫音達が空を見上げると、上空からグリフォンが降下して来るのが見えた。
「大きな鳥だねー!」
アフラがそう呑気に言いながら、彼女もただならぬ気配を感じたのかナックルを装着する。
「こんな所に、グリフォン!?」
ソフィーがそう言ながらブレードを抜くと、そのグリフォンから黒い女魔戦士が飛び降りてきた。
「人間!?」
紫音がそう呟いて刀を抜くと、黒い女魔戦士が紫音目掛けて薙刀で落下攻撃をしてくる。
その攻撃を両手でしっかりと持った刀で防ぐと、紫音はそのまま素早く刀を斜めに向けて力を斜め下に受け流し何とか落下攻撃の衝撃を最小限で抑えた。
受け流されて体勢を崩した黒い女魔戦士は、素早く体勢を立て直し紫音に切り上げ攻撃を行うが、紫音はそれを薙刀が上がり切る前に刀で薙刀の峰部分に打ち込み抑え込む。
その拮抗状態で、黒い女魔戦士は紫音に話しかけてきた。
「初めましてね、紫音・天河!」
「アナタは誰!?」
紫音の問いかけに黒い女魔戦士はこう答える。
「アナタの障壁となる者よ!」
そう答えた彼女の顔には、悪意に満ちた笑みが浮かんでいた。




