40.5話 迫りくる驚異
「そうか……、そんな事があったのか。本気ではなかったとは言え、ソフィー君とあのクリス君にまで勝ってしまうとはな」
リズから一部始終話を聞いたミレーヌは、紫音の強さに改めて感心する。
なぜなら、見た目といい普段の言動や立ち振舞から、とてもそんな強い印象を受けないし、なんなら少し頼りない女の子という印象を受けたからだ。
その紫音はミレーヌの口ぶりから、二人のことを知っているのか尋ねてみることにした。
「ミレーヌ様は、お二人を知っているんですか?」
「ああ、ソフィー君はあまり面識がないが、スギハラ、クリス君、カシード君は”月影”設立の頃からの顔見知りなんだ」
「そうなんですか……」
ミレーヌは真剣な表情になると紫音に、以下のような説明をしだす。
「君にはまだ早いと思っていたが、スギハラやクリス君に勝ったとなれば大丈夫かもしれないな。実はオークの旗が今日19本目になった。予測では2日後に20本になって奴らはフラム要塞に進行してくるだろう。奴らの行軍が要塞に到着するのは予想では三日後の午後となっている」
紫音は要塞侵攻のことを思い出した。
冒険者育成教習所で習った内容だと、確か拠点の旗が20本になると魔物の軍団が攻めてきて要塞防衛戦が行われる。
攻めて来る魔物は、その辺にいる魔物とは比べ物にならないぐらいの強さを有しており、そのため防衛戦に参加できるのは冒険者ランクF以上、総合スキルランクは前衛なら最低E以上、後衛ならF以上が望ましいとなっていた。(但し最低スキルランクはPT推奨)
「できれば、君にはその要塞防衛戦に出て貰いたい! 大変危険な戦いであるが、君なら大きな戦力になるはずだ」
紫音の強さを確認したミレーヌは、彼女のその強さを見込み要塞防衛戦参加を要請する。
「わかりました、お引き受けします!」
「え?! そんな即答でいいの?」
ミレーヌは紫音が即答したので、思わず素の喋り方になってしまった。
紫音は即答した理由を、驚くミレーヌに話すことにする。
「はい、だってその戦いは人類側にとって大事な戦いなんですよね? だったら断る理由はありません! それに、危険と感じたら無理しなくてもいいんですよね?」
「勿論だ、命は大事にしたまえ。それは大前提だ!」
ミレーヌも即答で無理はしない事に賛同した。
世界のために頑張って欲しいが、そのために紫音達が犠牲になることは望んでいないからだ。
「シオンさんが参加するなら、私も参加します!」
エレナも紫音だけを危険な目に合わせたくないと考え、少しでも力になりたいと要塞防衛戦に参加の意志を表す。
「わっ……、私も……参加します!」
「凄く危ないから、ミリアちゃんは無理して参加しなくていいよ!」
「そうだとも! シオン君の言う通りすごく危険だから、ミリアちゃんは今回お留守番していたほうがいいよ……」
ミリアも頑張って参加を表明するが、紫音にすぐさま反対されミレーヌにも続けて反対されてしまう。
恐ろしい魔物と魔法や矢が飛び交う危険な戦場で、その恐怖で半泣きしているミリアの姿を想像して、二人は可愛い彼女をそんな目に合わせたくないと反対した。
「では、私もミリアちゃんと一緒にお留守番ということにするッス」
「「いや、リズちゃんは参加で!」」
ドサクサに紛れて参加拒否したリズに、紫音とミレーヌは二人同時に突っ込んだ。
「そんな、凄い依怙贔屓ッス! 自分もミリアちゃんと同じように扱って欲しいッス!」
リズは自分に対するミリアとの扱いの差に怒りを露にする。
「だって、リズちゃんはそれだけの腕があるから、大丈夫でしょう?」
そう言った紫音の表情はリズへの信頼に満ちていた。
そういう信頼された表情で言われると、リズも頼られていることが少し嬉しくて、参加を了承する。
「私も…… 参加します……!」
ミリアのその眼は何時ぞやのように決意に満ちていた。
ミレーヌは、ミリアの勇気を出して仲間達と前に進もうとしている姿勢に、これ以上水を指して成長を邪魔してはいけないと思い渋々参加を認めることにする。
「わかった、但し無理は絶対しないこと! 最後尾から魔法を撃つこといいね、ミリアちゃん?」
ミレーヌのこの少し過保護すぎる指示にミリアは頷く。
翌日――
紫音がクリスにコートを返却しに行ことすると、ミレーヌが屋敷の入口で待っていた。
「シオン君。クラン”月影”に行くのだろう? さあ、一緒に行こうではないか!」
(あっ、やっぱりミリアちゃんが泣かされそうになったから、殴り込みに行くのかな……)
紫音は正直巻き込まれたくはなかったが、ミレーヌの誘いを断るのもそれはそれで怖いので大人しく付いていくことにする。<長いものには巻かれる>これが大人の賢い処世術だからだ。
馬車に乗り込むとエルフィがスリープの魔法のせいか、朝が早いからかどうかは分からないが、座席で幸せそうに眠っている。
「ミレーヌ様…… 今日は会議…… ちゃんと出て…… よかった…… ZZZZZ」
(幸せそうな夢を見ているので、起こさないでおこう…)
そう思う紫音であった。それが大人の優しさだからだ。




