37.5話 副団長との対決
クリスが味方から言葉の銃で背中を撃たれていると、エレナがミリアから聞いたトラップ魔法の目印を教える。
「シオンさん、ミリアちゃんが言うにはセットされている場所には、目印になる小さな魔法陣が見えるそうです!」
「ありがとう、ミリアちゃん! エレナさん!」
意識は対峙するクリスに向けながら、紫音は教えてくれた二人に感謝の言葉を伝えた。
(だが、戦いの中でそれ見るのは難しい。でも、彼女の動体視力ならあるいは……。それなら、次の手を打つ!)
クリスはそう分析しながら、紫音に余裕を与えないように次の行動に移る。
紫音が周りを注意深く目印が無いか見ていると、足元に魔法陣が現れた。
「ファイアー!」
クリスの詠唱とともに、その魔法陣から炎が吹き上がる。
「うわぁ!」
紫音は驚きながら、魔法陣の上から咄嗟にステップで横に避けると、クリスがまたワンドを持って魔法を詠唱している。
「させない!」
咄嗟の判断で紫音は魔法詠唱を邪魔しようとクリスに接近するが、自分の進む先に小さな魔法陣を発見する。
「ヤバイ!」
そのため魔法陣を迂回してクリスに接近するが、又もや紫音の足元に魔法陣が現れた。
「また!?」
何とか魔法陣をバックステップで躱すと、そこにクリスが突きで追撃してきたので、紫音は木刀でクリスの突きを防ぎ反撃しようとするが、クリスは直ぐにバックステップで距離を取った。
「オーラステップ!」
紫音はクリスの後退にあわせて、オーラステップの急加速で間合いを詰める。
(ソフィーの話では、まだ上手く使えないと言っていたのに!?)
クリスは紫音のオーラステップが、一日で自在に扱えるようになっていることに驚くが、冷静な彼女は表情には出さない。
間合いに入った紫音とクリスは、数回激しく打ち合う。
木製の武器なために、鉄製の防具越しには衝撃は感じるがダメージはあまり無い。
そのため紫音は防具に当たる斬撃は敢えて躱さず、その分攻撃と有効打への防御に回して、相手にとにかくダメージを与える動きを優先する。そうしなければ、フェンシングの速い突きに対抗できないからだ。
クリスの方もそうなのか、紫音と同じように防具に当たる攻撃は回避せずに、突きを優先している。
しかし、その打ち合い中、紫音は魔法トラップに誘導されてしまう。
「!?」
今度は風の刃が紫音を襲う。
「今度は… ウインドトラップ!?」
ミリアが小さな声で今の魔法の名前を語る。
何と回避するが、紫音は風の刃で体のあちこちに掠り傷を受けてしまった。
(こんなにダメージを受けるのは、オーク戦以来だ……)
紫音は少し間合いを取ると、自分がかなりダメージを受けていることを確認する。
だが、クリスの方も紫音に防具越しに打ち込まれた場所に、それなりのダメージを受けていた。
(防具で防げると思ったが、木刀とは言えやはり両手持ちの攻撃力は高いわね。近接戦闘はやはり避けるべきね……)
クリスは冷静に今後の攻め方を思考する。
「シオンさん……」
心配そうに、戦いを見守るミリアとエレナ。
「やっぱりお姉様はすごいわ! シオン・アマカワを追い込んでいる! 悪いけど、お姉様の勝ちね! お姉様があの”まな板”を倒す前に、降参させたほうがいいんじゃないの?」
「まあ、たしかにシオンさんは、“まな板”ッスけど……」
ソフィーが三人に紫音を降参させるように促すと、リズは無慈悲に彼女の“まな板”の部分だけ肯定する。
(聞こえてる… 聞こえてるよ! リズちゃん! お姉さん“まな板”じゃないよ!?)
紫音がリズに背後から言葉の銃で撃てれて、ショックを受けているとリズが話を続けた。
「でも、ツンデレお姉さんも、あまり変わらないッスよね」
「な、何を言っているのよ! 私は……!」
「いや、変わらないッスよ、他人から見たら…」
ソフィーの否定に対して、リズはジト目で冷静に淡々と反論を続けると、ソフィーが年下相手に大人気なくムキになって言い返してくる。
「ムキーッ!! ア、アンタだってそう変わらないじゃない!」
リズは”ムキーッ!!“なんて、本当に使う人始めて見たと思いながら、ジト目でソフィーを見つめつつ、冷静にこのように反論した。
「私はまだ14歳なので、こんなものだと思うッス。私の母と姉はツンデレお姉さんよりも大きいので、成長すれば私もツンデレお姉さんよりは大きくなるはずッス」
彼女の言う通り、14歳のリズにはこれから成長する可能性は十分ある。
「そっ、そんなのわからないじゃない! アンタだけ成長しないかも知れないじゃない! だって、私のお母さんは大きいし……」
ソフィーはそこまで言うと、現実を再認識させられて少し凹んでしまう。
「例えそうだったとしても、ソレは成長していなかった3年後の私に言ってくださいッス。今の私にはツンデレお姉さんのその言葉は、【負け犬の遠吠え】― いや、【まな板の遠吠え】にしか聞こえないッス!」
リズは右の掌を前に出して、ストップのジェスチャーをしながら、“キリッ”とした表情でそう答えた。




