35話 スピード勝負決着
紫音とソフィーの追いかけ合いは、最終局面を迎えていた。
二人共既に30分以上、全力で走り続けかなり消耗してきている。
「ハァ……、ハァ……、かなり走ったけどあと一体どれくらい、ハァ……、ハァ……、走るつもりなのよ、ハァ……、ハァ……」
ソフィーは想定外の長時間の高速戦闘に、体力と脚の限界が近づいてきていた。
「ハァ……、ハァ……、向こうだって、同じくらい走って辛いはずよ…… あとは我慢比べよ!」
彼女はそう自分を奮い立たせると、気力を振り絞るが自慢のスピードは明らかに落ちてしまっている。
「ハァ……、ハァ……、向こうはそろそろ限界みたいね。なら、一気に攻める!」
紫音はソフィーのスピードが落ちたのを確認すると、一転して急接近し攻撃を仕掛ける!
ソフィーはサーベルで攻撃を受けようとするが、紫音の斬撃は一撃一撃が鋭く防ぎきれない。
は防ぎきれないと悟るとソフィーは、攻撃は最大の防御とばかりに反撃してくるが、剣捌きは紫音のほうに分があり、鋭く連続で繰り出される正確かつ素早い斬撃に、ソフィーは次第に打ち負けて防戦になってしまう。
(認めたくないけど、アイツのほうが剣術は上みたいね)
ソフィーは斬撃戦の不利を悟ると、脚を休ませるために急速回避で紫音の斬撃を躱して距離を取るが、消耗した彼女の回避力では充分な距離を取れずに、紫音の追撃から逃げられない。
紫音の追撃を数回に渡って回避したソフィーであったが、とうとう脚に力が入らなくなり、その場で尻もちを突いてしまった。
「ハァ……、ハァ……、脚に力が入らない……」
「ハァ……、ハァ……、勝負ありだね」
紫音はソフィーの後ろに回ると、刀を彼女の肩に当てて勝利宣言する。
「どうして、ハァ……、ハァ……、アンタはまだ平気なのよ……、ハァ……、ハァ……」
ソフィーが悔しそうに紫音にそう尋ねると、彼女はこう答えた。
「天河天狗流の目指す理想の剣法は、一日二十里(約80キロ)を戦場で動き回って、敵とわたりあえるだけの、基礎体力と強靭な足腰を養うことなの。だから、修行は長時間の走り込みが基本なの」
ソフィーが朝から街中を歩き回っていて、脚にそれなり疲労があったとは言え、紫音のほうが持久力と足腰の強靭さでは上であったのだ。
つまりスピード勝負と見せかけた、紫音の持久力勝負にソフィーはまんまと嵌ってしまったのであった。
「ハァ……、ハァ……、80キロって……」
その話を聞いたソフィーは、その場に仰向けで倒れ体を休める。
「シオンさん、やりましたね」
「やったッスね、シオンさん」
「さすがシオンさんです……」
「ありがとう、みんな」
エレナ、リズ、ミリアが紫音に駆け寄って称賛してくれた。
紫音は少しの間、荷車に座って休憩すると日が落ちてきた空を見て、一同に帰宅の提案をする。
「日が落ちてきたね、そろそろ街に戻らないと」
「そうですね、街に戻りましょう」
エレナがその提案に賛同すると、紫音はソフィーにこのように訪ねた。
「ソフィーちゃん… だったかな? どう動けそう?」
紫音のその質問にソフィーは、ツリ目で気味の目で紫音を見ながら、見た目通りのツンツンな態度でこう答える。
「まだ、無理だけど……、別にアナタ達は私のことは放っておいて、街に帰ればいいじゃない。私は冒険者なんだから、一人でなんとでもできるわ」
紫音はそのソフィーの答えを聞くと、彼女に近づき今日二回目のお姫様抱っこをソフィーに行う。
「なっ……、何よ、いきなり!?」
ソフィーはいきなりのお姫様抱っこに、ドキドキして顔を真赤にさせながらそう言った。
「だって、女の子をこんな所に一人置いていくわけにも行かないでしょう?」
「私はさっきまでアンタの敵だったのよ! それなのに……」
「だって、ソフィーちゃんは本気じゃなかったでしょ? 私の見立てでは、アナタの攻撃はオーラブレードで強化することで真価を発揮すると思ったけど違う?」
「!?」
紫音の言葉に、図星という表情をするソフィー。
ソファーは腕力が低い上に二刀流のため攻撃力が低い。
その弱点を補うのがオーラブレードによる攻撃力アップで、オーラブレードで強化されていたら、勝負はどうなっていたかわからないと紫音は思っている。
彼女が負けると思った時、本来の戦い方をしていれば、恐らくお互い無事では済まなかったであろう。
だが、ソフィーはそうなるのを避けるため、負けると解っていても最後までオーラブレードを使わなかったのを紫音は解っていたので、目の前のツンツン少女が根は良い子だと思いここに置いていけないと思った。
「それに困った時は、お互いさまでしょ?」
紫音が笑顔でソフィーにそう答える。
(どっ、どうして顔が赤くなって、鼓動が速くなっているのよ私……。ソフィー、アナタにはお姉様って大切な人がいるじゃない……)
ソフィーが一人心のなかで葛藤していると、紫音は彼女を荷車に乗せた。
「では、出発!」
そして、紫音が荷車を引き始めると、エレナとリズが荷車を引くのを手伝ってくれる。
太陽が沈み掛けた頃、紫音達はスタート地点に戻ってきた。
街を一周し輪を描くことに成功した紫音達は、予想以上の達成感に包まれる。
「みんなで何かをやり遂げるっていいね!」
「そうですね!」
ミリアも嬉しそうに頷く。
「最初は正直、馬鹿馬鹿しい企画と思ったッスが、こういうのもいいものッスね」
「これで、PTの団結力が上がったよね」
リズの意見に少し引っ掛かたが、紫音はPTの団結力が今回の企画の前より上がったような気がした。
「街を一周しただけで団結力が上がるなんて、お気楽なPTね」
ソフィーは体力が回復したのか、いつの間にか荷車から立ち上がっていた。
「もう大丈夫なの?」
紫音がソフィーに質問する。
すると、彼女はツンデレポーズでこのような事を言い出す。
「これだけ休めば、帰るぐらいは平気よ。アンタ達が勝手にやったことなんだから、お礼なんてする義理はないけど、一応礼は言っておくわ」
ソフィーはそう言うと…
「ありがとう……」
照れて頬を赤くしながら、恥ずかしそうにお礼を言ってきた。
「ツンデレお姉さんッスね」
リズがすかさず彼女に突っ込んだ。
「誰がツンデレよ、このジト目! 覚えてなさいよ! 私の仇はお姉様が取ってくれるんだから! 精々覚悟しておきなさいよ!」
そう言って走り去っていった。
「嵐のようなお姉さんだったスね……」
リズがそうソフィーに対して感想を述べる。
そして、エレナは心配そうな表情で、ソフィーの発言内容を紫音と話し合う。
「”お姉様が仇を取ってくれる”って言っていましたけど、また誰か戦いに来るってことなんでしょうか?」
「そうですね。クランの面子を気にしている人が、まだいるってことですよね……」
そして、“次は恐らくもっと強い人が来るってことだろうな”と、紫音は考える。
(その人が来る前にできるだけ、鍛錬を積んでおこう!)
そのため紫音は、今日実戦で使ったオーラステップの感覚を忘れない内に、夜遅くまで練習を続けることにした。
「やったー! 遂に使えるようになった!」
そして、ついにオーラステップが使えるようになる。
<月影>副団長クリスとの戦いが迫っていた…。




