28話 謎の影、少しだけ現る
「ミレーヌ様、今の最高位魔法メイルストロームだったのでは……!?」
エルフィが、目の前で発動した強力な魔法の正体をミレーヌに質問しようとしたが、先程までそこにいた彼女は既にいなくなっていた。
「ミリアちゃん、よく頑張ったね~」
ミレーヌは感極まってミリアに抱きついた。
「ミレーヌさん…、どうしてここに…?!」
ミリアは叔母が突然現れて、自分を抱きしめたことに驚いた。
「ミリアちゃんが心配で付いて来ちゃった!」
ミレーヌはキリって顔で答えた。
紫音とリズもミリアのところまで歩いて来て、彼女の側にミレーヌが居ることに気付く。
回復薬を飲みながら、紫音は関係を知られないように声は掛けずに、ミレーヌに一礼だけする。
「やっぱり、あの後ろから付いてきていた怪しいマスクの人は、心配で後を追ってきていたミレーヌ様だったんッスね……」
「リズ君、気付いていたのかい?」
どうやら、リズはミレーヌが尾行していた事に気付いていたようで、その本人に確認するとあっさりと認めた。
「イーグルアイの範囲内だったッス」
ミレーヌの質問に、リズはイーグルアイで見えていたと答える。
「シオン君、リズ君、2人もよく頑張った。イレギュラーなロックゴーレムに対してもよく対応したな」
ミレーヌは三人を改めて褒めた。
「見ていたよ、三人共。よくアクシデントを乗り越えて、見事試験をクリアした。卒業試験は文句なしに合格だ」
どこから見ていた校長が、そう言いながら三人に合格を告げながら近づいてくる。
「おい! 何しれっと出てきて、それらしいこと言ってんだ! 貴様らの不手際でとんでもないことに、なるところだったんだぞ!」
ミレーヌがいつものように、アイアンクローを校長に繰り出そうとしたがさすがは老いたとはいえ元Aランク、アイアンクローをギリギリ防いでいる。
「そのことについては、本当に申し訳なかったと思っていますから……!」
校長はアイアンクローを防ぎながらそう答えた。
「あのー、校長先生。借りていた刀を壊してしまったんですけど……」
紫音は壊れた武器を校長に見せながら、弁償しないといけないのか訪ねる。
「構わんよ、壊してもいいように装備を貸し出しているのだから。この学校で武器を壊すのは君だけではないよ。何せこの学校は初心者を育てる場所だからね」
校長は紫音の不安を払ってくれた。
「それでは、諸君。そろそろ学校に戻るとしよう」
そう言って、校長は学校に向い歩き始める。
「装備を装着しなおしたら後を追うので、先に行ってください」
紫音は外した装備を拾い装備し直しながら、一同に先に学校に帰るように促す。
「私は紫音さんを待って一緒に行くッス」
すると、意外とリズが待つと言い出し、ミリアもその言葉にコクッと頷いた。
「そうか、では先に行くよ」
ミレーヌはエルフィを連れて先に行こうとして、何者かの視線に気づきその方角を向く。
(遠いな…。だが、確かに誰かに見られている……)
「ミレーヌ様どうかいたしましたか?」
急に立ち止まって、遠くを見ているミレーヌにエルフィが不思議がって質問する。
「いや、何でもない……」
ミレーヌは、この距離なら問題ないとしてその場を後にした。
「さすがは冒険者ランクSS……、この距離でも気付くなんて……。さて、連絡しないと……」
その遠距離から望遠鏡を覗いていた者は、そう呟くと女神の栞を取り出し誰かに連絡する。
「彼女達は、私が造った特別製ロックゴーレムを倒しました。途中ピンチになっていましたが、最後はオーバーキルって感じで倒しました。さすがはあの女神様のお気に入りってところですね。それに、PTメンバーも只者ではないですね……」
「はい、では私も引き上げます」
そして、何者かへの通信を終えると何処かへ立ち去った。
「二人共お待たせ、学校へ戻ろう」
紫音は装備をつけ直すと、二人と今日ここまで来た道を戻るため歩き始める。
歩きながら紫音は、二人にこのような話をはじめる。
「私は、今日までこの女神様から貰った身体強化を、借り物の力だって思っていたの。こんな力要らないって思っていた…。でも、この力のおかげで、ミリアちゃんを助けることができたし、その後に助かって二人と一緒にロックゴーレムと戦って倒すことができた。だから、今はこの力があってよかったって思えるようになったよ」
何故こんな話を年下の二人にしたくなったのか、当の紫音にも解らなかった。
もしかしたら、共に命をかけて戦ったからかもしれない。
「この世界では、みんな大なり小なり女神の加護で身体強化されてるッス。だから有り難く使えばいいと思うッス。ミリアちゃんはどう思うッスか?」
リズが自分の考えを述べながら、後ろを歩いているミリアを見ると少し遅れていることに気付く。
「シオンさん。ミリアちゃんは引き篭もっていたから、体力ないッス。少し歩くペースを落としてくださいッス」
リズの一言にミリアは本当の事とはいえ、少しショックを受ける。
ミリアは疲れ切ってフラフラと歩いていたので、紫音はその場でしゃがむとミリアをおんぶすることにした。
「シオンさんも疲れているのに、おんぶなんてしてもらうわけには……」
ミリアがそのように遠慮すると紫音はこう答える。
「大丈夫、お姉さんは体力に自信があるから。それに年下は年上の厚意に、素直に甘えるのが礼儀だよ」
「では、お願いします……」
そう言われたミリアは、遠慮がちにその言葉に甘えることにして、リズに杖を持って貰うと紫音におんぶしてもらう。
「ミリアちゃん、引き篭もってお勉強ばかりでなく外に出て、体力もつけなくては駄目だよ?」
紫音はおんぶして歩きながら、ミリアにそう忠告する。
「がんばります……」
ミリアはそう答えたが、こうやって紫音におんぶしてもらえるなら、このままでもいいかも知れないと思った。
紫音達の先を歩くミレーヌは校長に話しかける。
ミレーヌが紫音達と一緒に歩かなかったのは、校長との会話を三人に聞かせたくなかったからであった。
「校長、確かに試験に使う魔物はフェミニース教会から提供されているのだったな?」
「はい、教会の神秘の力で捕獲していると聞いています。今まであのようなアクシデントは起きなかったのですが……。」
「最初からあのゴーレムが送られてきたという可能性は?」
「いえ、それはないです。我々があの場に配置した時は、少なくとも試験用のいつもの低レベルのロックゴーレムでした。ちゃんと遠くから魔法を使って、岩石飛ばしを使わないか試しました」
ミレーヌが話しながら観察した所、校長が嘘を言っているようには見えない……
「そうか……」
(ロックゴーレムが急激にレベルアップしたのか、それとも誰かがすり替えたのか……、そうなると、あの遠くから見ていた奴か、何のために?)
彼女はそう答えながら、色々と考察を続ける。
(目的はミリアちゃんか!? ミリアちゃんが可愛いからか!? 可愛いミリアちゃんに嫉妬して、虐めようとしたのか!! ゆるさん… ゆるさんぞっ! じわじわとなぶりご― )
だが、次第に考察は暴走し始めた……




