25話 試験最後の敵
トラップを回避した紫音一行が、ライトの魔法を頼りに進んでいると前方に洞窟出口の明かりが見えてきた。
洞窟の外に出ると、ライトの明かりがあったとはいえ、外の明るさに眩しさを感じる。
外は見渡す限りの平原で遠くには山が見えた。
目が外の明かりに慣れるまで、紫音達は少し休憩を兼ねて待つことにする。
「やっぱり外はいいね、風も気持ちいいし」
紫音が外に出た開放感を味わっていると、リズが何かに気付く。
「お姉さん、ミリアちゃん宝箱があるッス!」
リズが指差した方を見ると、宝箱が不自然に置かれていた。
「これは明らかに試験の課題だよね……」
紫音は訓練学校で習った宝箱解錠の仕方を思い出す。
「たしか、まず”宝箱が魔物の化けたものかをどうか調べる”からだったはず……」
「では、私が弓で遠距離攻撃してみるッス」
リズが弓で宝箱を射撃すると、矢は宝箱に当たって弾かれてしまうが反応はない。
「どうやら、魔物ではなかったようね」
次に紫音が刀の鞘で、宝箱の蓋の部分を押して見るが開かなかった。
やはり鍵がかかっているようだ。
「宝箱解錠なら、私にお任せッス!」
リズはピンを取り出すと、くるくると指で回転させてから自信満々に解錠を始めた。
(トラップ解除は興味無いけど、宝箱解錠スキルはあるんだ…)
紫音はそう思いながら、解錠しているリズを見守る。
解錠しているリズの眼は、まるで獲物を狙う鷹のような眼に見えなくもないが、やはり眠そうなジト目だった。
「解錠できたッス!」
開けたらトラップ発動の可能性もあるので、紫音が先程と同じ様に鞘で宝箱の蓋の部分を押して開ける。
「トラップは無いようだね。あくまで試験なんだから危険な仕様にはしないか」
紫音がそう話している間に、リズがさっそく中身の確認を始めた。
「なんスかこれ……」
リズは宝箱から何か刻まれたプレートを取り出し、つまらなさそうな顔で紫音に渡す。
「なになに、”試験特別ポイント+10点”って書いているね。まあ、試験なんだからいいモノは入ってないよね……」
紫音が、興醒めしているリズにそう言うと彼女は、このような毒を吐く。
「こんなことなら、ミリアちゃんの高位魔法で、あの宝箱を吹っ飛ばしたほうが、楽に済んだッスね」
いや、さすがにそれは駄目でしょうと紫音は思う。
「無駄な時間を過ごしてしまったッス、さっさと先を急ぎましょうッス!」
リズが不機嫌な感じでそう言ってきたので、宝箱の中身でこんなに一喜一憂するこういうところは、年相応なんだなと思う紫音であった。
「あと一時間か……」
紫音は歩きながら時計で時間を確認していると、リズのイーグルアイが最終標的を発見する。
「前方にロックゴーレム発見ッス!」
紫音とミリアが、リズの指差す方向に望遠鏡を向けて覗いて確認すると、平原の真ん中に、一体の全身が岩で出来た大型の魔物が立っていた。
「あれ大きさはどれくらいなの?」
「たぶん4~5メートルってところだと思うッス。」
紫音がリズに質問すると彼女からはこう答える。
「それは大きいね……、となると教習所で習ったまず足を攻撃して、倒れたところをかな?」
紫音の戦闘方針に、リズが補足説明をしてくれた。
「ロックゴーレムは見たとおり全身岩で出来ているので、通常武器ではまずダメージは通らないッス。なので、スライムと同じでオーラ技か魔法、魔法スクロールによる攻撃が有効ッス。水属性の攻撃に弱いので、ミリアちゃんの水属性高位魔法を叩き込めれば、楽勝なはずッス」
「ミリアちゃんって、高位魔法も使えるの?!」
紫音はとても驚いた。
本来なら、ミリアの年齢なら中級魔法が使えるぐらいでも優秀な魔法使いであり、高位魔法が使用できるのは、相当― いや、超優秀な魔法使いであるからだ。
「ミリアちゃんは友達がいなくって、引き篭もって勉強ばかりしていたので、高位魔法も使えるッス! スーパー有能引き篭もりッス!」
「引き篭もり……」
ミリアは、親友のオブラートに包んでくれない一言にショックを受けて、またもや涙目になった。
「すごいよ、ミリアちゃん。勉強頑張ったんだね。今回もミリアちゃんを頼りにしてるね!」
紫音は慌てて、落ち込んでいるミリアを励ました。
「はい、がんばります……」
ミリアは紫音の励ましで、何とか復活する。
「私が事前に得た情報によると、あのロックゴーレムは試験用の低レベルゴーレムなようッス。そのため本来なら使ってくる岩石投げという、自身のどちらかの腕を丸い岩に変えて残った腕で投げてくる遠距離攻撃を使ってこないそうッス」
「卒業試験でそんな危ない技使ってきたら、事故が起きちゃうかも知れないものね」
紫音は納得する。
「ロックゴーレムの攻撃力は強いッスが、動きは鈍いので落ち着いて躱せば問題ないッス。あと、ロックゴーレムも魔法感知で襲ってくるッス」
紫音はここまで聞いた情報から、一番安全だと思われる作戦を考えて二人に話す。
「じゃあ私と、リズちゃんでロックゴーレムのどちらかの足を潰して、動けなくなった所をミリアちゃんが遠くから高位水属性魔法を使うって作戦で行くね!」
「はい!」
二人が返事をすると、三人はロックゴーレムの感知範囲近くまで進む。
「この辺で戦いの準備をしようか?」
紫音はそういうと刀を抜いて、オーラブレードの準備をしようとすると、リズが彼女を制止する。
「お姉さん、オーラブレードよりミリアちゃんに、属性エンチャントの魔法を掛けてもらったほうが効果あると思うッス」
「そんな魔法まで使えるんだ!? ミリアちゃんは凄いね」
紫音に褒められて嬉しそうにしているミリアに、リズがまたもや褒めているのか貶しているのか解らない事を口にした。
「ミリアちゃんは、伊達にボッチで勉強ばかりしてなかったッス。優秀ボッチ魔法使いッス」
「ボッチ……」
ミリアは、親友の一応自分のことを褒めてくれているであろう一言に、ショックを受けて再び涙目になう。
(リズちゃん的にはおそらく悪気は無くて、むしろ親友のミリアちゃんの優秀さを説明してくれているのだろうけど、言い方が悪いからガンガンミリアちゃんにショックを与えている……)
そう思う紫音であった。
「勉強は一人のほうが捗るものね。私も勉強は一人でしていたよ……」
(あれ、もしかして私もボッチ……。いや、勉強とは一人でするモノのはず……。たぶん…)
紫音はミリアをフォローするが、自分の言葉にダメージを受けてしまう。
「さあ、ミリアちゃん! 私の刀に水属性エンチャントお願い!」
紫音はこれ以上考えると、自分まで落ち込んでしまいそうなのでテンションを上げて、ミリアに属性付与の魔法をお願いする。
「ウォーターエンチャント」
ミリアが紫音の刀に水属性の魔法をかけると、刀身に水が纏わりつく。
「では、ミリアちゃん。一応魔法回復薬を飲んでMPを回復しておこうッス」
二人は魔法回復薬を飲んで、消費したMPを回復させる。
「そうだ、私の魔法回復薬を二人に渡しておくね。私には必要ないから」
紫音は二人に魔法回復薬を渡す。
「リズちゃん、ミリアちゃん、そろそろ行こうか!」
紫音がそういうと、二人が黙って頷く。
三人はロックゴーレムに向かって駆け出した!
「ついにロックゴーレムとの戦闘か……、がんばれミリアちゃん! がんばれみんな!」
そう呟いたのは先程洞窟を抜けて、ようやく望遠鏡で様子を見られる距離まで来た変装ミレーヌだ。
「あれ? ミリアちゃんがどことなく自信に満ちた顔になってないか? きっとスライムを退治して自信を持ったに違いない。さすが、私の可愛いミリアちゃんだ!」
(相変わらずの姪馬鹿だな……。そして、早く仕事に戻って欲しい……)
ミレーヌが姪の成長に喜んでいるのを見ていたエルフィは、心の中でそう思のであった。




