338話 格闘家対決 その3
本文の後半を少し追加しました
前回のあらすじ
ヨルムンガンドが口から出す蛇ラニア七光線は、探索者を溶かす恐ろしいモノであった。
「さらば、冒険者ボディ!」
それに対して、アフラは猫を象ったヘアピンを投げ捨てる
「以前、アフラJrちゃんより聞いたことがある。アフラちゃんの一族は、生まれた時は冒険者ではなく人間であると…。そして、厳しい訓練と修養に耐えた者に、あの“にゃんこ髪飾り”が与えられ、冒険者になれるという」
「何よ、そのへんな設定!? あと、そもそも”蛇ラニア七光線”って何よ!?」
アキ― ロ・ビーエルマスクは、リング上でエイク追い回されながら、頑張って突っ込んだソフィーのツッコミを無視して解説を続ける。
「つまり、今の人間となったアフラちゃんには、蛇ラニア七光線が効かないということだよ!」
「そうだよ! これでヘビなんとかをいくら浴びても平気だよ!」
ロ・ビーエルマスクの解説の後に、少しドヤ顔で戦闘態勢をとるアフラ。
「さあ、反撃だよ! フライング・クロスチョップ!!」
そして、ヨルムンガンドにフライング・クロスチョップを叩き込む。
「まるで、初代タ◯ガーマ◯クばりの見事なフライング・クロスチョップだよ!」
「アフラちゃんは、どちらかと言うと虎よりトラ猫だよ」
ロ・ビーエルマスクの解説に対して、紫音がどうでもいい突っ込みをする。
「ソフィーちゃん! マオちゃんのことは、任せたよ!」
アフラはそう言うと、突然ソフィーにドロップキックを食らわせた。
すると、吹き飛んだソフィーはご都合主義の元、マオの所まで吹き飛んで彼女と合流する。
(二人共、ごめんね。私はこういう不器用な生き方しかできないだ)
アフラは心の中で謝罪する。彼女が二人を遠ざけたのは、”蛇ラニア七光線”が効かない自分ひとりで、ヨルムンガンドを倒すためであった。
だが、三対一となったアフラは数の劣勢プラス人間ボディであるために、まおうたちにぼこぼこにされてしまう。
「ブモモモー!」
「にゃぁ~~~!!」
アフラはエルクの突進を受けて宙を舞う。
そして、そこをデコレーションツリー的な技で、大ダメージを与えられてしまった。
「にゃぁ~~~~!!」
「アフラの馬鹿(あらゆる意味で)~!!」
息も絶え絶えとなったアフラは、最後にマオに尋ねる。
「さ… 最後にこれだけは聞かせてマオちゃん…。ぼ… 冒険者の中には、私よりも強い人がいるのに…、どうして私をチームに入れたの…?」
自分を誘った理由を尋ねたアフラの問に、マオはその理由を彼女の魅力を語った。
「それは”使命感”だ。アフラ、オマエの魅力はどんな困難な状況になっても、与えられた使命を果たす。その使命感だ!」
「いやいやいや! その設定は無理があるって! だって、あの娘本編でお姉さまに言伝を頼まれたのに、それを忘れてダメ先輩と山まで競争するような娘よ!? 使命感なんて、ほぼほぼ無いわよ!? なんなら、私のほうがまだあるわよ!?」
ソフィーの空気を読まない突っ込みが入る。――が、当然無視されて、台本通り話は進む。
アフラにトドメをさすべく、ヨルムンガンドは口を大きく開ける。
その瞬間だった―――
「あれは!?」
アフラが投げ捨てた”にゃんこ髪飾り”が、ひとりでに動き出すと主人の元へ飛んでいく。
そして、アフラの髪に勝手に装着されると、彼女の体を冒険者に戻した。
(私の使命…… 私の使命…!!)
アフラは自分の使命を思い起こすと、強い決意を胸に秘めて叫ぶ。すると、彼女の強い意思に連動するかのごとく、体に最後の力が漲ってきた。
「にゃああああ!!」
気合を込めた声と共に、アフラは自分に突進してくるヨルムンガンドに、強力な蹴りを食らわせる。そして、そのままヨルムンガンドの胴にしがみつくと、浮遊六面型リングの外に共に落ちていく。
「アフラ! 早くリングに飛び移って!」
「今、私がこの子を離したら、私を倒してみんなを光線で苦しめることになるよ! そんことはさせない!!」
冒険者ボディに戻ったとはいえ、それまでのダメージでアフラの体は既に限界であった。
「アフラ!!」
「私に使命を果たさせて!!」
そのため彼女は残った力で、仲間のためにヨルムンガンドを道連れにすることを選んだのだ。そして、アフラのその決意を汲んだマオは、それ以上言葉を発することはなかった。
「ニャンセット・レッドマッカレルタビー!!」
「シャ~~~(泣)」
アフラは落下する力を利用して、ヨルムンガンドの頭部を地面に叩きつけKOする。
「使命は果たしたよ……」
だが、力尽きたアフラは同じく力尽きたヨルムンガンドと共に、そのままいつの間にか出来ていた崖に落下していく。
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「おきなさい、アフラ」
「にゃ!?」
アフラはその言葉を聞くと、今回はすぐに上半身を起こす。
すると、眼の前にレディーススーツに身を包んだ顔半分を覆うぐらい大きなサングラスを掛けた見覚えのある若い女性が立っていた。
「ミワトロのお姉さん! ひさしぶり~」
「ひさしぶりね」
ミトゥースもといミワトロに、アフラは元気よく手を振って声をかける。
「あれれ~? また、みんな止まっている~」
そして、前回と同じく二人以外全てが静止した世界であることにも気付く。
「相変わらず呑気な子ね……」
ミワトロはため息をついてから、アフラに話しかける。
「サタナエルに破れたことは覚えているわね?」
アフラがコクリと頷くと、ミワトロは話を続けた。
「今のアナタでは、彼女に勝つことはできないわ」
「そんなぁ……」
ミワトロが突き付けた厳しい現実に、アフラは落胆する。
「でもね……」
ミワトロはそう言うと、アフラに手を差し伸べた。
「アナタの決意次第では、サタナエルを超える力を手に入れることができるわ……」
「え!? ほんと?」
「ええ……」
ミワトロは力強く頷くと、アフラに語り掛ける。
「いい? これから言うことを良く聞いて。これからアナタに与える力の代償は、今までの比ではないわ。この力を使えば、ミトゥトレットはおろかアナタの体も壊れて二度と戦えなくなるかもしれないわ」
「!?」
ミワトロの言葉に、流石の脳天気なアフラでも目を見開いてしまう。彼女の説明では、強力な力に相応の対価を払うということであるからだ。
「でも…… その力を使えば…… みんなを助けられるんだよね…?」
「ええ。今より確実に戦況を有利にできるでしょうね」
「じゃあ、私やるよ! それでみんなを守れるなら!」
ミワトロの言葉に、アフラは力強く頷く。その表情は決意に満ちていた。
「アナタならそう答えると思っていたわ。アフラ……」
アフラの言葉に頷くと笑みを浮かべると、ミワトロは右手を差し伸べてアフラを地面から立ち上がらせる。そして、そのままアフラの右手ミトゥトレットに、女神の神秘パワーを注ぎ込む。
「この力は…… そうか…… この力は……!」
そして、アフラの体には神秘パワーと共に力の使い方も流れ込んできたので、彼女でも一瞬でその使用方法とこの力を振るう相手を理解する。
「終わったわ。これで、力が使えるはずよ」
「ありがとう~。これでみんなを守れるよ」
ミワトロが手を下げると、アフラは朗らかな笑顔でお礼を言う。
「もう二度と会うことはないと思うけど、元気でね。アフラ……」
「うん~、またね~」
アフラは元気に手を振りながら、別れの挨拶と共にミワトロの言葉を無視した言葉を返す。
そんなアフラにミワトロは苦笑すると、女神パワーで彼女を元の世界に帰還させる。
そして……
「お礼を言われる理由はないわ。私はアナタにとても酷い選択をさせたのだから……」
曇った表情でミワトロはそう呟くと――
「さて、次はあの娘ね……」
決意を秘めた表情になり、後輩女神はあの娘に会いに行く準備を始めるのであった。




