330話 前乗り
<激闘! うさ釣り祭り₍ᐢ。 ˬ 。ᐢ₎ その13>
<午後3時00分 ふれあいの森どうぶつ王国 イリノモテ野うさぎ飼育所>
「キュ~! キュ~!」
暗闇から兎の鳴き声が聞こえてきた。
㋐「ライトオン!」
その鳴き声の確認のために、アキが照明をつけると黒毛の兎が震えながら鳴いている。
㋐「紫音ちゃん兎だ。きっと、みんなを迎えに行ったツンデレ兎が帰ってこないから、心配で迎えに来たんだね」
㋞「誰がツンデレ兎よ!」
「キュ!? キュ~!!」
ソフィーが突っ込むと、紫音兎はその声に驚いて暗闇に逃げてしまう。
㋞「ふん。流石はダメ先輩兎ね」
㋐「待って、ソフィーちゃん。ほら…」
ツンデレが少し呆れた感じでいるとアキが暗闇を指差す。
すると、暗闇から照明に照らされた場所に紫音兎が戻って来て、また「キュ~! キュ~!」と震えながら鳴いて、仲間を呼び始める。
㋐「きっと、怖いけど仲間が心配で戻ってきたんだね。紫音ちゃんらしいわ… 」
㋞「何よ… 怖いくせにまた戻ってきて… 震えながら、頑張って仲間を呼ぶために鳴いて……」
そう呟くとソフィーは怯えて小さな鳴き声で、仲間に呼びかける紫音兎を一喝することにした。
㋞「ほら、先輩兎! そんな小さな声で鳴かずに頑張って大きな声を出して、カッコいいところを後輩兎に見せなさい!」
そして、優しい目で見守る。
彼女に勇気づけられたのか紫音兎が、大きな鳴き声で「キュー! キュー!」と仲間を呼び始めると、眠っていた後輩兎たちは耳をピクピクと動かして、目覚め始める。
―が、そこに悪魔が誘惑を仕掛ける。
㋐「ほ~ら、紫音ちゃん兎~。美味しい餌だよ~」
しゃがんだアキはそう言って、掌に乗せたノエミンソン特製餌団子で、紫音兎を誘惑し始める。
「キュ!?」
紫音兎は、それに気づくと警戒しながら少しずつアキに近づいていく。
㋞「だっ ダメよ、先輩兎! そんな悪魔の誘惑に負けちゃだめよ! 後輩兎にいいところを見せるんでしょう!?」
ソフィーは叱咤するが、紫音兎はアキに近づいて行ってしまうと「キュ~」と鳴いて、餌を食べ始める。
そして、再び眠りにつく後輩兎達。
㋐「私、30ポイント獲得~」
「キュ~」
アキは紫音兎を抱きしめるとポイント入手を宣言する。
現在のポイントはアフラ162P 紫音299P ソフィー254P アキ30P
㋞「このダメ先輩兎ーーー!!!」
今宵、何度目かのソフィーのツッコミが、暗闇に響き渡る。
########
本屋で購入が終わった後、リズ達四人は公園のベンチで一時を過ごしていた。
ミリアはアンネに購入した<どうぶつのレストラン>を読み聞かせており、リズとクロエはカードゲーム<魔物バトル>で対戦している。
リズとクロエのデッキは、双方ギャンブルデッキであるため、いいカードが出ずに泥仕合と化していた。
「そう言えば、街で噂を聞いたんだけど… 今度デビルロード砦に攻め込むらしいね。リズちゃん達も参加するの?」
クロエがカードを引きながら、それとなく質問する。
「そのつもりッス」
リズがカードを選びながら答えた。
「そう……。二人共、無理はしないでね」
クロエは立場的に”頑張れ”とは言えなかったので、”無理はしないで”と言う言葉を二人に掛ける。
「クロエちゃん、安心するッス。私の辞書には”無理をする”と”頑張る”という言葉は載っていないッス!」
「いや、”頑張る”は載せておこうよ!?」
ドヤ顔で答えるリズに、クロエは思わずツッコミをいれてしまう。
その頃、紫音はアリシアと実戦訓練をしていた。
「えいっ! えいっ!!」
「ほらほら、そんな攻撃じゃあ私には当たらないよ」
アリシアの攻撃を全て避けた紫音が言う。
「うぅ……。どうして当たらないんですかぁ……」
悔しそうな表情を浮かべるアリシア。
「まあ、経験が違うからね」
そう言いながら紫音は、アリシアの攻撃を軽々と避ける。
それから暫くの間、紫音による戦闘訓練が続く。
そして、三十分後―
「さあ……。少し休憩しようかな」
「シオン様、ありがとうございました」
アリシアは嬉しそうに礼を言う。
「どういたしまして」
紫音は笑顔で言うと、そのままこのようなことをアリシアに告げた。
「さあ、アリシア。次はソフィーちゃんとだよ」
「えぇ~!? シオン様、わたくしの休憩は!?」
「えっ!? そんなものは無いよ?」
「そんな~!?」
アリシアの顔色が青ざめる。
「次に戦いでは、アリシアも戦力として頑張らないといけないから、出撃の前日まで修行あるのみだよ!」
「そ、そんなぁ~……」
紫音の言葉に、絶望の表情を浮かべるアリシアであった。
その頃、リズ達は―
「クロエちゃんのおかげで、次の戦いに備えたデッキが完成したッス!」
「リズちゃんは、デビルロード砦に何しに行くつもりなの!?」
クロエとのデュエルで調整の済んだデッキを掲げ、勝利を確信したようなジト目の発言に、クロエは突っ込んでしまう。
こうして、デビルロード砦攻略の前日になりアキのアイアンゴーレム製造のために、紫音達は前乗りすることになった。
「デビルロード砦までは、半日以上掛かるために昼食は、馬車の中でするよ」
紫音の言葉に皆が同意する。
一行は半日以上掛けて、デビルロード砦の近くまで到着するが、辺りはすっかり夕焼けに染まっていた。
「暗くなるまで、魔法陣に魔力を注ぎ込んでおくよ」
アキはそう言って、紫音とソフィー、リズの護衛を受けて魔法陣の製作に向かう。
その後ろ姿を見送るエレナ達は、テントを設営すると夕食を作り始める。
夕食を食べ終わるとそれぞれ明日に備えて、テントで眠ることになった。
「シオン様~。わたくしと一緒のテントに行きましょう~♪」
「別に構わないけど、ミリアちゃんとリズちゃんも一緒だよ?」
「はい、構いません。その代わりに、シオン様の隣で眠らせてください~」
「えっ? アリシアは隅っこだよ?」
「そんな~!」
ショックを受けるアリシア。
「冗談だよ。隣でもいいけど変な事をしようとしたら、遠慮なくテントから叩き出すからね♪」
紫音は最高の笑顔で、アリシアに言う。
「大丈夫です。変なことはしません!」
「本当に?」
「本当です!」
「分かった。それなら一緒に寝ようか」
紫音はアリシアを連れて、自分のテントに入った。
そして、就寝の時間になる。
アリシアと紫音の間には、装備が置かれ隔たりを作っていた。
「酷いシオン様! わたくしの事、全然信用していないじゃないですか!?」
アリシアのツッコミがテント内に響き渡る。




