329話 アキ本屋にて……
<激闘! うさ釣り祭り₍ᐢ。 ˬ 。ᐢ₎ その12>
<午前2時30分 ふれあいの森どうぶつ王国 イリノモテ野うさぎ飼育所>
真っ暗な中現状報告―
㋐「アフラちゃんは、企画の最初から寝てしまい。ダメポニーは後輩兎三匹を釣って、満足して寝てしまいました」
㋞「ホントダメ先輩ね」
真面目なソフィーは、ブルーシートに寝転びアフラ・ノエミ両兎を撫ながら、竿は地面に置くという<置き釣り>というスタイルを確立していた。
※単に釣りを放棄しているだけである。
㋞「あっ、流れ星!」
㋐「ソフィーちゃんに吉兆か? 何をお願いしたの?」
㋞「もちろん『お姉さまの<愛>が欲しい』と心の中で願ったわ」
暗闇でソフィーの顔は見えないが、きっと目を輝かせているに違いない。
㋞「それにしても、もう1時間ぐらいブルーシートの上で寝ころんでいるわよ? 貧乏冒険者でも、女神の寝袋があるからもう少し良い寝方をするわよ?」
㋐「まさかブルーシートの上で、寝かされると思わなかった?」
㋞「ブルーシー… 野うさぎ飼育所一泊だからね、これ?」
㋐「アハハハハハ…! ソフィーちゃんは、イシガッキン村では3人相部屋に文句を言っていたけど、今となっては天国だったイシガッキン村!」
㋞「そうね… 」
㋐「今は野うさぎ飼育所一泊!」
㋞「また、流れ星だわ!」
㋐「ソフィーちゃんに、またもや吉兆か!?」
㋞「油断したわぁ… 『布団で寝たい!』って、お願いすればよかったわ… 」
㋐「しかし、時既に遅し! 願い叶わず、ソフィーちゃん野うさぎ飼育所一泊!」
㋞「うるさいわよ! もういい加減寝かせなさいよ!!」
ソフィーの心の叫びが再び暗闇にこだまする。
##############
「オーガ軍をわざわざ移動させて修復させている事からも解る通り、魔王軍がデビルロード砦を修復させて、要衝にしようとしている事は間違いない。よって、我らが攻めれば今度こそリーベと三義姉妹が防衛に参加するだろう」
ユーウェインの冷静な分析に全員が注目するが、彼の意見を否定するものはいない。それを確認した彼は話を続けた。
「そうなれば、敵の戦力はリーベ、三義姉妹、オーガの王、四天王三体、副官数体と雑兵が数十体…。今迄で一番苦しい戦いになるだろう。そこで、タイロン。今回はオマエにも来てもらうぞ」
「そいつは望むところですが、ここの守りはどうするんですか?」
「正直なところ今回の戦いで、この要塞の防衛に回している余裕はない。10名ほど置いていくが、残りは全員で攻め込むつもりだ」
タイロンの言葉に、決意を込めた目でユーウェインはそう答える。
まさに防御を捨てた捨て身の総力戦であり、これでも初手からオーガの王が動けば、かなり厳しくなる。これで勝てなければ人類側による魔王討伐は恐らく2~3年後退することになるだろう。
そのため彼の言葉を聞いた全員が覚悟を決めた表情になった。
「アキ君。わざわざすまなかった。後は我々だけで作戦を決めるから、君は街に帰ってくれて構わないよ」
「はい。では、私はこれで」
アキは本格的な作戦会議には参加しなかった。
何故ならば、彼女の知識はあくまで対人間用の戦術なので、対魔物にはあまり有効ではないと思ったからだ。
アキはユーウェインが手配してくれた馬車に乗って、街まで帰ってくると本屋に立ち寄る。目的は勿論BL本購入であることは言うまでもない。
すると、店内でリズとミリア、そしてクロエとアンネを見掛ける。
どうやら、アンネの絵本を購入しに来たようで、絵本の前でどれにするか話し合っているようだ。
(まっ 眩しい!! これから18禁BLを飢えた狼のような目で、漁ろうとしている腐女子の私には、絵本を選ぶ純粋な少女達が眩しい!!)
そんな事を考えていると、リズのジト目と目が合う。
「アキさん。アキさんも買い物ッスか?」
「うん。ちょっと必要な物があってね……」
そのためアキは少しだけ視線を逸らす。
リズの紹介でアキは二人と自己紹介を交わすと、ミリアの隣にいたアンネがこちらに来て、微笑んで絵本を2つ持って彼女に見せてくる。
「眼鏡のお姉さん~。お姉さんはこの絵本~ どっちがいいと思う~?」
「えっ!? 私?」
「うん~。今ね~ アンネとミリアお姉ちゃんが右手の絵本~ クロエお姉ちゃんとリズお姉ちゃんが左手の絵本がいいってなって~ どっちを買うか困っているの~」
どうやら、4人なので意見が2対2に分かれてしまって、結論が出ないようだ。
ただアキはこう考える。
(選んだメンバー的に言えば、明らかに右の絵本のほうが、アンネちゃんには合う!)
アキの予想は正しく、右は可愛い動物が描かれたほのぼの表紙<どうぶつのレストラン>で、左は人参を武器に見立てて持ったうさぎの絵が描かれている<うさぎ物語激闘編>というものであった。
「アキさん! 左ッスよね!?」
「アキさん! 左だよね!?」
「アキさん… 右ですよね…?」
「アキお姉さん~ 右だよね~?」
4人はアキがどちらを選ぶか輝いた瞳で見つめてくる。
(見ないで! これから欲望の赴くままに18禁本(BL)を大人買いしようとしていた、汚れたお姉さんをそんな輝いた目で見ないで!!)
アキは心の中で、そう叫ぶと結論を伝えることにした。
「アンネちゃんには、右の絵本がいいと思うよ?」
「わ~い。やっぱり、そうなの~」
アンネは左の本を元の場所に置くと右の本を会計に持っていく。
「左のほうがいいと思うんだけな~」
「あっちのほうが、ワクワクするッス」
選ばれなかった二人は、ブーブー文句を言っている。
その様子を見たアキは、左の絵本を手に取ると会計を済ませて、アンネに手渡す。
「はい、お姉さんからアンネちゃんにプレゼント」
「アキお姉さん~ ありがとう~」
嬉しそうに笑顔を見せるアンネ。嬉しそうにしているアンネの姿を見ると、アキも思わず顔が緩んでしまう。
「アキさん、ありがとう。アンネ、よかったね」
クロエはアンネの姉のように、アキに感謝を伝える。
「じゃあ、私はこれで失礼するね」
「あれ? 何か買いに来たんじゃないッスか?」
「うーん…… 実は、今日はもういいかなって思ってね……。大人にはこういう日もあるんだよ。だから、またの機会にするよ」
アキは苦笑いを浮かべながら話す。
本当は18禁BLを買っておきたいが、彼女達の前で購入するわけにもいかず、今回は諦める事にした。




