22.5話 卒業試験開始
(このお姉さん嘘が下手ッス。悪い人ではなさそうだけど……)
紫音の下手な言い訳を聞いたリズは、心の中でそう分析する。
「ところで、お姉さんはアマネ様と関係があるんッスか?」
「直系ではないんだけどね、子孫なの」
「先祖が偉大だと色々大変ではないッスか? 私はやれ、“先祖の名に恥じないようにしろ!”とか言われて……、お姉さんはどうッスか?」
「私は、むしろ話を聞いて憧れたかな」
「そうなんッスか……」
そう言ったリズの表情は曇ったので、引き合いに出される先祖に良い感情は持っていないと思われる。だが、それはサボったりする彼女の性格に、大半の問題があるのは言うまでもない。
(リズちゃんのお家は、厳しかったのかな……)
そう思いながら、暫く歩いているとミリアの部屋の前に着いた。
「ここが、ミリアちゃんのお部屋ッス。お姉さんが呼んでも出てこないと思うッス。だから、私が呼びかけるので、お姉さんはミリアちゃんが出てきたら挨拶するなり、引っ張り出すなりするッス」
「無理やり引っ張り出すのは駄目かな~」
そんなことしたら、私がミレーヌ様に頭を掴まれて学園中を― いや、街中を引っ張り回されてしまう……
リズは彼女の部屋の扉をノックすると、部屋の中に語りかける。
「ミリアちゃん、ちょっといいッスか?」
ミリアを呼び出したリズが後ろに下がると、代わりに紫音が扉の前に立つ。
暫くすると、部屋の扉が開いて中から恐る恐るミリアが顔を出す。
部屋から出てきたミリアは、ミレーヌより少し薄い青い髪の色で髪は少しカールしていて、大人しそうな表情と自信のない少し潤んだ目が、紫音の庇護欲を大いに掻き立てる。
(可愛い! 守ってあげたい! これはミレーヌ様が、一日中慰めてあげたいっていうのも分かる気がする!!)
紫音はリズの時と同じように、ミリアと目線の高さを合わせるために体を屈めると、できるだけ笑顔で自己紹介を始めた。
目線の高さを合わせるのは、そうすることで子供が安心して、こちらの言うことを聞いてくれると何かで見たことがあり、それを実践しているのだ。
「はじめまして、ミリアちゃん。今日編入してきたシオン・アマカワです。卒業試験のPTを組むことになりました。一緒に頑張りましょうね」
そう言って、紫音はミリアと握手するために手を出す。
すると、ミリアは恐る恐る手を差し出してきて握手してくれた。
「はい、よろしくお願いします」
小さい声で、紫音にそう返事をしてくれる。
「こちらこそ、よろしくねミリアちゃん」
紫音がそう返すと、ミリアちゃんはコクっと頷いた。
(あのミリアちゃんが、初対面の人と握手までするなんて……、このお姉さん只者ではないッスね。それとも、そういうスキルでも持っているんッスかね……)
リズは紫音を少し警戒することにする。
そういう魅惑系のアビリティかスキルを持っているなら、自分も知らない内にその効果にかかってしまうと思ったからで、そんな能力で仲良くなっても、それは洗脳と同じだと考えたからだ。
しかし、そんな能力は聞いたことがないので、このお姉さんの人の良さがミリアに伝わって、そうさせたのかものかも知れないが、警戒しておくに越したことはない。
そんなリズの警戒する視線に、紫音は気付かずに話を進める。
何故ならば、リズがジト目とポーカーフェイスで表に出さないからで、そんなことをされたら、ダメな紫音が気づくはずがない。
「じゃあ、早速準備して卒業試験に挑戦しよう!」
「では、まず装備保管庫まで行きましょうッス」
紫音の掛け替えと共に、リズが装備入手のために装備保管庫に向かうことを提案するとミリアは部屋に戻り、彼女のモノにしては少しサイズの大きい魔法使い帽子を被って出てくる。
三人が装備保管庫まで行くと、校長が前で待っていた。
「来たね。では装備保管庫は開けておいたので、自分にあった物を装備しなさい」
校長に促された紫音は、刀と軽めの鉄製装備、リズは弓と矢・短剣と軽装装備、ミリアは魔法使いの杖とローブを羽織ると装備を整えた。三人が装備を整え保管庫から出てくると、校長が試験会場まで案内してくれる。
試験会場のスタート地点まで来ると、校長は3人に用意していた回復アイテムなどを渡して最後の説明を始めた。
「試験時間は三時間、ゴール地点にいる大型魔物を倒すまでが試験である。時間は【女神の時計】で確認すること。低レベルの魔物とは言え、相手は魔物、油断すると命の危険があることを忘れないように!」
「「はい!」」
紫音とリズが返事し、ミリアが頷くと校長は試験開始の宣言をする。
「では、試験開始!」
三人は、それを聞くとスタート地点から歩き始めた。
紫音はミリアが、不安そうな顔で歩いているのに気付くと、ミリアの不安を少しでも払うために声を掛ける。
「ミリアちゃん、私が必ず守るから心配しないで」
「はい……」
ミリアは小さな声でそう答えたが、顔から不安は消えていない。
(言葉だけでは信頼はされない! 行動で示さなければ!)
そう思う紫音だった。




