特別編 腐るゥ販売員
私の名は<喪女野腐女子>人呼んで腐る販売員
只の販売員ではございません
私が取り扱うのはBL本と人間の心でございます
「うふふふ腐腐腐」
この世は心の寂しい人ばかり、そんなみなさんの心の隙間をお埋めいたします
いいえ、お金は一切いりません
お客様が満足して見せてくれる笑顔が、私の何よりの報酬でございます
「アキちゃん、アキちゃんだよね!?」
「いいえ、違います。私の名は喪女野腐女子です。今回の犠牲― お客様はオマエな」
「今、犠牲者って言いかけたよね!?」
さて、今日のお客様は―
<天河紫音(18)冒険者>
サブタイトル『大は小を兼ねるらしい』
(ああ、ミレーヌ様のように大きければ…)
紫音が自分の慎ましさに、憂いた表情で街を歩いていると
「うふふふ腐腐腐、何かお困りのようですね?」
後ろから突如声を掛けられ、振り返るとそこには全身黒いスーツと帽子、あと眼鏡を着用した女の子が立っていた。
「アナタは誰ですか?」
「私はこういう者です」
突然声を掛けてきた自分を怪訝な目で見ているのに気付いたのか、黒い女の子は名刺を差し出してくる。
<BL本販売と心の隙間お埋めいたします 喪女野腐女子>
名刺にはこのような事が書かれていた。
「BL本販売と<心の隙間お埋めいたします>…?」
「何か悩んでおられたご様子。私に話してみませんか? お力になれるかもしれませんよ?」
「別に悩みなんて…」
「うふふふ腐腐腐、顔に胸がコンプレックスだと書いてありますよ?」
「はぅ!? どうして、わかったんですか!?」
「私なら、その悩みを解決できますよ? もちろん、お金入りません。ボランティアでやっているので。BL本販売はお金を頂きますが… うふふふ腐腐腐」
「本当ですか!? いや、そんなうまい話があるわけないよ!」
「まあ、そう言わずに、この薬を1錠試しに飲んでみてください。この薬は1錠で1カップ大きくしてくれる薬です」
喪女野は手に持っていた鞄の中から、薬瓶を取り出して紫音に勧めてくる。
「何かの怪しい薬では無いですか?」
「疑い深い人ですね。ですが、女の子はそれぐらいが疑い深いほうが丁度いいでしょう。では、私がまずは目の前で1錠飲んであげましょう」
彼女は薬瓶から、1錠取り出すとソレを目の前で飲み込む。
すると、信じられない事に、喪女野の胸がワンサイズ大きくなる。
「ほっ 本当に大きく… 触ってみていいですか?」
「どうぞ。ただし、ここではなんですので、あちらの人気のない所で」
二人は建物と建物の隙間に来る。
「優しくお願いしますね」
だが、紫音は両手で鷲掴みにすると揉みしだく。
「はぁ はぁ そんなに激しくされては…」
「ほっ 本物だ… 本当にあの薬で、大きくなったんだ…」
「信じて貰えましたか?」
「はい!」
「では、これを…」
喪女野は先程の薬瓶を手渡す。
「こちらもいかがですか?」
「いえ、そっちは結構です!」
続けて差し出したBL本は、拒否されてしまった。
「効果は約半年。あとこの薬のことは、内緒にしておいてください。中々手に入らない貴重なモノなので、余計なトラブルが起きますから」
「わかりました」
「大は小を兼ねると言うし、ミレーヌ様と同じEカップにしよう!」
その日の夜、紫音は自室で徐々にではなく、いきなりEカップを選択する。
次の日、紫音は薬によって大きくなったEカップの胸を、大きく揺らしながら街を闊歩する。
通り過ぎていく男達の視線は、自然と胸に集まっている。
(ああっ! 大きいだけで、こんなに注目されるんだ!)
紫音は人生で初めての巨乳に喜びを満喫していた。
「ちょっと、先輩! どうしたのよ、その胸!? パッドね!? パッド何でしょう!?」
そう言って、ソフィーは紫音の胸を揉みしだいてくる。
「はぁ はぁ そんなに激しくされたら… お姉さん、お嫁にいけなくなっちゃうよ…」
「本物だ… どういうことよ!?」
「成長期だからね!」
「成長期って、限度があるでしょうが!!」
ソフィーの嫉妬と羨望の眼差しが心地よい。
数日後、<カフェ 腐の巣>
「喪女野さんに頂いた薬のおかげで、快適な巨乳ライフを送っています」
「それは、よかったですね」
「男の人にも声を掛けられるようになって、もう最高ですよ!」
「うふふふ腐腐腐、それはよかったですね。私も嬉しいです」
だが、次の瞬間―
喪女野は顔を近づけて、このような忠告をしてくる。
「約束してください。バストの大きさに貴賤はありません。決して、慎ましやかな人にマウントを取ろうとしないと。特に傷つき易いツンデレツインテール相手には…」
「わかっています。私もそっち側だった人間です、そんな事をされた時の気持ちは解りますから!」
「もし、約束を破ればとんでもないことになりますからね?」
だが、数日後には、紫音は大きな胸にうんざりするようになっていた。
大きな胸は重いため肩が凝り、動く度に邪魔になる。
声を掛けてくる男も大きな胸が目的のヤリ目なため、彼女の望むような恋愛につながらない。
(これなら、様子を見つつ1カップずつ大きくすればよかったよ…)
紫音は思い胸を机に置きながら、大きくため息をつく。
「これみよがしに、胸を机の上に置いて!」
「しょうがないよ、ソフィーちゃん。思いからこうしたほうが、楽になるんだもん」
「それに、最近動きも鈍いわよ! その大きな胸が邪魔をしているんじゃない!? まったく無駄に大きくなって! ホントいい迷惑だわ!!」
大きな胸が邪魔になってイライラが募っていた所に、ソフィーから文句を言われた紫音はついカッとなってしまう。
「まあ、ソフィーちゃんには、大きい胸の悩みなんて、一生解らないよね!」
「なっ!? 自分が大きくなったからって、よくそんな事が言えたわね!?」
「だって、本当のことじゃない。その軽くて動きやすいフラットボディには、解らない悩みだよ!」
「うぅ~!! ダメ先輩の馬鹿~~~!!!」
ソフィーは半泣きで、その場から走り去ってしまった。
「ソフィーちゃんが、悪いんだから…」
紫音が言い過ぎてしまったことに、後悔していると初めてあの女の子に会った時と同じように、背後から声を掛けられる。
「紫音さん。アナタ、私との約束を破りましたね?」
「ちっ 違うんです、喪女野さん! これは、ソフィーちゃんが… 」
喪女野は言い訳を無視して、紫音に右手の人差指を刺しながらこう言い放つ。
「言ったはずです、大きさに貴賤はないと! 約束は約束です! アナタのような人間として、心の小さい女の子には小さな胸がお似合いなのです!」
「無茶苦茶な理屈を言っていますよ!?」
「問答無用!」
喪女野の人差し指が、紫音の文字通り目の前に突き出される!
「ドーーーーーーーン!!!」
「あぅーーーー!!!」
その掛け声と共に、激しい光が紫音の視覚と脳を襲い紫音は気を失ってしまう。
紫音が目を覚ました時、その視界には心配そうな表情で自分を見るソフィーが映る。
「大丈夫、先輩!?」
「ソフィーちゃん… 私はいったい…」
地面に倒れていた紫音が起き上がると、胸がおおきくなってからいつも感じていた胸の重みが消えており、胸が元のAAサイズからAAAサイズになっていた。
「むっ 胸が1カップ小さく!?」
「元に戻っただけじゃない!」
「元にじゃないよ! AAサイズから、AAAサイズに落ちているんだから!」
「豊胸のリバウンドでしょう?」
「どんなリバウンド!?」
「他が無事で良かったじゃない」
「いや、無事だけどある意味無事じゃないよ!?」
「あれほど忠告したのに、残念でしたね。ですが、彼女は大きな胸は失いましたが、大事な後輩は失わずに済んだようです」
二人が仲良く言いあっている姿を遠くから見ている喪女野は、一人そう呟くと踵を返して鞄を片手にその場から歩き出す。
「隣の芝は青く見えるとはよく言ったものです。大きいモノにも小さいモノにも、それぞれデメリットとメリットがあります。それは持っている本人しか解らないものであり、どちらがいいとは言えないものです。うふふふ腐腐腐腐腐腐」
つづく?




