308話 リザードの王、撃破作戦開始
<シェフ ソフィー 畑から開墾して、料理する春野菜スペシャル その8>
料理ではなく皿を作る事になったソフィー。
今回もクリスに作って貰ったパイ生地は、腐ってしまうであろう。
㋛「落ち込まないで、ソフィーちゃん! きっと、クリスさんも解ってくれるよ! それに、頑張れば今日中に皿も完成するかもしれないよ!」
紫音もお姉さんとして、落ち込むソフィーを慰める。
㋞「一日で完成するわけがないじゃない!! もう、お姉さまの私の評価は終わりよーー!!」
泣きそうになっているソフィーに、ShiONちゃんが近づいて優しく肩を叩いて、慰めてくれる。
――が
㋞「慰めるんじゃないわよ!! どうして、私がアナタ達みたいな能天気娘とダメダメ先輩に慰められなきゃいけないのよーー!!」
ソフィーは怒りと絶望のあまりに、理不尽な暴言を吐いた後に、泣きそうな顔でShiONちゃんをバシバシ叩き八つ当たりを始めた。
㋛「やめて、ソフィーちゃん! ShiONちゃんを叩かないで! 私が叩かれている気がして、辛いから!!」
紫音は猛り狂うソフィーを、何とか抑えようと頑張って宥めようとする。
㋷「パイ生地を2つも腐らせてしまう今のツンデレお姉さんは、そのお二人のお姉さんよりも、”ダメダメ”な人ッスけどね……」
リズはジト目で明後日の方向を見ながら、ソフィーに聞こえるようにボソッとそう呟く。
㋞「!? ~~~~」
それを聞いたソフィーは自覚があったのか、声にならない言葉を発した後に涙目になって、更にShiONちゃんを激しくバシバシと叩き始める。
㋛「リズちゃん! 火に油を注ぐような事を言わないで~!」
紫音は大荒れのソフィーを、何とか宥めようとこの後しばらく奮闘することになる。
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「後はリズ君と紫音君に作戦を説明すれば、作戦決行だな」
ユーウェインがそう述べると、アキがこのように尋ねる。
「スギハラさんには、いいんですか?」
「アイツなら、今迄の経験からアドリブで対応できるだろう。むしろ、問題はメインでヤツを引きつけてくれているシオン君に、いつ説明するかだが…」
彼の言う通り、戦いの経験が豊富なスギハラなら、アドリブで対応できるであろうが、問題はまだ経験不足な紫音であり、下手をすれば作戦を邪魔してしまうかもしれない。
「まずは、リズちゃんに話をして、次に団長や遠距離職、魔法による面制圧と盾職に頑張ってもらうしか無いですね。どのみち紫音には、一度休憩を与えないといけませんから」
紫音はオーラの大太刀とオーラステップのみで戦っているため、<無念無想>により<無我の境地>にある彼女は、<チャクラ>で周囲からオーラを少しずつ吸収して、体内に取り込むことが出来るのでオーラはまだ問題なかった。
問題があるとすれば、スタミナと何より強敵との戦闘から来る精神の消耗で、特に後者の消耗は厳しい。
「なるほど、なかなかギャンブルな作戦ッスね」
薬品で消耗した魔力を回復させながら、アキから作戦の説明を受けたリズはこう答える。
「リズちゃんには、厳しい作戦だと思う?」
アキはリズの性格はともかく、聡明な彼女の頭脳には一目置いているので、その理由が気になり尋ねてしまう。
「問題はアフラお姉さんが、既に2回分使用しているところッス。もし、女神様が三回分を想定していたなら詰みかもしれないッス」
「一発分でアイアンゴーレムを倒せるから、問題ないと想定しているんだけど…」
実のところアキもその点は気になっていたが、前述の理由から問題ないと考えていたが、リズにまで指摘されると心配になってくる。
「でも、それしか作戦がなさそうなので、やってみるのもいいと思うッス」
リズはジト目で最後にそう答えると、紫音を休ませるための攻撃部隊に参加することにした。
「大丈夫だよ! 万が一の時は、私には切り札があるからねー!」
アフラは左拳をブンブン振りながら、元気いっぱいにそう言ってきたので、アキは信じることにする。
「 ―というわけだから、紫音ちゃんは終始リザードの王の気を引き続けて!」
「わかったよ」
アキから手短に作戦の内容を説明された紫音は、そう答えると作戦で緊張しているミリアに近づくと、体を屈めて彼女と同じ目線に合わせると声を掛けた。
「ミリアちゃん、がんばろうね。私はミリアちゃんを信じているから」
憧れの紫音に優しい笑顔で、そう声を掛けられたミリアは、少し緊張が解け、更にほんの少しだけ勇気が湧いてくる。
「はい、がんばります…」
ミリアが今できる精一杯の決意の表情で、そう答えると紫音は安心した表情で前線に戻っていく。
(不安なミリアちゃんに気付くなんて、無念無想で冷静さを維持できているんだね。これなら、紫音ちゃんは問題ないね)
一連の行為を見ていたアキは、そう推察すると作戦の成功率が上がったような気がした。
紫音が再びデイノスクスへの攻撃を始めると、アキがユーウェインに作戦開始の号令を求める。
「ユーウェインさん!」
アキの促しを受けて、ユーウェインは大声で作戦開始の号令を言い放つ。
「これより、リザードの王撃破作戦を開始する!」
ユーウェインは続けて、弓使い達には頭部への攻撃を指示して、魔法使い部隊に一時待機と来るべき時に備えて魔力回復を命じる。
「女神の祝福を我に与え給え!」
その後にユーウェインとソフィーは、女神武器の特殊能力を発動させた。
リズは翌日の全身筋肉痛の恐怖に、一瞬ためらうが発動させないと作戦が失敗するために、覚悟を決めて発動するが新しいミーには、筋肉痛の副作用がないため杞憂に終わる。
「どうやら、決めにかかるみたいだな… それなら!」
スギハラはデイノスクスと戦いながら、ユーウェイン達が女神武器の特殊能力を発動させるのを視界の端に捉えると、敵と距離を取って直感で自分も発動させる。
「いけっ! ゴッデス・マガタマ(GM)ファミリア!」
「ミー、ゴッデス・ロッド(GR)ファミリア発射ッス!」
「行きなさい! ゴッデス・デュアル・スカバードゥ(GDS)ファミリア!」
紫音達から命令を受けたそれぞれのファミリアは、デイノスクスの頭上に飛んでいき、弓使い達の攻撃と連携して頭部への攻撃を開始した。
紫音は右前方から、スギハラは左前方から攻撃を仕掛けたり、距離を取ってサッカーのプレッシングの要領で圧力を掛けたりする。
デイノスクスは、頭部への攻撃と前面の紫音達に注意が向いて、背中への注意が疎かになってしまう。
それこそが、アキの作戦の第一段階の目的である尻尾への攻撃の陽動であり、アフラは気づかれること無くデイノスクスの背後まで、あと少しの所まで迫ることが出来た。
だが、その時―
尻尾にセンサーでも付いているのかのように、デイノスクスは尻尾に迫るアフラに気づくと、体を捻り彼女に向けて強力な尻尾による横薙ぎを仕掛ける。




