285話 本拠点到着!
前回のあらすじ
遂に本拠点攻略の当日、紫音達はアキ達が待つ目標地点に向かう。
その頃、それをオーガ本拠点で待ち受ける魔王軍は、昨日の夜の出来事が祟って、ぐっすりお休みしていた。
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ここで朝に元気なモノが目を覚ます。
そう、フェンリルである。
フェンリルは、朝のお散歩時間に目を覚ますと可愛い尻尾を振りながら、アンネの寝袋に向かい『おさんぽに、連れて行って』と短い前脚で、寝袋の穴から出ている御主人様のほっぺたを二~三回触る。
「フェンリル、うるさいの~。アンネはまだ眠いの~」
だが、昨日の夜クロエの『3匹の子豚』に安眠を妨害されたアンネは、そう言うと寝袋の奥に入ってしまった。
「くぅ~ん」
それを見たフェンリルは悲しそうに鳴く。
そこで、散歩にどうしても行きたいフェンリルは、クロエを頼る事にする。
何故なら、こういう時は優しい彼女に頼めば、連れて行ってくれるからだ。
フェンリルが隣で寝袋に入って眠るクロエの頬を、先程と同じように前脚で触ると目を覚ました彼女は眠そうな声でこう尋ねてくる。
「フェンリル、どうしたの…?」
そう聞かれたフェンリルは、隣で爆睡中の御主人様を見て「くぅ~ん」と鳴いて、クロエにそちらを見るように促す。
クロエは寝袋に入ったまま横に反転して、横で眠るアンネを眠い目で見る。
すると、寝袋の穴から見えるはずのアンネの顔は見えておらず、その事から中に入って散歩を拒否したという事がた。そして、フェンリルが主人に代わって散歩に連れて行って欲しいから、自分のことを起こしたのだと察する。
「まったく… アンネはしょうがないな… じゃあ、私と散歩に行こうか?」
「わん!!」
その言葉を聞いたフェンリルは、嬉しそうに尻尾を振って喜ぶ。
まだ少し眠いクロエはあくびをしながら、オーガ本拠点内を嬉しそうに尻尾を振りながら散歩するフェンリルの横に並んで歩く。
「フェンリルは、早朝から元気だね…」
「わん!」
半分瞼を閉じながら歩くクロエの問い掛けに、フェンリルは嬉しそうに鳴いて答える。
(散歩が終わったら、もう一度寝よう…)
子犬のような短い足のフェンリルは、オーガ本拠点内を30分掛けて一周すると満足そうに散歩を終えた。
「フェンリル、おやすみ…」
散歩が終わるとクロエはそう言って、フラフラしながらテントに戻り、再び寝袋に入って二度寝を始める。
「わん!?」
フェンリルは驚く。何故なら、これから人間達が攻めてくるのに、クロエが皆を起こさずに二度寝に入ってしまったからである。
フェンリルは慌ててテントに入って、クロエを起こそうとするが彼女は「わん! わん!」うるさく鳴くフェンリルを両手で持つとテントの外に出す。
そして、入り口のチャックを閉めてフェンリルが入って来られないようにすると、今度こそ二度寝に入ってしまう。
「く~ん」
フェンリルはテントの前で悲しそうに鳴くと、そのままテントの前で自分も二度寝することにした。
そして、昼前―
本拠点の手前、数キロの場所にある小高い見晴らしのいい丘に馬車を止めると、ユーウェインが指示を出す。
「ここを拠点キャンプとして、物資を載せた馬車を待機させる」
本拠点攻略作戦参加者達は、ここに守備兵を少人数置くと、人と陣営を作る資材を載せた馬車、そして分解した投石機だけで更に本拠点近くまで進行する。
その途中で、紫音達は前日から来ていたアキ達と合流を果す。
「よし、この辺りに陣営を設営する」
本拠点の近くまで到着した攻略部隊は、当初の計画通りに補給物資を置いておく陣営を設営して本拠点攻略の準備を始める。
その頃、オーガ本拠点内では、ようやく魔王やリーベが目を覚まして、女神の懐中時計で現在時刻を確認すると時間は既に正午前になっていた。
「寝過ごしたーーーー!!!」
二人は慌てて寝袋から飛び起き、身支度を整えると魔王は急いでリーベに指示を出す。
「とりあえず、私はみんなを起こして回るから、真悠子は人間達が来ていないか、外を確認して来て!」
「了解です!」
リーベはテントから飛び出して、城壁の内側に備え付けられた足場に駆け上がると、女神の鞄から女神の望遠鏡を取り出して、周辺の索敵を行うが辺りには人間達の姿は見えなかった。
「おかしいわね… そろそろ到着していても、いい時間のはずだけど…」
リーベは不思議がりながら、もう一度望遠鏡を覗いて索敵するが、やはり人間達の姿は見当たらない。
「遅刻しているのかしら?」
彼女が拍子抜けした感じで、テントまで戻ってくると魔王に起こされた三義姉妹が、戦う準備を行っていた。
リーベが索敵の報告をすると、魔王は少し考えた後に
「この拠点はフラム要塞から遠いから、まだ到着していないのかもしれないわね。私は密約があるから、取り敢えずグリフォンで魔王城に帰還するわ。みんなは人間達が来ない間に、ご飯を食べて戦いに備えなさい」
そう指示を出すと街からここまで乗ってきたグリフォンに乗って、魔王城へと帰還する。
本拠点の上空に飛翔した時、魔王は上空から望遠鏡で周囲を索敵してみたが、人間達は確認出来なかった。
(出発時に何かあって遅れているのかしら? それとも、作戦が中止になったかしら?)
魔王はそう考えながら、前線に出ないという密約を守るために、人間達に見つかる前に魔王城へと帰還する。
もし、魔王が寝起きで思考能力が低下していなければ、この事態の真相に気づいたかもしれない。
「本拠点の様子はどうだ?」
設営の間、ユーウェインは本拠点の様子を、リディア達イーグルアイ保持者に偵察させる。
「本拠点も城壁の上も、特に変わった様子はありません」
「前日から来ているソフィーの報告でも、リーベや三義姉妹を確認していないそうです」
リディアの偵察報告の後に、クリスがソフィーから受けた報告をユーウェインに伝える。
「私達がここにいるのに、城壁から様子を窺って来ないところを見ると、彼女達は中にいないと考えていいと思います」
リディアが続けて自分の意見を述べた後、スギハラはユーウェインの横に並ぶと彼の肩に手を置いて盟友を称賛する。
「ここまで温存していたお前の作戦が、上手くいったみたいだな」
「ああ。どうやら、奴らを出し抜けたみたいだ」
ユーウェインは、盟友の方に顔だけ向けるとニヒルな笑みを浮かべてそう答える。
「先生、見てください! イケメン二人が絡んでいます!!」
「やっぱ、ユー×スギは尊いわー!!」
そして、それを見て喜ぶ腐女子二名。
既にお気づきの方もいると思うが、ユーウェイン達”本拠点攻略部隊”がやってきたのは、リーベ達が待ち構える<オーガ本拠点>ではなく<リザード本拠点>であり、ユーウェインのこの秘策で魔王軍は完全に出し抜かれた形となった。




