282話 それぞれの夜 その3
彼女は要塞防衛戦でアキが額を付けて紫音を落ち着かせた光景を見た時に、自分では恐らくあんな事をしても紫音を落ち着かせることができないと解っていた。
あれは紫音とアキの信頼関係だからできたことであり、今の自分と紫音の間にはそのような信頼関係性はない。
だが、今回紫音が自分と一緒に寝てくれる事を許可してくれたから、少しは信頼関係が築けたのかと思いきや、アキのためと言われてしまいショック受けてしまう。
そして、同時に彼女の為なら、今まで拒否してきた事もできるのかと思うと、自分でもわかない黒い嫌な気持ちに胸が支配されてしまう。
そして、何よりそんなことを言われただけで、アキへの劣等感と嫉妬を持ってしまっている醜い自分が嫌だった。
紫音は起き上がるとアリシアに、いつか見た夢の話をする。
夢の中でアリシアと命を奪い合う戦いをしたことを…
話し終えた涙目の紫音は、アリシアに抱きつくと声を震わせながらこう訴えかける。
「何を怒っているのかわからないけど、今のアリシアはあの夢の中の嫌なアリシアみたいだから怖いよ…。お願いだから、あんな嫌なアリシアにはならないでね…。私はアリシアと命を懸けて戦うなんて嫌だからね!」
泣きながら、強く自分を抱きしめる紫音の体温を感じながら、ケットさんに防衛戦の時に言われた言葉を思い出す。
『愛は見返りを求めないもの』
『一歩的な過度の愛の押しつけは、相手の負担となって敬遠されてしまう』
『何より愛や友情や信頼は、長い時間を掛けてお互いに育てて築くもの』
自分は今まで自分の想いばかり一方的に押し付けて、それなのに紫音から反応が返ってこないと一人不満に感じていた。
ケットさんの言う通り、自分と紫音は出会ってまだ1年も経っていないのに、幼馴染のアキと同じくらいの信頼関係を築けるわけもなく、彼女との差を感じて一人焦って嫉妬していた。
王族、王妹として育った自分には、媚を売ってくる者達はいても、心から信頼できる者がいなかった。
だから、セシリアと天音のような心から信頼して、色んな事を相談できて、共に命を懸けた戦いで守りあう心友が欲しかったのだと―
その関係を憧れのその二人と同じ関係性である紫音に求めたのだと―
そして、彼女と関わっている内に、その真面目で優しい性格に触れて、改めて紫音と心友になりたいと強く思ったのだと―
そのために、自分より心友に近いアキに嫉妬してしまったのだと―
でも、夢の中で命を奪い合った事を思い出して、そうなって欲しくないと泣き出して、感極まって自分から抱きついてしまう程に、紫音が自分の事を想っていてくれていると解り、彼女がそう想ってくれるぐらいの信頼関係を築けていた事に安心を得る事ができた。
それにより、胸の黒い感情が消えて冷静さを取り戻すと、アキの為に護衛と言ったが、それならば一緒のベッドで寝る必要はない事に考えが至り、あの言葉は紫音の照れ隠しであると気付く。
そして、一夜を共に(※アリシアの曲解です。実態は添い寝です)してくれる本当の理由は、最初に話してくれた明日の戦いで不安に思っている自分を心配して、一緒に居ることで少しでもその不安を取り除こうとしてくれたのだと理解する。
更に、紫音は己の訓練を放おって、昨日今日と自分の事を思って訓練してくれた事も思い出して、彼女が自分の事を想い続けてくれた事を再確認する。
アリシアは以上のことを思いの丈として、紫音にぶつけた後に最高の笑顔でこう答える。
「はい、わたくしは闇落ちなどしません。こうやって、シオン様がわたくしのことを想ってくださっていたと解りましたから… 」
「私もアリシアを不安にさせて、闇落ちさせないようにこれからは気をつけるようにするから」
アリシアは、<紫音が自分の事をそこまで想ってくれていたのなら、解るように態度に出した欲しかった>という思いは敢えて話さなかった。
それは、ケットさんの教えに背くからである。
紫音は美少女アリシアのその笑顔に、同性ながらドキッとするが、恥ずかしいのでそれを表情に出さないようにしてこう答える。
「ごめんね、アリシア…。年上の私が包容力を見せて、アリシアを導いてあげないといけないのに、不甲斐ないばかりに不安にさせてしまって…」
紫音が年上のお姉さんが大好物なのは、自分が成りたいと思っている<優しさと包容力があり、心に余裕がある大人の女性>だからであり、特にフェミニースやミレーヌ、次にミトゥース、クリス、リディアに憧れているのもそのためである。
※フィオナは優しさと包容力はあるが、いかんせん駄目なお姉さんなので、憧れて良いのか判断に悩む。(※自分が駄目なお姉さんなのは棚に上げています)
※レイチェルは残念美人なので……
「わたくし、シオン様に信頼されて、アマネ様とセシリア様のような信頼し合い、お互いの背中を守りあえるような“心友”関係になれるように頑張ります!」
アリシアが紫音に改めて、そう宣言すると紫音は両手をアリシアの両肩に置くと、その輝く瞳で彼女の目を真っ直ぐ見つめてこう言い返してくる。
「何を言っているの? 私とアリシアは、もう信頼しあう”親友”だよ! だけど、明日の戦いは危険だから、アリシアは私を守る必要はないよ。でも、私はできるだけアリシアや”みんな”を守るから!」
アリシアがカワイイ系美少女であるなら、紫音はカッコカワイイ系美少女である。
その紫音が凛とした表情で目を見つめながら、前述のような事を言えば年下魅力++のスキルと相まって、当然年下女子であるアリシアはキュンとしてしまう。
(シオン様、ステキ♡♡♡ やっぱり、シオン様を独占したい! アキさんやエレナさん、ソフィーさん、何だったらミリアちゃんにも渡しません!!!)
アリシアは紫音に<信頼できる心友になって欲しい>のか、<カッコカワイイ紫音と百合百合したい>のか解らなくなっていた。
ただ1つ言えるのは、<紫音の一番になりたい!>ということである。




