276話 魔王軍の次の手
オーガとの要塞防衛戦の次の日―
オーガ本拠点侵攻作戦に備えて、紫音達は朝から訓練を行っていた。
紫音は新しい女神武器を少しでも使いこなせるための訓練を、ソフィーはアリシアの経験値を上げるために模擬戦である。
「紫音さん、筋肉痛は大丈夫なのですか?」
「そういえば昨日も使用後に、吐血してなかったよね?」
エレナとアキが、休憩中の紫音に質問すると彼女はこう答えた。
「うん。私の体が慣れたのか、フェミニース様が新しい女神武器から、特殊能力使用の反動を無くしてくれたのかわからないけど平気だよ」
理由は後者であり、これは対魔王を想定したフェミニースの優しさ(甘やかし)である。
因みにリズのニューミトゥルヴァも反動は無くされており、ミリアのグリムヴォルに至っては、サンタ・ローズで接触した時点で反動を消している。
「これで後はオーラの残量が、昔アキちゃんがプレイしていたゲームみたいに可視化されれば、楽になるんだけど」
「スキルプレートは、あくまで鑑定時の能力値が表記されるだけの、能力証明書みたいなものだしね」
紫音の意見にアキがそのように答えを返した後、会話を聞いていたリズが話に混ざってこう言ってきた。
「TRPGッスね、自分も昔プレイしたことがあるッス。確かに、数字で見えるようになったら、HPとMPの管理が楽になるッス」
この世界にはテレビゲームはないので、リズがテーブルトークRPG(TRPG)と勘違いしたのも無理はなかった。
確かにゲームのように、可視化されれば楽であるが、そんな事は厳しい所は厳しいフェミニースが許さない。
そして、紫音は模擬戦を行っているアリシアを見ると、彼女はソフィーのスピードについて行けず、盾を構えて攻撃を防ぐ事しかできておらず防戦一方であった。
しかも、その攻撃もソフィーが遠慮してワザと盾で防げるように攻撃しており、その事は紫音には一目瞭然である。
(ソフィーちゃん。やっぱり、アリシアに遠慮しているなぁ。でも、アレだとアリシアの訓練にはならない)
とはいえ、敵にソフィーと匹敵するスピードを持つ者は、リザードの四天王とエマぐらいではあるが、そのエマは次の戦いで戦うことになる確率は高い。
そこで紫音はアリシア達が休憩のために、自分達が今いる庭の休憩所に来た時に、アリシアにこのように提案する。
「アリシア。休憩が終わったら、次は私が相手をするよ。私はソフィーちゃんの様に甘くないから、ビシバシいくからね!」
アリシアに人差し指をビシッと指して、そう宣言する紫音にアリシアは「はい、お願いします、シオン様!」と答えた。だが、心の中では(模擬戦の間は、シオン様を独り占めできる♪)と呑気な百合思考をしていた。
だが、いざ模擬戦が始めると、その考えが甘かったことに気付かされる。
紫音はムラクモ・ブレードの峰を返すと、素早く盾を構えるアリシアに突進して、彼女の目の前で素早くステップする。そして、木剣を持つ右側に移動して油断して、がら空きになっている彼女の右篭手に峰打ちを叩き込む。
「ぅ!」
右篭手を打たれたアリシアは一瞬、声を出すが女神の加護で強靭さを強化されたその細身の腕には、あまりダメージはなく彼女はすぐさま右手に握った木剣を紫音に向かって、横に振るが既に彼女はそこにいなかった。
そして、次の瞬間アリシアの背中に衝撃が走る。
それは、素早く背後に移動した紫音の斬撃であった。
「あうっ!」
鎧越しとはいえ、背中に攻撃を受けたアリシアはよろめくが、すぐさま体勢を立て直す。
(前から思っていたけど… アリシアって、お姫様育ちなのに体が強すぎるよ! 女神の加護って凄すぎるよ!)
アリシアも冒険者学校で体をそれなりには鍛えてはいるが、紫音ほどではない。
それなのに女神の加護によって、自分と同等かそれ以上の体幹能力を持っているアリシアを羨ましく思ってしまう。だが、紫音自身も女神の加護でかなり強化されているので、彼女に文句は言えない。
しかし、スピードと体力、技は紫音の方が圧倒的なので、アリシアは紫音の攻撃を鎧越しに受け続けて、とうとうその場に座り込んでしまう。
(調子に乗って、やりすぎた!)
紫音は攻撃を中止すると、心配そうな表情でアリシアに近づき
「ごめん、アリシア。大丈夫?」
このように声をかけると苦しそうな表情をした彼女からこう返ってくる。
「体がもう動きません。シオン様、回復薬を飲ませてください… できれば、口移しで!!」
アリシアがそう言った瞬間、紫音は無言でアリシアの口に回復薬を突っ込む。
「シオン様、酷いです! 傷ついたわたくしにこんな回復薬の飲ませ方をするなんて!」
流し込まれる回復薬を頑張って全て飲んで、回復したアリシアは少し起こった表情でこう言った後、すぐさま―
「でも、そんな強引なシオン様もステキです~」
―と、恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、そのようなデレ百合発言をする。
その頃、魔王軍アルトンの隠れ家では―
「貴方達四人には人間達の侵攻に備えて、これからオーガ本拠点に行って貰うわ」
「遂に私達も参加だね!」
「アンネも頑張るの~」
魔王の指示にクロエとアンネが、ヤル気を漲らせてそう返事をすると、リーベとエマからは反論が出る。
「魔王様、いいのですか? 二人を戦いに出しても?」
「今回は四天王も三体いますし、オーガの王もいます。戦力的には、充分だと思いますが」
「もちろん、クロエとアンネは予備戦力で、最初からは戦わせないわ。でも、今回のオーガ本拠点が落とされれば、残りはリザードだけになってしまう。そうなれば、戦況は一気に私達が苦しくなってしまう。だから、今回は万全を期したいの」
二人の反論にそう答えた魔王の後に、クロエとアンネが大人達にこう言ってくる。
「魔王様。それに、真悠子さんにエマ姉。私達だって、魔王軍の一員なんだから心配はいらないよ!」
「そうなの~。それにみんなもいるの~」
アンネの周りで動物達も御主人様の影響を受けて、各々鳴き声を出しながらヤル気を見せいている。
幼い二人のヤル気を見たリーベとエマは、二人の参加を了承したが”決して戦わせないように、私達が頑張ろう”と心の中で思っていた。
魔王の指示はこうである。
今から準備をして、今日の内にオーガ本拠点に到着して、テントで一泊。
明日から陥落した拠点2つ分の『魔力吸収宝玉』を使用して、『魔物精製魔法陣』を増設、更にテントで一泊。
恐らく2つ目の『魔物精製魔法陣』が完成するのが、明日の夕方になるであろうから、テントでもう一泊という計画であった。
「でも、魔王様。前回1つ増設した時、魔物の生成が1.5倍の速度でした。なので、2つ増設しても意味が無いのではないですか?」
「前回増設した時より、残念な事だけど拠点は一つ減っているわ。でも、そのおかげで大気中に漂う魔力を吸収していた拠点が一つ無いから、以前より大気中の魔力濃度が濃くなっているはず。だから、私の計算では魔物の生成は1.75倍から2倍になるはずよ」
魔王の計算は正しく魔物の生成速度は2倍近くになり、後にその正しさが生み出されるオーガの数で証明される事になる。
こうして、リーベ達四人は魔王の指示に従って、オーガ本拠点に向かうことになった。




