265話 黒猫ピンチ!
「シオン先輩、だいじょ― 猫耳!? どうして、猫耳!? かわいいけど…。どうして、猫耳なの!?」
ソフィーはオーガと戦いながら、紫音の可愛さに一瞬心が揺らぐが、ツッコミはキッチリと入れる。
「シオンさん、猫さんみたい~」
猫みたいな印象を受けるアフラから猫みたいと言われるのは、少し複雑な感じがする紫音であった。
「あれが、噂に聞く<ジャパニーズネコミミメイド>…、キュートね…。いや、猫耳!? まゆ― リーベ様、どうして、猫耳なのですか!? 倒すのでは無かったのですか?!」
エマの驚きから、どうやら彼女にも聞かされていない事であったようだ。
「まあ、そう焦って倒す必要もないでしょう? 精々楽しませて貰ってから… ね」
(ゴクリ)
猫耳紫音はリーベとエマのやり取りを聞いて、これ以上何をやらされるのかと思わず固唾を飲んでしまう。
「さあ、紫音。私に向かって『ごめんなさい、ご主人様。シオニャー、またお皿を割ってしまいましたニャー』と言いなさい」
(やっぱり、この流れか…)
リーベの命令を聞いた紫音は、猫耳を付けられた時からこうなる予感がしていたが、現実になるとやはりゲンナリしてしまう。
そして、そう思いながら、紫音は昨日の夜のことを思い出していた。
紫音はリーベの印象をアキに近い感じと答えた。
奇しくもその感じた通り、紫音はいつぞやのアキの時と同じく猫耳を付けられ、ドジっ子猫耳メイドのセリフを強要されている。
これは、ただの偶然なのか、それともBL漫画家という共通点が起因しているのかは、今は解らない。(ただの似た者同士なだけである)
だが、そう考えながら紫音には、どうしても納得できないことがありその事を口にする。
「どうして、アキちゃんもリーベさんもシオニャーをドジっ子メイド属性に設定にするの!?」
すると、ソフィーが誰よりも早く秒で突っ込んでくる。
「アナタ! 今の自分の姿見てみなさいよ! ドジっ子以外の何者でもないじゃない!!」
「はぅ!? 言い訳できない!」
紫音はソフィーの的確なツッコミに、今の自分の状況を顧みて納得してしまい、グウの音も出ない。
「さあ、紫音。早く言いなさい…」
リーベは優しい口調ではあるが、あきらかに紫音に圧をかけてくる。
ソフィー達の救助がまだ期待できない以上、体がまだ動かない紫音は殺されないためにも、リーベの要求を飲むことにした。
「ご…ごめんなさい、ご主人様…。シオニャー、またお皿を割ってしまいました…… にゃ…ニャ~」
紫音は最後の”ニャー”という語尾は恥ずかしくて躊躇したが、言わないことでリーベの機嫌を損ねる事になっては不味いと思って恥ずかしそうに言った。
「シオン様がリーベの要求したセリフを言いました! 最後の”にゃ~”って言った恥ずかしそうな表情は、最高に可愛かったです!!」
大事な人の新たな一面を見たアリシアは興奮しながら、紫音の状況を報告するとそれを聞いたアキは驚きの声を上げる。
「えっ!? 紫音ちゃん、シオニャーのセリフを言ったの!? 私が要求した時は、断固として言わなかったクセにっ!!」
ミリアは駄目なお姉さん達の話を聞きながら、紫音の様子を心配していた。
「いいのよ、アナタが怪我さえしていないなら」
リーベご主人様は、皿を割ってしまったシオニャーにそう言って、優しく声を掛けてくれた。
「リーベご主人様は優しい! アキご主人様は、ドジをしたシオニャーにいやらしいお仕置きをしようとしたのに!! これが、大人の女性の包容力……!」
紫音は最悪エロいお仕置きも覚悟していたが、予想に反してリーベの口から出た思い遣りの言葉に、大人の女性の魅力を感じて胸キュンしてしまう。
「アキさん、いやらしいお仕置きって何ですか!? あとで、じっくりお話を聞かせてください!!」
「ただの妄想ですよ!!」
飢えた狼のような目でそう迫ってくるアリシアに対して、アキはすぐさま妄想だと訂正するが、本当はエロいお仕置きもしてみたかったという気持ちは否定できなかった。
「紫音。やっぱり、アナタを連れて帰るわ。この前、会って話をした時から、アナタの事をずっとこちら側に引き入れようと思っていたの。私達の話を聞けば、アナタもきっとこちら側の人間になるわ」
(この前、会って話をした時…? トロールが攻めて来た時のことかな? でも、あの時、そんなに友好的な感じでは無かったと思うけど…)
紫音はリーベが、二回目のオーク要塞侵攻戦の前に街の外の草原で助けたBL漫画家『黒野☆魔子』と同一人物だとは知らないために、このような勘違いをしてしまう。
『黒野☆魔子』こと真悠子が紫音を気に入ってしまったのは、紫音が持つ特殊スキル<魅力++>の効果も少しは寄与しているが、身を挺して守ってもらった事とその時の紫音とのやり取りの中で感じた好印象が主な原因である。
対する紫音も実は黒野☆魔子(黒沢真悠子)の事を素敵な大人の女性だと思い少し気になっており、また会いたいと思っている。
そして、彼女自身は気付いていないが、今は何故かリーベに対して敵意はあまり持っておらず、現に紫音はリーベのことを最近ではこれまた本人は気付いていないが、何故か”さん”付で呼んでしまっており、これは無意識にリーベ=魔子(真悠子)だと感じているのかも知れない。
リーベは薙刀についている宝玉に魔力を込めて、近くにいたオーガに命令を出す。
すると、オーガは紫音に近づいてきて、彼女を脇に抱えるとオーガ侵攻軍の後衛がいる所に向かって歩きはじめる。
「えっ!? 嫌っ! ソフィーちゃん! アフラちゃん! 助けて~!!」
オーガに抱えられた紫音が、近くにいる二人に救助を求めるが、それぞれ厳しい戦いをする二人にそんな余裕は無かった。




