263話 主人公、無双する その惨
4台目の投石機を破壊した時、紫音の予想より早くオーラが尽きてしまい、彼女はいつかの時のようにその場に糸の切れた人形のように地面にうつ伏せに倒れてしまう。
(えっ!? そんな… <無念無想>で、チャクラから周囲のオーラを取り込んでいたのに… どうして!?)
紫音は今の自分の状況に驚くが、答えは簡単である。
<オーラを調子に乗って、取り込む量より使いすぎた> ただそれだけである!
あと、新しい力を得て、浮かれてオーラ残量を見誤っていた事も原因の一つである!!
つまりは駄目ポニーということである……
「しかし、本当に戦場で力尽きて倒れるとは……」
紫音が倒れたのを見て、エマは呆れた感じでそう呟く。
「魔王様の言う通り、やはり新しい武器にまだ習熟していなかったようね。では、エマ。作戦第二段階行くわよ」
「はい!」
魔王は今迄得た紫音の情報から、高い確率でやらかすと計算しており、そのため二人に暫く様子を見るように指示していたのであった。
リーベとエマは作戦第二段階に移行する。その内容は、もちろん倒れている紫音の元に敵よりも早く行くことである。
「まずい! まずいよ! これは!」
紫音がオーク軍による要塞侵攻戦の時のように、地面にうつ伏せで倒れながらそう言っていると、彼女をスレイヤーする為にオーガが近づいてくるのに気付く。
オーガはその巨躯ゆえに地面を揺らしながら歩いてきており、紫音はその揺れが地面を伝わってくるのを感じて、危機感を激しく感じる。
(せっかく新しい力を得たのに… こんな情けないことになるなんて…)
オーガが倒れている紫音の近くで歩みを止めると、彼女目掛けて手に持った武器を冷徹に振り下ろす。
(もうダメだ…)
紫音が覚悟を決めて目を瞑る。
「はいおーらぱーんち!!」
紫音に武器が到達するよりも早く、アフラが放った渾身のハイオーラパンチがオーガの脇腹に命中して、脇腹を消し飛ばして更にその体勢を激しく崩す。
素早くもう一度右手にオーラを溜めると、アフラは体勢を崩しているオーガの頭にハイオーラパンチを叩き込んで、魔石に変えることに成功した。
「シオンさん、大丈夫~?」
救援に来たアフラは、少し呑気な口調で紫音の安否を確認する。
「また、絶対にこうなるって、思っていたのよ!」
ソフィーが近くにいたオーガをスピンブレードで倒した後に、紫音を一瞥しながらそう言うと続けてアフラに指示を出す。
ソフィーは、紫音がオーク戦の時のようにまたやらかすと予想して、彼女の後ろを二人で追いかけてきていた。
そして、調子に乗ってオーラを使いまくって、オーガを倒していく姿を見て、”ちょっとカッコいいかも”と思いながら、多分また力尽きて倒れるなと確信していた。
「アフラ! そのダメダメな先輩を運んで!」
「りょうか~い!」
ソフィーは自分達に近づいてくるオーガを牽制しながら、アフラに地面に倒れている紫音を担いで、後方に連れて行くように指示を出す。
「毎度毎度、ごめんね…」
紫音はアフラに担がれて後方に連れて行ってもらうのは、もう何回目かわからない。
そして、これまた何回目かわからない感謝の言葉を彼女に言う。
「気にしないで~、困った時はお互い様だよ~」
アフラはそう答えて、紫音を担ぐために姿勢を屈める。
「アフラ!! 危ない!!」
そこに、ソフィーから大声で危険を警告する言葉を掛けられ、その声を聞いたアフラは野生に近い勘で咄嗟に右に振り向く。すると、そこにはエマことサタナエルが、自分に向かって強力な飛び蹴りで迫ってきていた。
「はにゃあ~!」
アフラは咄嗟に右腕に装着したミトゥトレットを前にしたクロスアームブロック(十字ブロック)で、エマの飛び蹴りを防ぎダメージを最小限に抑えるが、派手に飛ばされて地面を転がる。
地面を数回転がったアフラは、その身体能力で仰向けの位置で回転を止める。そして、その状態からネックスプリングと言われる技で地面から一気に跳ね起きると、体勢を立て直してエマに対して戦闘態勢をとった。
「今の攻撃を防いで、すぐに立ち上がるなんて、大した身体能力ね」
戦闘態勢のアフラにエマは賛辞を述べると、自身も彼女に対して戦闘態勢をとる。
(このお姉さん、強い…)
エマと対峙したアフラの勘が彼女にそう告げた。
お互い格闘家である為に、構えとその佇まいを見てその強さを感じ合い、二人はじわじわと距離を詰め合う。
「アフラちゃん! 大丈夫!?」
紫音は地面に倒れているので、状況がわからずにアフラに心配の声を掛けるが、当の彼女は強敵のエマと対峙している為に、返事を返す余裕がない。
「自分が動けないこの状況で、他人の心配だなんて…。相変わらずね、天河紫音」
紫音がうつ伏せの状態から、声のする正面を見るとそこには彼女にゆっくりと近づいてくる黒い脛当てが見える。
彼女が更に上を見上げるとそれは黒い仮面の女魔戦士ことクナーベン・リーベが、笑みを浮かべながら自分に向かって歩いてくる姿が見えた。
「フフフ…。いい格好ね、紫音」
「クナーベン・リーベ……さん」
リーベが紫音に近づくのを見たソフィーは不味いと思って、アフラを見るが彼女はエマと睨み合っていてそれどころではないようなので、自分で救援に向かおうとする。だが、リーベの命令を受けた数体のオーガがその行く手を阻む。
そして、紫音の危機的状況を要塞の城壁の上から、望遠鏡で見ていたアリシアが悲鳴に近い声で、回りにいたアキやミリアにその状況を報告する。
「大変です! 動けなくなったシオン様に、黒い鎧を纏った女性が近づいています!!」
「はわわわわ」
ミリアは紫音のピンチにテンパってアワアワしている。
「なんだって!? 紫音ちゃん、またやらかしたの!?」
そして、アキはまずそこから突っ込む。
「側にいるソフィーさんやアフラさんは、敵と戦っていて救援に向かえないみたいです。
アキさんのゴーレムやミリアちゃんの魔法で何とかなりませんか!?」
望遠鏡で様子を見ながらアリシアは、二人にどうにかならないか尋ねるが、紫音は投石機の破壊の為に敵陣の深くまで攻め込んでいるので、二人にはどうする事もできなかった。




