233話 聖女様、パニックになる
紫音とアキが801御殿に向かった翌日、教会ではフィオナに奇跡が起きて珍しく早起きをしていた。
「フフフ~。今日はナタリーに起こされる前に起きましたよ~。寝起きにナタリーの小言を聞かずに済んで、今日はいい日になりそうです♪」
彼女はウキウキで朝の支度を終えると、このような事を思いつく。
「そうだわ! 今朝は私がナタリーを起こしてあげましょう~」
フィオナはルンルンでナタリーの部屋の前まで行くと、部屋の扉を叩いて彼女を起こすがナタリーは起きてこない。
(おかしいわ…。ナタリーが起きてこないなんて…。はっ! もしかしたら、何か不測の事態が起きているのかもしれません!)
フィオナはそう考えて、彼女の部屋のドアを開けて中に入ると、そこには一つのベッドにナタリーともう一人誰かが眠っていた。
「はわゎゎゎゎ、ナタリーが神聖な教会で◯×□△!!??」
フィオナはパニックになって慌てて部屋から出ると、どうしたらいいのか頼れる親友ミレーヌに栞で連絡して判断を仰ぐ。だが、ミレーヌから帰ってきた答えは、フィオナが期待していたものではなかった。
<それは朝チュンだな……。上司ならそれぐらい見て見ぬ振りをしてやれ>
「神聖な教会でそんなコトしたのを、見過ごすことなんてできないわ…」
場所が場所だけに総主教として、フィオナは見過ごすことができないので、何かよい案がないか再度相談する。
フィオナの返信にミレーヌは、核心を突く事実を突きつける。
(では、男とそんなコトしたことないオマエが、その場に乱入して説教できるのか?)
「そっ…、それは……」
(たしかに無理かもしれない…)
事後を目撃しただけで、パニックを起こしている彼女はそう考えたが、だからこそミレーヌにいい案がないか相談しているので、もう一度相談することにした。
ミレーヌは”どうでもいいわ”と思っており、返信の内容も御座なりになる。
<じゃあ、一緒に寝ていただけってことにしておけ>
「そっ、そんな事できないわ。女神様が見守ってくださっている神聖な教会なのに…」
その彼女の返信にそれに対してフィオナは、このような<デモデモダッテ>な返信を返す。
すると、今度は真面目なトーンで、ミレーヌからこう返信が返ってきた。
<安心しろ、女神様も朝は寝ていて見守ってない>
「ミレーヌ、何を言っているの! 女神様はいつでも見守ってくださっているわ!」
フィオナは総主教として、ミレーヌの発言を看過できずに、そう強めに返信してしまう。
すると、ミレーヌからの返信内容は怒りに満ちていた。
フィオナはせっかく相談に乗ってくれていたのに、強めに返信してしまった事でミレーヌを怒らせてしまったのかと思ったが、内容を聞くとそうではなかった。
<見守ってねえよ! だったら、どうして昨日の朝ミリアちゃんの猫耳姿を、女神様は私に見させてくれなかたんだ!! いい加減な事言ってんじゃないぞ、このポンコツ総主教!>
フィオナは”それは、ミレーヌの信心が足りないからよ”と返信しようかと思ったが、この荒れようから、火に油を注ぐ形となって教会までアイアンクローをおこないに来そうだと思い止めておくことにした。
結局いい方法が見つからないまま、フィオナが部屋の前でアワアワしていると、ナタリーが部屋から出てきて、真相を聞かされることになる。
長い茶番の間に気付いている読者もおられると思うが、ナタリーのベッドで寝ていたのはノーマで、飲みすぎて酔った彼女をナタリーが家まで送ろうとしたが、ノーマは完全に酔いつぶれてしまう。
そのため彼女の家の場所がわからないナタリーは、仕方なく教会の自分の部屋に連れてきたのであった。
その頃、要塞では今度はオーガ本拠点の監視所から急報がもたらされていた。
「今度はオーガの旗が、19本から15本に減ったらしい」
部下から報告を受けたタイロンが、その内容をユーウェインや仲間に知らせる。
「一体何が起きているのでしょうか?」
前代未聞の出来事が立て続けに起きたことに、エスリンがこのように不安を言葉にする。
「魔王の罠ということはないでしょうか?」
リディアがこのように魔王の策と疑うと、それを聞いたエドガーもその線を疑いどのような策か推察して、考えた次のような策を披露してみる。
「確かに本拠点にいた獣人をどこかに伏兵として、どこかに隠しているかもしれませんね。」
「その可能性はあるかもしれないな。偵察兵に命じて周辺を探査させるか」
ユーウェインは、エドガーの推察した策を聞くと確かにあり得ると思い、念の為に偵察の指示を出す。今回の件は、ユーウェイン自身も真相を測りかねていたが、前向きにこうも考えていた。
「一連の件の真相はわからないが、侵攻が遅くなるのは我々としては、その分だけ消耗した戦力と物資を回復させることができる。この時間を与えてくれたのが女神様か魔王か解らないが、精々有効に活用するとしよう」
彼は部下達にそう言うと、オーガ侵攻の準備を進める。
そして、その日の昼頃にケットさんが帰ってきた。
その頃紫音はアキの屋敷の周辺や裏山を走り込んで、元の世界で住んでいた場所に似ているなと改めて感じて、懐かしさに浸っていたが、オーラの大太刀の修業は進んでいない。
そして、アキは紫音が修行している間、ご飯を用意したりBL漫画のネームを描いたりしていた。
次の日、紫音は懐かしい風景に囲まれながら、過去の祖母との修業を思い出していた。
「お婆ちゃんは、剣術に重要な事はなんて言っていたかな…。確か…残心、克己、気剣体一致、あと何だったかな……。そうだ、<無念無想>だ!」
「その意味は?」
紫音がその言葉を思して口にすると、背後から自然にその言葉の意味を尋ねられる。
「えっ!? 意味? 意味は……、何だったかな…?」
紫音は祖母が教えてくれたその言葉の意味を、思い出そうとするが思い出せない。
すると、その声の主が呆れた感じで、言葉の意味を教えてくれる。
「<一切の想念を離れて無心になり、無我の境地に入ること>であろうが…」
「そうそう、そんな感じの意味だよ!」
紫音がそう言って、振り返るとそこには合法ロリお姉さん疑惑のマオが立っていた。
マオは紫音の顔を見ると、察してこう尋ねてくる。
「その様子では、修業は上手くいってないようだな?」
「うん、そうなんだ…」
紫音は素直に修業が上手くいってない現状を答えた。
「では、あの山に籠もって修業してみてはどうだ? 昔の剣豪や剣術家はそうしていたのであろう?」
マオは裏山を指差しながら、昔の剣豪に習って紫音に山籠りの提案をする。




