228話 腐女子少女、歓喜する
228話 腐女子少女、歓喜する
前回のあらすじ?
スパコミで得た戦利品を楽しみたいと言って、シオ備の相談に乗ろうとしないアキ明であったが、次回の夏コミでシオ備をTS化させた総受け本を出す事の許可を条件に、相談に乗ることにした。
シオ備は、どうしたら北のクリ操を倒して天下泰平を成し得る事ができるか尋ねると、アキ明はこう答えた。
「北のクリ操は今や大勢力を築き打倒するのは難しいでしょう。そこで、ひとまず東のアリ権と同盟を結び、その間に西に進出し領地を得てそこを基盤として、他の勢力と対抗できる勢力を養うのです」
そして、アキ明は最高のキメ顔でこう述べる。
「北のノンケ、東の百合、西のBL、三ジャンルを鼎立して均衡を保つ…。そして、機を見てノンケを打倒する。これがジャンル三分の計です」
これが有名なアキ明のジャンル三分の計である。
「天下泰平の話どこに行ったの!? というか他にもジャンルあるよね!?」
シオ備はそう突っ込んだが、彼女と読者は<アキ明の罠>に掛かって、無駄な時間を過ごしてしまった。
だが、この後アキ明の読み通り<赤壁の戦い>で、<ポリコレ>の風が吹きノンケはBL・百合連合軍に破れる事になる。
(さんこみっく演義 「アキ明、シオ備にジャンル三分の計を説く」より)
#####
アキが来客室の隅に埃が残っている事を、小姑みたいに指摘しているとシオ・リィーガワが紅茶のセットを乗せたトレイを持って、来客室に戻ってきた。アキは部屋を調べていたことを、咄嗟に壁にかけていた絵画を見る振りをして誤魔化す。
「絵画に興味があるのですか?」
「はい。こう見えても、一応絵を描く商売をしているので…」
(BL漫画です…。しかも、親友をTS化させています!9
紫音がアキの返事を聞いてそう思っていていると、シオ・リィーガワの質問にそのように答えたアキは、このような事を彼女に聞こえるように話し出す。
「いやー、この世界でシャガールの絵画に会えると思いませんでした」
アキの言葉を聞いたクリスは、彼女の真意に気付きこのような異議を投げかける。
「アキ、それはミレーではないかしら?」
二人が急に絵画の話を始めたので、紫音も何か話題をと思ったが、絵画に詳しくないので
”このミレーの絵を見れー”というダジャレしか思いつかなかったので、黙っていることにした。
「私はあまり絵には詳しくないですが、その絵はシャガールやミレーではないと思いますよ。その二人の絵画なんて、流石に手は出ませんからね。複製品という可能性もありますが…」
シオ・リィーガワが紅茶を淹れながらそう答えると、クリスとアキが顔を見合わせてから、クリスは彼女にこう切り出す。
「シオ・リィーガワさん、この世界にはシャガールもミレーも居ませんよ」
「!?」
シオ・リィーガワが紅茶を注ぐ手を止めて、“しまった”という顔でいるとクリスは話をさらに続ける。
「その画家の名を知っているということは、やはりアナタも女神様によってこの世界に転生した人なのですね?」
シオ・リィーガワは、手に持っていたティーポッドを机に置くとこの様な質問をしてきた。
「<アナタも>ということは、貴方達も…ですか?」
「はい。私達は3人共転生者です」
クリスが質問に答える。
「そうですか…。まあ、私以外にも居る事はわかっていましたが…」
すると、リィーガワはそう言葉を口にしながら、再びティーポッドを手に持って紅茶をカップに注ぎ始める。そして、人数分淹れ終わると各員の前に、その紅茶の注がれたカップを置いていく。
「解っていたんですか?」
紫音が彼女にそう尋ねると、このような返事が帰ってくる。
「だって、私は女神様の<打倒魔王>という期待には答えられていませんから。なので、魔王を倒せる別の転生者が、この世界に送り込まれて来ている筈だと思っていたので」
“なるほど”と、三人が納得すると彼女は紅茶を一口飲んで喉を潤すと、元の世界での自己紹介を始めた。
「では、改めて自己紹介を…。私の本名は伊川詩織といいます。<シオ・リィーガワ>は、この世界に合わせた偽名兼ペンネームといったところです」
彼女の本名を聞いたアキが、急に興奮しだす。
「伊川…詩織…さん…。って、もしかして、あの伊川詩織さんですか!! あの乙女ゲーム『俺とお前の学園シリーズ』の製作総指揮者の!!」
「ええ、そうですけど…」
本人だとわかると、アキのテンションは更にあがり、早口で自分の想いを語り始める。
「やっぱり!! 私、『俺とお前の学園シリーズ』の大ファンで全作品やりました! もちろん初回限定盤を! 残念ながら、四作目の『俺とお前の学園パラダイス』はプレイ中に死んでしまって、この世界に来たのでクリアしていませんが、あとの三作品はトロコンするぐらいやりました!」
「あっ、ありがとう…」
詩織は興奮して語るアキに圧倒されてしまい、月並みな返事をしてしまう。
さらにアキの興奮は、アップして語りは続く。
「あと、伊川さんが同人サークル時代に作った、『ドキッ! イケメンだらけの戦国大戦!』も同人ショップを駆け巡って購入しました! あと、プロデューサーを担当なされたオンラインゲームもプレイしました!」
「それは、どうも…」
詩織はアキの興奮にすっかり気圧されて、このような返事しか出来なかった。
「神降臨! 神降臨!」
そして、彼女はアキに会った時のエレナみたいな発言をしている。
アキの捲し立てに、口を挟めなかった紫音がようやくアキに質問する。
「アキちゃんは、伊川詩織さんの事を知っているの?」
すると、アキは過去を思い出して説明を始めた。
「ほら、前の世界で中学2年の始め頃に私がプレイしていたゲームが、詩織さんが作った第三作目の『俺とお前の学園カタルシス』だよ」
「あー、あの何かと理由をつけては、イケメンの男の子同士が半裸で抱き合っていた、変わったゲームだね」
その紫音の返答を聞いたアキは、怒りを顕にして紫音に迫る。
「おい、控えめポニー! 何だ、その言い方は! 紫音ちゃんは今、大勢の腐女子を敵に回したよ! 詩織さんに謝れ! 大勢の腐女子に謝れ! そして、私に謝れ!」
「ひゃぅ!? ごめんなさい! 詩織さんもごめんなさい! 大勢の腐女子の皆さんもごめんなさい!」
紫音はアキの剣幕にびっくりして、そこまで謝ると最後にアキに対しては頑張ってこう言った。
「でも、アキちゃんは私のことを控えめポニーって言ったから、謝らないからね!」
「なに~、紫音ちゃんの癖に生意気な~」
そう言って、アキは紫音をくすぐり始める。
傍から見たら、女子高生がふざけあって遊んでいるようにしか見えない。
その様子を見ていたクリスは少し呆れた感じで見ており、詩織は後輩とふざけあって楽しかった大学時代を思い出していた。
その頃ノエミは馬車の御者台から、荷台に移って座席にネコのように丸まって、窓から差し込む暖かい日差しの中でお昼寝していた。




