218話 足を止めろ
前回のあらすじ
助けてくれた幼女を抱えて、みんなの所に来た主人公は仲間達から犯罪を疑われ、その幼女からは怒られて、<アレこの娘は本当に主人公かな?>と思われるが、この後ちゃんと主人公する【予定】なのでお楽しみに。
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前線にやってきた紫音は、さっそく回避盾役を頼まれオークの王カリュドーンの強力な攻撃を回避していた。
「はぅ! あぅ!? いやぁ~!」
だが、オークの王であるカリュドーンは、トロールの王ほど大きくない為に一撃の威力は低いが、その一撃も人間が受ければ致命傷になりかねず、更にその攻撃と動きは俊敏で回避するのはトロールの王より難易度は高い。
そのため紫音は、開始数行で早々に【予定】をあくまで予定にして、主人公らしくない声を出しながら回避していた。だが、紫音でなければその攻撃で<ミンチより酷い>にされていたかも知れない。
現に紫音が来る前に盾役をしていた者達は、次々と負傷して後方に搬送されていた。
そうこうしている内に、アキのゴーレム<伍ータム>が整地していた場所からやってきて攻撃を開始する。
カリュドーンの強力な攻撃は、次々と鈍重な伍ータムにヒットするが、その堅固な防御力で何とか凌いでいた。
伍ータムは<肉を切らせて骨を断つ>戦法で、相打ち覚悟のタイミングで攻撃を仕掛けて、何とかその巨体に似合わず俊敏に動くカリュドーンに攻撃を当てているが、こちらが一回当てる間に五回攻撃を受ける為に苦戦している。
「ペリカンさん、このままではマズイね…」
アキの横で紫音が、回避盾役で消耗した体力と精神力を回復させるために、休憩を取りながらそう呟いた。
(ペリカンじゃねえよ! いい加減にしろよ、このひんぬー)
突っ込む余裕のないアキは、そう思いながら伍ータムにカリュドーンに攻撃を当てるために命令を出し続けている。
もちろん周囲の者達も、援護はおこなっているが、俊敏に動くカリュドーンに魔法はほとんど当たらずに、弓攻撃も防具や盾で防がれたりして、思うようなダメージを与えられていない。
「足さえ封じることができれば、魔法攻撃で大ダメージを与えることができるのだが…」
エドガーのこの意見を聞いたリディアやリズ、ノエミ達超正確な射撃ができる弓使い達が防具を着けていない膝裏を狙って足を封じようとしているが、まだまだ時間がかかりそうである。
「こうなったら、私が二回目の女神武器の特殊能力を発動させて、ハイパーオーラバスターで攻撃をして、カリュドーンの足にダメージを与えるしかない……」
紫音が覚悟を決めた顔で、そう発言する。
「何さらっと日和って遠距離技で攻撃しようとしているのよ! あの大技だと足に大ダメージ与えるどころか回避されるだけよ。近距離から何とか波で攻撃しなさいよ!」
ソフィーがすばやくツッコミを入れた。
「だって、あのブタさん怖いんだよ! 見た目も攻撃も!」
「そんな弱気な事を言っている場合じゃないでしょうが!」
ソフィーのツッコミを受けた紫音が言い訳をすると、更にソフィーの突っ込みが入るがそこにマオが意見をしてくる。
「辞めておけ。今のお主ではオーラで刀身を維持しながら、そのような大技を使うのは無理だ。オーラの刀身で大剣を作って接近して、足に斬撃を入れてダメージを与える、この作戦にしておけ」
「どっちにしても、接近しないといけないよね?!」
紫音はすかさずマオの作戦にツッコミを入れるが、マオもすかさず反論してくる。
「あの程度の相手に、気押されていてどうする! オマエは魔王を倒すのではないのか?!」
そのマオの言葉を聞いて、ハッとした表情になる紫音。
「そうだね…。私は魔王を倒すのが目標なのに、ブタさんぐらいでひるんでいては駄目だよね…。お姉さん目が覚めたよ、ありがとうねマオちゃん」
紫音は、最近ちょいちょい忘れかける天音のような立派になりたいという気持ちを思い出し、ここぞとばかりにマオの頭を撫でるが、彼女に子供扱いするなと撫でていた手をはねのけられてしまう。
脇差を抜刀するとオーラを流し込んで、紫音は大太刀の刀身をイメージする。すると、オーラの刀身が形成させれ、刀身が2メートルぐらいあるオーラの大太刀を完成させる。
「これだけ刀身が長くても、オーラでできているから軽い! これなら、いつもの感覚で十分振れる!」
紫音はオーラの大太刀を右肩に担ぐように構えて、カリュドーンと伍ータムが戦う場所に向かうが、二体が激しく戦っている所にタイミングが測れずになかなか踏み込めずにいた。
そうこうしているうちに、カリュドーンの攻撃で伍ータムの右腕が破壊されてしまう。
紫音がカリュドーンの隙を窺っているのに気付いたリズは、ゴッデスロッドファミリアでカリュドーンの目の辺りを射撃するが、兜が邪魔をして有効なダメージを与えられなかった。
だが、紫音がオーラステップで急加速して近づく隙は作ることができ、彼女は肩から脇構えに構え直す。そして、カリュドーンの右膝裏を抜き胴の要領で横一文字に斬りつけて、そのまま反撃を受ける前に駆け抜けていった。
「グオォッ!?」
膝裏を斬られたカリュドーンは、切断するほどのダメージは受けなかったが右足の動きは鈍くなる。
帰ってきた紫音にマオが、冷静な口調でこう言い放つ。
「やはり付け焼き刃のオーラの刀身では、あの程度の威力であったな…」
「マオちゃんは、こうなることは解っていたのにお姉さんにやらせたの?!」
「あんな少し練習したぐらいの技で、上手く行かないのは考えれば解るであろう? 一朝一夕で、できれば誰も苦労せぬ」
「たしかに…そうだね…。お姉さん、初心を忘れていたよ…」
紫音は、最近<ハイパーオーラバスター>や<蒼覇翔烈波>を、たいした修練無しで使って戦果を上げていた。そのためこの世界で戦えるのは、元の世界での十年以上の剣の修業のおかげであることを忘れていたのだ。
「思い出させてくれてありがとう」と言いながら、また幼女の頭を撫でると、また手を払われてしまう。
(やはり紫音ちゃんは、やらかしてくれたね…。私がやるしかないね)
<ヒンヌーには荷が重かったようだ>と思ったかどうかは解らないが、アキは紫音の代わりに自分がやらねばならないと思った。




