210話 思わぬ事態
前回のあらすじ
厨ニの性で無駄にかっこいいポーズを取って、魔法を発動させようとするクロエ。
そして、その隙だらけな所にチョップを繰り出し邪魔する、空気を読まない紫音お姉さん。
「魔法なんだから、地面に拳を付ける必要ないわよね!? あと、シオン先輩はチョップじゃなくて、もっと有効的な攻撃をしなさいよ!」
二人が茶番を繰り返しているのを見てソフィーは、突っ込みの血が騒いだが強敵ケルベロスをあんな馬鹿な事で、引き付けていられるならいいかと思った。
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数度しおんチョップで、ケルちゃんインフェルノを邪魔されたクロエは、流石に埒が明かないと思って、ケルちゃんインフェルノを諦めて紫音に接近戦を挑むことにした。
(シオンお姉さんとは、あんまりやり合いたくないけど仕方がない)
クロエは左足を前に出して構えると、暫く構えたまま動かずに紫音にこれから格闘戦をする事を暗に示す。
紫音もそれを感じ取ると、左右の手で刀を抜くと峰を返して二刀流の構えを取る。
ケルベロスが人間かどうかは解らなかったが、紫音はその幼い姿から攻撃することが出来ずに峰打ちで戦うことにした。
クロエは紫音が構えるのを確認すると、オーラステップで急加速して間合いを詰めて、紫音の左足目掛けてローキックを放つ。
紫音はその蹴りをバックステップで回避すると、クロエは追撃して今度は横蹴りを放つが、紫音はまたバックステップで回避する。
クロエは、更に追撃して今度は紫音の顔に右手でパンチを放つが、紫音はそれもバックステップで回避した。
「いけっ! ケルちゃん!」
すると、右手に装着されたケルちゃんは、魔力を噴出させながらクロエの手から発射され、バックステップした紫音の顔面めがけて飛んでくる。
「え~!!?」
紫音は咄嗟に左右の刀を十字で構え飛んでくるケルちゃんを何とか防御するが、その間にクロエが紫音の左側面に回り込む。
(ごめんね、シオンお姉さん!)
彼女はケルちゃんの防御で、身動きが取れない紫音の左脹脛側面に蹴りを叩き込んだ。
本来なら膝関節を蹴って完全に動きを封じるのだが、クロエは紫音が相手なので躊躇し脹脛への蹴りにしたのであった。
「うっ!?」
とは言え、左脹脛を蹴られた紫音は、痛みで暫くその自慢のスピードを使えなくなってしまう。
クロエは、右手にベルちゃんを装着すると、紫音に連続攻撃を繰り出す。
足が痛くて回避行動がとれない紫音は、クロエから連続で繰り出されるパンチやキックを、左右の刀で何とか防御し続ける。
「どうだ、もう降参したらどうだ! 撤退でもいいよ!」
「ケルベロスちゃん! せっかくだけど、お姉さんは退くわけにはいかないの!」
クロエは攻撃を繰り出しながら、紫音に退くように促すと紫音は左足の痛みに耐えながら、柄にもなく継戦を選択した。
「地獄猛爪脚!!」
クロエは犬の足を模した靴のつま先から、爪を飛び出させると紫音の右手の打刀目掛けて、その爪付き犬足靴を打ち込む。
紫音はその蹴りを右手に持った女神武器の打刀で防ぐ。
すると、その瞬間―
「えっ……!?」
打刀<天道無私>は、金属の破断する音と共に彼女の目の前で折れてしまった。
決して折れないと思われていた女神武器が折れてしまったことには、いくつか理由がある。
その一つ目は、日本刀はその構造上から刃側からの衝撃には強く折れにくいが、峰側や側面からの衝撃には弱い。
紫音も勿論その事は理解していたのだが、彼女は女神武器の頑丈さを過信し過ぎていた為に、クロエの猛攻を全て峰で防御し続けてしまう。
二つ目は、クロエの犬の頭型グローブと犬足靴が『フェミニウムβ』で製造されており、紫音の女神武器は200年前に天音が使っていたモノであるために、旧式の『フェミニウムα』で製造されており、新型の『フェミニウムβ』に硬度で負けていた。
その2つが打ち合えば、硬度の低い紫音の打刀のほうにダメージが蓄積するのは仕方がない。
三つ目は、200年前の魔王との戦いで、既にダメージがそれなりに蓄積されていたのだが、女神武器は人間では補修も修理もできなかった。
その為ダメージが残ったまま紫音に使用される事になる。
「ソフィーちゃん!! 女神武器がボキって! 女神武器がボキって!」
紫音は折れた打刀<天道無私>を、暫く呆然と眺めていた後に混乱しながら、離れた場所にいるソフィーに向かって叫んで報告した。
「何をやっているのよ!! 兎に角こっちに戻ってきなさいよ!!」
その紫音の方向を聞いたソフィーは、彼女も突然の報告に少し混乱して、敵にも聞こえるような声で指示を出す。そんな事を聞けば相手がクロエでなければ、武器の壊れた敵が撤退するのを見逃すはずがない。
紫音が折れた女神武器を持って、半泣きでクロエの方を見て”撤退してもいい?”というような顔で見ると、クロエは申し訳無さそうな感じで黙って頷いた。
「折れちゃった……、どうしよう……」
紫音が、そう1人呟きながら撤退しようと、まだ痛みの残る左足を引きずりながら、戦場を後方に向かって歩く。
「ムモ~」
すると、エイクがちょうど進行方向にいた紫音に向かって、突進してくる。
「シオン先輩、危ない!!」
ソフィーの叫びを聞いた紫音は、慌てて周りを確認すると、可愛いヘラジカが猛スピードで自分に突進してくるのを確認し、その突進に対して回避行動を取ろうとしたが、左足の痛みのせいで素早く移動できずに、エイクに補足されてしまう。
「ムモ~」
エイクは左足を引きずりながら、逃げている紫音に容赦なく突進を続けた。
紫音は突進してくるエイクに逃げ切れないと思って、覚悟を決める
エイクは、何かとてつもなく頑丈な見えない壁にぶつかったように、衝突音と共に紫音の手前1メートルで停止した。
やはり、何かと衝突したのかエイクの周りは、その激しい衝突による衝撃で砂煙が立っている。
その光景を見守っていたソフィー、リズ、ミリアは何が起こったのか理解出来ずにいた。
そして、一番困惑していたのは紫音とエイクであった。
紫音は1メートル前の砂煙の中に、フードマントを付けた人物の姿を目撃する。
「やれやれ、余り世話を焼かせんでくれ…。おっと、いかんな…。ヘラジカの攻撃を防いだせいで、マントの魔力供給が切れてしまったか。誰かに見られる前に、姿を隠さねば…」
そう1人呟いた謎の人物は、フードマントに魔力を込めて、再び周りの景色と同化して姿を消す。
「ムモ~(泣)」
エイクは何が起こったか解らずに、その場で反転すると逆方向に逃げていった。




