206話 本拠点侵攻作戦順調
アキのゴーレム“伍ータム”は、その重厚で寸胴な巨体を揺らしながらゆっくりと歩く。
その歩くさまは威圧感すら感じられ、逆茂木と乱杭の設置されていた場所は、どんどん更地にされていき半分くらい排除した所で、危機感を感じたのかオーク達が本拠点から出てきて、“伍ータム”を排除すべく攻撃を仕掛けてきた。
“伍ータム”は、両手の穴から岩石攻撃をオーク達にしながらから、ゆっくりと後退してオーク達を冒険者達の待ち構える広場へと誘引する。
「攻撃開始!!」
各クランの団長の号令と共に、隊形を組んだ冒険者たちはオーク達に攻撃を仕掛けた。
元々数の上では、人間側約300に対して、オーク側は四天王と副官を合わせても50程で人間側は圧倒的に有利で、その兵力差を活かして次々とオークを撃破していく。
「偵察兵は、本拠点と周囲の警戒を怠るな! 三義姉妹やリーベがどこから仕掛けてくるか解らないからないぞ!」
ユーウェインはそう注意喚起をおこなうと、四天王ヨークシャーと対峙する。
もう一体の四天王イベリコはスギハラが相手をしていた。
副官ランドレースにはエスリンとソフィーが、残る副官ビゴールには紫音とアフラが攻撃を加えながら魔法使い達の詠唱が済むまで注意を引いて、詠唱が済み次第目標から離れて魔法攻撃で耐久値を削るという戦法をとっている。
紫音はビゴールに素早く近づくと、目の前で左右にステップしてフェイントを入れ、横を通り過ぎると斜め後ろから斬撃を加えた。
だが、ビゴールは反応するとその斬撃を手に持っていた剣で防ぐ。
紫音の片手で繰り出される斬撃は、スピードはあるが軽く簡単に受け止められてしまう。
(片手だと副官でも、体勢も崩せないんだ…)
紫音は自分の非力さを悔しく思いながら、一度距離を取るともう一度ビゴールに突進して、フェイントを使って惑わせると、素早く死角に入り込んで今度は左手に持った脇差を左から振りかぶって攻撃する。
ビゴールは、これにも反応するがこの斬撃は囮でわざと脇差の斬撃を武器で防がせ、その隙に右手の打刀で縦に振り下ろして、ビゴールの左肩にダメージを与えた。
だが、ビゴールはすぐさま斬撃を終えた紫音に、斬られた左腕でパンチによる反撃を行なう。
紫音は咄嗟にバックステップで距離を取って、そのパンチを回避するがビゴールはすぐさま間合いを詰めて追撃してくる。
紫音はもう一度バックステップで距離を取るが、ビゴールの突進の移動距離が長く追いつかれてしまう。
「!?」
追いついたビゴールは紫音に斬撃を放とうと剣を振り上げると、彼女は反射的に左右に持った刀を十字に構えて防御する。
「ハイオーラパーンチ!」
―が、の瞬間ビゴールの左側面にアフラが接近して、オーラを溜めた拳を叩き込む。
ビゴールは咄嗟に左腕に付けた篭手で防ぐが、それなりのダメージを与えることができ、さらに少し吹き飛ばすことに成功し、その間に紫音は体勢を立て直すことが出来た。
そして、吹き飛ばされて体勢を崩したビゴールの足元に魔法陣が現れ、火属性魔法が発動する。それは、ミリアが放った“インフェルノ“で魔法陣から吹き上がった巨大な炎の柱は、炎の渦を巻きながら、ビゴールに炎属性の大ダメージを与えた。
このような連携で、ダメージを与えながら耐久値を削っていき、遂にビゴールの耐久値を大幅に削ると、紫音はオーラを大幅に溜めた刀を構える。すると、ビゴールに突進しフェイントを入れ、死角に入ると刀を振り下ろして大きな光波を放つ。
「くらえ、蒼覇翔烈波!!」
紫音は、クロエに考えて貰った技名を今回はちゃんと記憶してきて、光波を放つと同時に叫んだ。
「グオオオオ!!」
耐久値を大幅に削られたビゴールはもはや回避する事はできず、“蒼覇翔烈波“をまともに受けると断末魔を上げて魔石に姿を変える。
(やったよ、クロエちゃん! 今回はちゃんと技名を言ってバッチリ決まったよ!)
紫音はそう思いながら、地面に落ちているビゴールが姿を変えた魔石を見ていた。
皮肉にもクロエが目の前の本拠点の中にいるとは知らずに……
紫音が副官ランドレースと戦うソフィー達の方を心配して見ると、丁度エスリンの神聖魔法“ゴッデスレイ”が発動して、耐久値を大幅に失ったランドレースの姿を魔石に変えたところであった。
四天王戦も順調に進んでおり、二体の四天王はかなり耐久値を失っていく。
流石の四天王も約50対1では、圧倒的に不利で注意を引く冒険者にそこそこのダメージを与えはしているが、それ以上に自分達の耐久値を失っていた。
周囲で戦っているオークたちも次々と撃破され数を減らしており、戦場にいる大半の冒険者達は今回の戦いは楽勝だと思い始める。
そして、遂に本拠点の中にいる眠れる冥府の番犬が目を覚ます。
「う~ん、なんか外がうるさいな~」
クロエは外の戦闘の騒音で目を覚ますと、まだ睡魔に襲われながら寝袋から出て、さらにテントの外に出る。
騒音のする本拠点外の様子を見るために寝ぼけ眼をこすりながら、城壁を登って外を見ると、そこには彼女の眠気を吹き飛ばす光景が広がっていた。
「なん… だと…」
その光景は、人間側の圧倒的な兵数とすでに倒されたのか姿の見えない副官2体、そしてオーク達も数を減らされ四天王も耐久値をかなり減らされ弱っている姿だった。
さらに設置していた逆茂木と乱杭も半分は排除されており、恐らくあの大きなペリカンのようなやつの仕業であろうことがわかる。
何故なら今も戦いをよそに、ご機嫌な感じで逆茂木と乱杭を踏み潰していたからだ。
「お約束な事を言っている場合じゃない! すぐに、エマ姉とアンネを起こさないと!!」
クロエはすぐさま城壁から地面に飛び降りると、二人のいるテントに走り出す。




