196話 連携
副官二人を撃破した紫音達は、次は四天王との戦いを始める。
スギハラはデュロックと暫く睨み合っていると、デュロックは左右の手に持った斧で攻撃を仕掛けてきた。
デュロックは二刀流による斧で、強力な連続攻撃をスギハラに仕掛けてくるが、彼は優れた動体視力と反射神経で何とか回避する。攻撃を仕掛けて隙のできたデュロックに、ノエミがハイオーラアローをその頭目掛けて放つ。
デュロックは、そのハイオーラアローを左に持った斧で切り払うと、その一瞬の隙を突いて右側から近づいてくるアフラに気付いて、右手の斧で彼女に攻撃する。だが、アフラは元から攻撃する気はなく、回避に専念したために難なく回避した。
アフラより少し遅れたタイミングで、縮地法で加速してデュロックの左側から接近したスギハラ。そして、デュロックがアフラに攻撃を仕掛けたと同時に、加速力とオーラを溜めた刀による高速の切り抜け斬撃技<風旋>を放つ。
<風旋>をデュロックの左胴に繰り出すと、スギハラはそのまま後方へ抜けて距離を取る。
「グッ?!」
「ファイアストーム!」
デュロックが、左胴に受けたダメージで少し体勢を崩した所に、足元に現れたクリスの魔法陣から、“ファイアストーム“の魔法が発動し炎の嵐がデュロックに炎属性のダメージを与える。
こうしてスギハラ、アフラ、ノエミが連携して手を替え品を替えデュロックの気を引いて、クリスの魔法で耐久値を削っていく。
デュロックもスギハラ達が自分を陽動しているだけなのに気付くと、クリスに右手に持っていた斧を投げつけ、それと同時に彼女に突進する。
デュロックの強靭な肉体で投げられた斧は、回転しながら高速でクリス目掛けて飛んでいく。
クリスは魔法詠唱中であった為に反応が少し遅れたが、距離があった為になんとか回避することができた。
だが、慌てて後ろに跳躍したので着地を上手くできずに、体勢を崩して尻もちをついてしまう。
「やらせない…!」
彼女に突進するデュロックにノエミは、矢を何度も射掛ける。
デュロックはその攻撃に少しのダメージを受けるが、意に介さずに突進を続け地面に刺さった先ほど投擲した斧を回収すると、地面から立ち上がろうとしているクリスに接近して右手の斧を振り下ろす。
「やらせるか、この豚野郎!!」
カシードはその長身で筋骨隆々な体に大盾を前面に構えて突進する“シールドチャージ“で、デュロックの右側から渾身の体当たりをして、デュロックの体勢を崩しクリスへの攻撃を中断させる事に成功する。
すぐに体勢を立て直したデュロックは、カシードに攻撃しようとするが彼が至近距離でいる為に斧が使えずに、その強靭な右腕に装着した篭手で盾越しに強力な一撃を叩きつけることにした。
「ぐおぉ!?」
カシードは盾越しであるにも関わらず、その強力な一撃に耐えきれずに吹き飛ばされてしまう。その打撃を受けた盾は凹んでいて、その威力の高さを物語っている。
クリスはその間に立ち上がり、少し距離を取っているがまだ安全ではない。
「空廻!!」
その間に追いついたスギハラが、後方から高く跳躍すると浴びせ蹴りの要領で、空中で前転してデュロックの背中をオーラの宿った刀で斬りつけるが、左手に持った斧で防がれてしまう。
スギハラが空廻を防がれたと同時に、アフラが右側から攻撃を仕掛ける。
デュロックはこの何度もおこなわれる同じ攻撃方法に、すぐさまアフラに反応して斧を振り上げ攻撃しようとするが、ノエミの連続オーラアローを顔面に受け彼女への攻撃を邪魔されてしまう。
「ラピット… アロー!」
彼女は4本の矢を右手の各指の間に挟んで持ってオーラを溜めると、弓の右側から番えて連続で素早く放つ。ノエミはその射法を用いて1.5秒で4本連射して、その後も同じ方法でデュロックの頭目掛けて連射していく。
最初の4本以外はオーラを溜めている暇はないので、普通の矢であまりダメージを与えられないが、その連射力でデュロックのアフラに対する攻撃への集中力は削ぐことができた。
デュロックは矢を頭に受け続けた為に、アフラへの一撃がただ振り下ろすだけになり、彼女はその斧を左手で下から支えた斜めに構えた右手のミトゥトレットで受ける。
すると、斧はそのまま斜めに構えたミトゥトレットの上を右下に向かって滑っていく。
これは、デュロックの一撃がノエミの妨害で精彩さを欠いたことも一因であるが、ミトゥトレットが女神の頑丈な金属『フェミニウムβ』が使用されていて、デュロックの斧より強度が上な為である。
右手の斧を受け流されて隙のできたデュロックの右の胴に、アフラはありったけのオーラを溜めた渾身の一撃を叩き込む。
「そこだっ! はいぱーおーらーぱーーんち!!!」
デュロックに命中したハイパーオーラパンチの衝撃で、強力な爆風が起きアフラは「はにゃあ~」と再び地面を転がるが、これは彼女にとっては幸運であった。
ハイパーオーラパンチはアフラの全オーラを消費するために、使用後は消耗しきって体に力が入らなくなる。
「きゅ~~」
アウラは体に力が入らずに、先刻の紫音と同じ地面に無防備で倒れたままになってしまう。
「ファイアストーム!」
ハイパーオーラパンチで大ダメージを受けて、大きく体勢を崩しているデュロックにクリスは“ファイアストーム”の魔法で追撃する。
「女神の祝福を我に与え給え!」
その間にスギハラは女神武器・司一文字を構えると祈りを込めて、オーラを司一文字に注ぎ込み特殊能力を発動させると、デュロックに追い込みをかけた。
「反撃する暇は与えねぇ!!」
スギハラはオーラを溜めた刀を自分の右の胴あたりで横薙ぎの構えを取ると、
「花冠!」
円を描くような、横薙ぎをデュロックの胴目掛けて振り抜き、すぐさま霞の構えに構え
「鳥嘴!」
高速の三段突きを喉の辺りに打ち込むと、バックステップで少しだけ距離を取り縮地で加速し
「風旋!!」
高速でデュロックの胴を横一文字に斬って抜け、素早く体を切り返してデュロックの方を向きながら脇構えに構えるとそのまま強力な右斬上を放つ!
「月下!」
オーラを宿した刀は三日月のような軌跡を描き、デュロックの背中に強力な一撃を与える。
「ハァ、ハァ…、奥義…、花・鳥・風・月!!」
スギハラが息切れしながらそう言うと
「バカナ…、コノオレガ…、ニンゲンナドニ…!?」
花鳥風月を受けたデュロックが満身創痍で、そう呟くとクリスの“ファイアストーム”の魔法が止めとばかりに発動して、その巨体を炎の嵐で焼き尽くす。
「グオォォォォォォォ!!」
“ファイアストーム”の魔法を受けたデュロックは、断末魔の声をあげて魔石へと変化する。
こうして、”月影”メンバーの見事な連携で四天王デュロックは撃破されたが、スギハラ達も満身創痍であった。




