189話 オーク戦二回目開始
オーク侵攻軍が来るのを、持ち場の堀の仕切りの出口で待っていた紫音は、前回のオーク戦を思い出していた。
(そういえば、前回もここで待っていたな。前回は初参加だったからクリスさんと一緒だったな……)
そして、紫音はある出来事を思い出し、横で待機しているソフィーに話しかける。
「そう言えば、ソフィーちゃん! 前回のオーク戦で、私のミリアちゃんをお菓子でNTRしようとしたでしょう!」
「突然何を訳の解らない事を言い出しているのよ! 前も言ってたけど、そもそもNTRって何よ!?」
「えー、ソフィーちゃん! 前回お菓子食べてたの?! 私も食べたかったよー!」
「アフラ…… これ……」
側に居たアフラが食べ物の話に反応し、お腹が空いたとばかりにお腹に手を当てると、それを見たノエミが彼女にバナナを差し出す。
「ありがとう、ノエミちゃん!」
アフラはバナナを受け取ると早速食べ始める。
「まったく、戦いの前だっていうのに呑気ね……。緊張感がないの、アナタ達は……」
ソフィーが、一連のやり取りの感想を呆れた口調で話した。
「ところで、ソフィーちゃん……」
「何よ?」
「私達の持ち場……、私達4人だけなの?」
「何よ、私達だけでは不満なの!?」
紫音の疑問にソフィーは、逆ギレ気味に答えた。
「少数精鋭……」
ノエミはジト目でそう答えた。
(ノエミちゃんとは、一緒に行動するのは2回目だな。前回は余り話してくれなかったから、あまり仲良くできなかったけど、今回はもう少し仲良くできるといいな…)
ノエミはリズと同じジト目だが性格は反対で、無口だが任務を確実にこなしクリスからも信頼が厚い。背は少し低く、表情を余り変えないために何を考えているのか解らず、ネコのような印象を受ける娘だ。
今回堀の仕切りの出口5つを担当するのは紫音、スギハラ、タイロン、エスリン、レイチェルであり、クリスはスギハラの補佐についている。
今回人数が少ないために、紫音の持ち場には少数精鋭と銘打っているが、最低限の人数しか配置されていないだけであった。
オーク達の先頭が500メートル先まで到達し、その場で隊列を整え始める。
屈強なオークの戦士達が、隊列を組んで人類側と対峙するとその後方で攻城兵器である投石機を組み立て始めた。
オーク軍団を率いるオーク四天王の1人デュロックは、戦いの前に軍団を鼓舞する。
「ワレラ、オークノチカラヲ、ニンゲンドモニミセテヤレ! ミナゴロシニシロ!」
「ウォオオオオオ!」
オーク達が一斉に雄叫びを上げ、武器を鳴らし戦意を高揚させ全て前回と同じ行動を取る。
これは、予め魔王によって命令されている行動で、侵攻軍の魔物達はその通りに役割を演じているからであった。
「来るぞ、全員戦闘態勢!!」
スギハラが号令を出すと、参加者は各々武器を構えてオークを迎え撃つ体勢を取る。
「投石機、攻撃開始!」
要塞の兵器指揮官が攻撃命令を降す。
命令とともに城壁に設置された投石機が、一斉にオークに対し投石を開始する。
だが、今回もオーク達は回避してあまり被害が出ていない。
デュロックは攻城兵器組み立てを待たずに、副官カゴシマに前衛部隊の突撃を命じた。
これも前回と同じ行動である。
違うとすれば、四天王のもう一体タムワースの行動であった。
「ワガブタイモ、シュツゲキセヨ! タダシ、モクヒョウハ、アノマンナカノ、スクナイトコロダ!」
タムワースの狙いを定めた所、そこは紫音の少数精鋭部隊が守る場所である。
オーク達は矢や魔法が飛び交う中を、勇猛果敢にダメージを負いながら駆け抜けてきた。
「ねえ、ソフィーちゃん…。オークの一団が、こちらに向かって来ている気がするんだけど……」
紫音は刀を構えてオーラを溜めてながら、ソフィーに事実確認をおこなう。
「そりゃあ、来るでしょう。ここ守り薄いし…」
ソフィーは、紫音の質問に冷静な感じで答えた。
「ハイ・オーラアロー…」
ノエミが淡々とハイ・オーラアローで迫ってくるオーク達に、ヘッドショットを決めていく。
紫音が堀の縁に侵入してきたオークに対して、さっそくクロエに考えて貰ったあの技名叫びながら放つ。
「いっけっーー! 蒼覇翔…以下略!!!」
紫音はまだ名前を覚えていなかったので、省略するという形でごまかした。
とはいえ、ホライゾン・ブレスト(旧名)の威力は変わらない、大きな光波は堀の縁を一直線に飛んでいき、縁に侵入していたオーク達を消滅させて魔石に変えていく。
「よーし、もう一回いくよー!」
紫音が次を放つために、刀にオーラを溜めていると、溜まりきる前にオークが堀の縁を抜けて、彼女の前に迫ってくる。
「!?」
紫音が刀にオーラを溜めながら慌てていると、彼女の頭の上をジャンプで飛び越してアフラがオーラを溜めたパンチをオークの頭上からその頭部に叩き込む。
「はいおーらぱーーんち!!」
そして、ここまで来るのにダメージを負ったオークにとどめを刺し魔石に変える。
ソフィーは紫音の横を抜けてもう一体のオークに、オーラを溜めた剣で斬りつけ魔石に変えた。
「アフラ! どうして、わざわざジャンプしてシオン先輩の頭の上を飛び越えたのよ! 横を抜ければよかったでしょうが。何が起きるかわからないんだから、無駄な体力を使わないの!」
アフラにダメ出しをする。
「ソフィーちゃんのいけず、ヒンヌー、私はソフィーちゃんと違って体力あるもん!」
アフラはソフィーに不満顔でブーブーとモンクを言う。
「誰がヒンヌーよ!」
ソフィーは、ヒンヌーという言葉にすかさず反応して、アフラにツッコミを入れる。
「よーし、今度こそ!」
オーラを溜め終わった紫音は刀を振り上げると、必殺技を放つ。
「いっけっーー! 蒼覇翔…蒼覇翔…なんとか!!!」
紫音は、もう一度チャレンジしてみたがどうしても思い出せず、そのまま刀を振り下ろしてしまった。
(ごめんね…クロエちゃん…)
紫音は大きな光波が、オーク達を消し飛ばしていくのを見ながら心の中で、クロエに謝っていた。




